ジェンダー平等とは、性別に関係なく全ての人が平等に機会を持ち、差別を受けることなく生活できる社会を指しています。
この理念は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つであり、目標5「ジェンダー平等を実現し、すべての女性と女児の能力強化を行う」として定義されています。
SDGsが採択された2015年以降、多くの国々がジェンダー平等の実現に向けた努力を重ねていますが、まだまだ格差は根強く残っています。
世界経済フォーラムの2022年「ジェンダーギャップ指数」によれば、男女間の格差を完全に解消するにはなんと、さらに132年が必要だとされています。この数字は、世界が未だに多くの課題を抱えていることを示しています。
ジェンダーギャップ指数の現状
日本におけるジェンダーの問題といえば、ビジネスの現場や政治、経済分野でのジェンダー格差が顕著であり、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では2022年に146カ国中116位に位置しています。
この結果は、先進国としては非常に低い水準であり、日本が古くから抱えているジェンダーの課題を如実に表しています。
具体的には、政治分野での女性の活躍が極端に少ないことがこのランキングに影響しています。
2022年時点で、日本の国会議員のうち女性の割合はわずか10%程度です。一方、アイスランドやノルウェーなどジェンダー平等が進んでいる国々では、女性の政治参加が50%を超えることも珍しくなく、国の政策決定における男女のバランスがしっかり取られているのです。
ジェンダー平等に関する現状と課題
日本における課題
ジェンダーギャップ指数と現状
日本は、経済分野や政治分野で特に男女格差が目立ちます。
ビジネスの現場では、女性が管理職に就く割合が非常に低く、2022年の統計では管理職の中で女性が占める割合はわずか14.8%でした。これは、働き方やキャリアアップの機会において、いまだに女性に不利な環境が残っていることを示しています。
政治分野ではさらに深刻です。
日本の国会議員の中で女性が占める割合は2022年時点で10%を下回っており、先進国の中でも最低水準です。こうした現状を改善するためには、法制度の見直しや、女性のリーダーシップを育てるための教育制度の整備が急務だと言われています。
労働市場での男女格差
日本における男女格差は労働市場に深く根付いています。特に無償労働とも呼ばれる家事や育児、介護を女性が担う割合が非常に高く、これが女性のフルタイム労働への参画を妨げる一因となっています。
OECDのデータによると、日本では女性の家事労働時間が1日平均で5時間以上に及ぶのに対し、男性は1時間30分程度です。
さらには賃金格差も見逃せません。
厚生労働省の統計によれば、日本の女性の平均賃金は男性の約75%に留まっており、非正規雇用の女性にとっては、経済的に不安定な状況が続いています。
途上国における課題
貧困とジェンダー問題
途上国、特にサハラ以南のアフリカ地域では、ジェンダー不平等が女性の貧困問題を深刻化させています。
例えば、ナイジェリアやエチオピアでは、教育を受けられない女の子の数がいまだに多く、2022年の報告では1億3000万人以上の女の子が学校に通えない状態にあるとされています。
中でも児童婚が一般的に行われている地域では、女性が教育を受けられる機会が極端に制限されており、貧困の連鎖から抜け出すことが非常に困難な状況なのです。
児童婚の影響で、若年の女性は教育を受ける機会を奪われ、経済的自立が不可能となっているケースが多く見られます。
さらには、早婚による母体の健康リスクも高く、出産時の死亡率が高い地域では女性の命が危険にさらされてしまうことも少なくありません。こうした現実は、単なるジェンダー不平等の問題にとどまらず、人権問題としても深刻です。
気候変動の影響
気候変動は、途上国におけるジェンダー不平等をさらに悪化させる要因となっています。
農業に依存するような地域では、干ばつや洪水などの気候変動による災害が頻発しますが、女性が家庭内や農業労働において中心的な役割を担っている場合、彼女たちには大きな影響が及びます。
例えばケニアでは女性の多くが農業を生業としており、干ばつが続くと収入が激減し、家族を養う手段が失われます。
