SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに世界が直面するさまざまな社会課題を解決するための17の目標で、その中の1つである目標6は「安全な水とトイレを世界中に」という非常に重要なテーマです。
水と衛生は人間の基本的な生活を支える大切な柱であり、健康、教育、貧困の減少などとても多くの課題に影響を与えます。
しかし、世界中の多くの地域ではまだまだ安全な水や適切なトイレにアクセスできない人々が数多く存在しています。
SDGs(持続可能な開発目標)とは、Sustainable Development Goalsの略で、2015年に国連で採択された2030年までに達成すべき17の国際目標です。
これらの目標は、貧困、教育、環境、ジェンダー平等、エネルギー、経済成長など、幅広い社会的・経済的・環境的な課題を包括的に解決することを目指しており、すべての国や地域が協力し、誰ひとり取り残さない持続可能な未来を築くための指針です。
個人、企業、政府、国際機関など、あらゆるレベルでの参加が求められており、特に貧困や気候変動など地球規模の問題に対して、具体的な行動が必要とされています。
例えば、世界では約22億人が安全な水にアクセスできておらず、約42億人が安全に管理された衛生施設(トイレ)を利用できていません。
日本のように蛇口をひねればすぐに安全な水が出て、トイレもお風呂もいつも清潔に保たれている国ではこの問題を想像するのが少し難しいかもしれません。しかし例えばアフリカや南アジアの一部の地域では、水を汲むために数時間かけて移動することが日常的で、トイレのない環境では家や建物の外で排泄を余儀なくされる人々がいます。
このような状況は健康問題を引き起こし、さらには水を確保するために子どもたちが働かなければならず、教育や就業の機会を奪う原因となってしまうのです。
目次
SDGs目標6『安全な水とトイレを世界中に』
安全な水と衛生施設の定義
「安全な水」とは、飲料水として汚染されておらず、必要なときに必要な量だけ利用できる水を指しています。
一方、「衛生施設」とは、排泄物を適切に処理し、他の世帯と共有しない衛生的なトイレを意味します。
世界の22億人が安全な水を利用できていない現状
今現在、世界の約22億人が安全な水を利用できていません。
今なお発展途上国の多くの地域では上下水道などのインフラが整備されておらず、水道が家庭に引かれていないため、人びとは川や池、井戸などから直接水を汲んで使用することが一般的です。
ただ、こうした水源はしばしば汚染されており、細菌やウイルス、化学物質などが含まれることが多いため健康を害するリスクが高まります。特に下水設備がないことで、排泄物が適切に処理されず、水源に汚染物質が流れ込みやすくなり、これがさらに水質を悪化させる原因となっています。
それが原因で下痢や感染症が蔓延し、命を落とす人々も少なくありません。
衛生施設を利用できない42億人の課題
前述した上下水道のインフラが整っていないことにより、適切な排水設備や衛生施設がなく、世界には42億人もの人々が衛生施設(トイレ)を利用できていない現実があります。
特に農村部などの都市から離れた地域では、衛生環境の悪化がコレラや腸チフスといった水系感染症を引き起こし、特に女性や子どもが深刻な影響を受けています。
SDGs目標6の具体的なターゲット
SDGs目標6を達成するために、8つの具体的なターゲット(目標)が設定されています。
これらのターゲットは、安全な水の提供から水資源の持続可能な利用、衛生施設の整備、さらには国際協力まで幅広い課題をカバーしています。
- すべての人が安全で手ごろな価格の飲料水にアクセスできるようにする。
- すべての人が適切なトイレや衛生設備を利用できるようにし、野外での排泄をなくす。
- 未処理の排水や化学物質の排出を減らし、水質を改善する。
- 水の効率的かつ持続可能な利用を促進し、水不足に悩む地域を減らす。
- 国境を越えた水資源の統合的管理を行う。
- 水に関わる生態系(湿地、河川、湖沼など)を保護し、回復させる。
- 開発途上国における水と衛生の改善のために技術協力や教育を促進する。
- 地域社会が水やトイレを管理できるようにするため、コミュニティの能力を向上させる。
これらのターゲットに基づき、各国が協力して持続可能な水資源管理を実現し、将来的には全世界で安全な水と衛生が行き渡るよう取り組みが進められています。