また、災害時には女性が避難所での生活を余儀なくされることが多く、そこでは性的暴力や虐待のリスクが高まります。国際機関はこうした状況に対して特別な支援を行っていますが、十分な対策がまだまだ行き届いていない地域が多いのが現状です。
ジェンダー問題へのアプローチ
国際的な取り組み例
ユニセフと教育支援
ユニセフは、世界中で1億2900万人の女の子が学校に通えないという現状を重く受け止め、教育機会の提供に力を入れています。
紛争地域や貧困地域での活動が顕著であり、アフガニスタンやシリアなどの紛争地域では、学校を再建し、女の子たちに教育の場を提供する取り組みが進められています。
アフガニスタンでは、2021年にタリバンが政権を掌握した後、女性の教育が厳しく制限されました。
こうした問題から、ユニセフは国際社会と協力し、女の子たちがオンライン教育を受けられるようなインフラ整備を進めています。これにより、紛争や政権の影響を受けながらも、教育機会を守るための努力が続けられています。
WFPとジェンダー平等
世界食糧計画(WFP)は、農業におけるジェンダー不平等が地域の生産性や経済成長に与える影響を重視しています。
特にサハラ以南のアフリカでは、女性が農業労働力の60%以上を占めていますが、土地の所有権を持たないことや、技術教育を受ける機会が限られているため、十分に農業生産に貢献できていません。
そこでWFPは女性に対する技術教育やマイクロファイナンスの提供を通じて、農業技術の向上を支援し、地域全体の食糧安全保障を改善する取り組みを行っています。女性が経済活動に積極的に参加することで、地域社会のジェンダー不平等を是正する効果も期待されています。
マイクロファイナンスとは、低所得者層や貧困層が自分たちで小規模な事業を始めたり生活の改善に役立てたりするために、小口の融資や金融サービスを提供する仕組みのことです。
通常、銀行の融資を受けられないような人々に対して、低金利または無担保で貸し付けを行い、経済的な自立を支援することを目的としています。
日本政府の取り組み
ODAとジェンダー平等の推進
日本政府は、ODA(政府開発援助)を通じてジェンダー平等の推進に積極的に取り組んでいます。
2015年に決定された「開発協力大綱」においては、女性のエンパワメントと男女平等の達成が明記されており、中でも女子教育や女性の職業訓練を重視しています。
カンボジアやラオスでは、日本のODA資金を活用して新しい中学校の建設や改修が進められており、衛生的なトイレ環境を整備することで女子生徒の就学率向上を目指しています。これにより、女子教育の環境が改善され、ジェンダー格差の解消に貢献しています。
安倍政権下の女性支援プログラム
安倍政権下では、2013年から2015年にかけて30億ドルを超える女性の活躍と能力開発に向けた支援が行われました。特に、職業訓練や女子就学率の向上、村落給水の整備など、女性の生活環境を改善するための取り組みが進められました。
このプログラムは東南アジアやアフリカ地域で大きな成果を上げており、インドのデリーメトロでは女性専用車両が導入され、女性の社会参加が促進されています。
また農業分野においても、女性の農業従事者に対する支援が拡大され、農村部の女性たちが起業できる環境が整えられました。
民間団体の取り組み
ワールド・ビジョン
ワールド・ビジョンは、途上国における貧困層の女性支援に力を入れている国際的な民間団体です。
女性が現金収入を得るためのプログラムを提供し、経済的自立を支援していますが、例えばアフリカのケニアでは、女性たちが小規模なビジネスを始められるようなマイクロファイナンスを提供し、貧困から脱却するための手助けをしています。
ワールド・ビジョンのプログラムは、女性が経済的な力を持つことで家族や地域社会全体の生活水準を向上させる効果を生んでいます。こうした取り組みは、ジェンダー平等の実現に向けた重要な一歩となっています。
寄付先団体と具体的な活動内容
UN Women(国連ウィメン日本協会)
UN Womenは、女性の権利保護とジェンダー平等の実現を目指す国連機関で、世界中の女性に対する支援活動を展開しています。
紛争地域や貧困層の女性に対する支援が重要視されており、ジェンダーに基づく暴力の撤廃や、女性の経済的エンパワメントに焦点を当てています。
UN Womenの活動は、女性が直面する差別や暴力の問題に対処し、すべての女性たちが社会で自立し、活躍できるよう支援することを目指しています。一例ですが、南スーダンでは、ジェンダーに基づく暴力の被害を受けた女性たちに職業訓練を提供し、彼女たちが新たな生活を築けるようサポートしています。
公益財団法人 ジョイセフ
ジョイセフ(JOICFP: Japanese Organization for International Cooperation in Family Planning)は、女性の健康と権利を守ることを目的に活動する日本の非営利団体です。中でも女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に焦点を当て、母子保健や家族計画を支援する活動を世界各地で展開しています。
ジョイセフは、アフリカやアジアの途上国で女性たちが適切な医療サービスを受けられるよう支援し、安全な出産や性教育、避妊の普及を進めています。
さらには、女性のエンパワメントやジェンダーに基づく暴力の撲滅にも取り組んでいます。
一般社団法人 グラミン日本
グラミン日本は、バングラデシュで創設された「グラミン銀行」のモデルをもとに、日本国内でマイクロファイナンスを提供する団体です。グラミン銀行は貧困層や低所得者層が金融サービスにアクセスできるよう小額融資を無担保で提供することを特徴としています。これにより、経済的に困難な状況にある人々が自立し、生活を改善するための支援を行っています。
日本版グラミンでは、特に女性やひとり親家庭、非正規労働者など、社会的に弱い立場に置かれている人々を対象に、融資だけでなくビジネス支援やカウンセリングなどの総合的なサポートを行っています。融資は返済のプレッシャーを軽減するため、柔軟な返済計画を組むことができ、無理のない範囲での返済が可能です。
公益財団法人 日本ユニセフ協会
ユニセフは、女子教育の推進に加え、ジェンダーに基づく暴力の撤廃や、子どもたちが安全に学べる環境を提供する活動を行っています。
アフリカや中東地域での活動が活発であり、紛争や貧困の影響を受けた子どもたちに対して、教育機会を提供し続けています。
またユニセフは女の子が安全に学校に通えるよう、学校環境の整備や教育支援を行っています。男女別のトイレの設置や女性教員の増員を進めることで、女の子たちが安心して学べる環境を整えています。
国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン
ワールド・ビジョンは、教育支援や生活改善プログラムを通じて、途上国の女性や子どもたちを支援しています。特に経済的に困難な状況にある女性たちに対しては、マイクロファイナンスを提供し、自立を支援する取り組みが進められています。
まとめ
ジェンダー平等の重要性
ジェンダー平等は社会の発展と経済成長に不可欠な要素です。
女性が教育を受けながら経済的に自立することで、地域全体の経済成長や貧困の解消が期待できるのです。
世界銀行の調査によれば、女性が労働市場に完全に参加することができれば、世界のGDPは26%増加する可能性があると言われています。
またジェンダー平等を実現することで、家庭内での決定権や子どもの教育機会が改善され、次世代の女性たちにも良い影響を与えるはずです。
今後の課題
しかし、ジェンダー平等に向けた取り組みは進んでいますが、解決すべき課題はまだ多く残っています。
女性のリーダーシップ育成や労働市場での不平等の解消、国際社会においても途上国や紛争地域における女性の人権保護を強化し、彼女たちが安心して生活し、自立できる環境を整えることが必要なのです。
キフコの一言
私も女性という立場ですが、ジェンダー平等をみんなで達成するために、個人が持つべきマインドセットにはまず「固定観念にとらわれない柔軟さ」が必要だと思います。
性別に基づく役割や期待を過度に意識するのではなく、性別にとらわれない人それぞれの個性や能力に焦点を当て、他者を尊重する姿勢が重要ではないでしょうか。
そこでは「対話を重視する姿勢」も大切だと考えています。異なる立場や経験、能力、さらには身体的特徴を持つ誰かと対話を重ねることで、理解や共感が生まれ、偏見や誤解は解消されていくはずなんです。
また、「自分の特権を意識すること」も必要だと思います。自分が無意識のうちに享受している特権に気づき、それを社会的な公正さに活かすことで、誰もが平等に扱われる社会を実現するための行動が取れるかもしれません。
『私はあなたとは違うけれど、あなたのことを理解しようとする。完全に理解することはできないし、意見は異なっている。それでいい。あなたの人格を否定しないし、わたしも否定されない。』