現状とSDGs目標6が掲げられた理由
世界の水問題の現状
世界的な水不足、汚染、衛生問題の実態
世界中で安全な水へのアクセスが制限されている地域が広がっています。
これは単に水が不足しているだけではなく、工業排水や農業からの汚染物質が水質を悪化させているためです。
特に発展途上国では、この汚染された水を使わざるを得ない地域が多く、飲み水の安全性が脅かされています。
地球温暖化や気候変動による水資源への影響
地球温暖化による気候変動は、干ばつや洪水などの自然災害を引き起こし、農業や日常生活に必要な水供給に大きな影響を与えます。
極端な天候が水インフラに与える以下のようなダメージは、地域の脆弱性をさらに深刻化させます。
・洪水による破壊
大雨や洪水が発生すると、上下水道のパイプや浄水施設が破損したり、水源が汚染されたりします。浄水場や排水設備が洪水で浸水すると、水の供給が停止し、汚水が飲料水に混ざってしまう可能性があるため、健康被害のリスクが高まります。
・干ばつによる水不足
長期的な干ばつは水源の枯渇や水の供給不足を引き起こします。
インフラが存在していても、水源が枯渇すると水道を通じた水の供給ができなくなる場合があり、ダムや貯水池の水位が低下することで、水力発電に依存する地域などではエネルギー不足も同時に発生する場合があります。
・氷結や寒波による凍結
厳しい寒波の影響で水道管が凍結し破裂することがあります。これは、インフラが老朽化している地域で起こりやすく、結果として家庭や公共施設の水が絶たれてしまうのです。
・土砂崩れや地滑りによる破壊
豪雨などにより発生する土砂崩れは、地中に埋められた水道管や下水管を破壊することがあります。地滑りや地盤沈下によって配管がずれたり、破裂したりすることもあるのです。
こうした影響を受けることで、水インフラの機能が低下し長期間にわたる断水や水質の悪化が発生しやすくなります。
2030年までに目標6を達成するための課題
SDGs目標6を2030年までに達成するためには、現在の取り組み速度をおよそ4倍に引き上げる必要があると言われています。
国連による報告では、特に農村地域での進展が遅れており、インフラ整備の遅れや資金不足が大きな課題となっています。
目標6が掲げられた背景
水の偏在や水資源の不平等
世界には、水資源が豊富な地域とそうでない地域の格差があります。
先進国では、日常的に安全な水を利用できることが当たり前であっても、発展途上国では水の供給が不安定であり、特に乾燥地域などでは水資源の管理が難しくなっています。このような不平等を是正するために、SDGs目標6が掲げられました。
新型コロナウイルスによる水・衛生問題の深刻化
新型コロナウイルスのパンデミックは、手洗いや衛生設備の重要性を世界に再認識させました。
しかし途上国ではまだまだ手洗い用の水や石鹸すら十分に供給されておらず、感染症のリスクが高い状態が続いています。中には衛生に関する知識さえ乏しい地域すらあるほどで、こうした問題により水と衛生設備の整備、さらには衛生に関する教育が急務となっています。
水不足が教育、健康、女性の権利に与える影響
水不足や衛生環境の悪化は、特に女性や子どもたちに深刻な影響を与えています。
多くの地域で水を汲む作業は女性や子どもが担っていることが多いため、学校に通えない子どもたちが少なくありません。
また、トイレの不備が女性の健康や安全を脅かしているため、女性の権利保護にもつながる取り組みが求められています。
キフコの一言
トイレの不備が女性の健康や安全を脅かす理由は主に3つあると言われています。
まず、不衛生な環境での排泄は、下痢やコレラなどの水系感染症にかかるリスクを高め、月経中の女性の健康が脅かされてしまいます。さらには適切な月経管理ができないため、学校や仕事を休まないといけないので、教育や経済的な機会が失われてしまいます。
最後に、屋外で排泄せざるを得ない状況では、女性が性暴力や犯罪のリスクが上がってしまうんです。これは本当に恐ろしいことだと思います。だからこそ、トイレの整備は女の子たちの健康と安全を守るためにとっても大切なことなんです。
目標6に対する取り組みの事例
世界の革新的な取り組み事例
Ice Stupa Project(インド)の氷の塔による水供給
インド北部のラダック地方では、冬の雪解け水を貯めるために「Ice Stupa(アイス・ストゥーパ)」と呼ばれる氷の塔を建設し、水不足に対応しています。
このプロジェクトは、気候変動の影響を受けやすい地域での持続可能な水供給モデルとして世界各国から注目されています。
Warka Water(エチオピア)の大気から水を得る技術
エチオピアの村では、2015年に「Warka Water(ワルカウォーター)」と呼ばれる竹とメッシュ素材を使った塔が建設されました。
これは、空気中の水分を凝縮して飲料水を確保する技術で、水不足が深刻な地域で大きな助けとなっており、エチオピア以外の地域でも導入が進んでいます。
日本の取り組み事例
日本においても、企業が主導するSDGsへの取り組みが活発になっています。
LIXILなど日本企業による安全なトイレの普及
LIXILは、簡易式トイレ「SATO」を開発し、発展途上国に提供しています。これにより、衛生的なトイレ環境が整い、病気の予防に大きく貢献しています。
WOTA BOXによる水の再利用システム
日本のWOTA株式会社は、災害時にも使用できる水の再利用システム「WOTA BOX」を開発し、使用済みの水を効率的に浄化して再利用する技術を提供しています。この技術は、国内外の災害対応や水不足地域での利用が期待されています。
ヤマハの小型浄水装置の導入例
ヤマハ発動機は、セネガルなどの発展途上国に小型浄水装置を提供し、現地の人々に安全な水を供給しています。この技術により、1日あたり数千リットルの水が浄化され、地域住民の生活が改善されています。
目標6達成のために私たち個人ができること
寄付で支援する
SDGsの目標6を達成するために私たちができることの一つは、信頼できるNGOやNPOに寄付を通じた支援をすることです。
例えば、ウォーターエイドは安全な水とトイレの普及を目指して世界中で活動している国際NGOであり、寄付やボランティアを通じてその活動を支えることができます。
特定非営利活動法人ウォーターエイドジャパン(認定NPO法人)
ウォーターエイドは、1981年に設立された国際NGOで、すべての人が清潔な水と適切なトイレを利用できる世界を実現することを目指して活動しています。
活動の中心は、アジア、アフリカ、中南米などの発展途上国で、SDGsのゴール6「安全な水とトイレを世界中に」を達成するために、各地域に適した水と衛生設備の設置や衛生教育を提供しています。
これまでにウォーターエイドは、2,810万人に清潔な水を、2,880万人に適切なトイレを届けてきました。
彼らの活動の特徴は、地域住民や政府との協力を重視し、設備の設置だけでなく現地の人々が自ら管理・運営できる持続可能な仕組み作りを行うことにあります。現地の水問題の原因究明や、政府の能力向上、政策提言(アドボカシー)を通じて、地域社会の力で問題を解決できるようサポートしています。
ウォーターエイドの活動は、個人や企業からの寄付によって支えられており、貧困、教育、健康など他のSDGs目標達成にも大きく寄与しています。
その他の寄付や支援の際の注意点(詐欺リスクの回避)
寄付を行う際には、信頼できる団体かどうかを確認することが重要です。
詐欺や不正な寄付を防ぐためには、NGOやNPOが正式な認可を受けているか、またその活動内容や実績が明確であるかを確認することをお勧めします。公式ウェブサイトでの寄付や、透明性のある資金管理を行っている団体を選ぶようにしてみましょう。
「水循環基本法」について
水循環の重要性と国内での取り組み
水資源は地球全体で循環しており、1つの国や地域だけでの問題ではありません。
日本では2014年に「水循環基本法」と呼ばれる法律が制定され、水の健全な循環を維持することが法的に定められました。
水の使用や管理が、環境や社会に与える影響を考慮し、持続可能な水利用を目指すための枠組みを提供しています。この法律を理解し、日常生活における水の使い方や管理に注意を払うことが、個々人でも実践できる行動の一つです。
水循環基本法は、2014年に日本で成立した法律で、地下水を含む水資源を「国民共有の財産」とし、健全な水循環の維持と回復を目的としています。
この法律により、水循環政策本部(首相が本部長)が設置され、5年ごとに水循環基本計画を策定、水資源管理が一元化されることになりました。
それまで水資源の管理は、河川、工業用水、農業用水といった縦割り行政の弊害が指摘されていましたが、この法律で統合的な水政策が推進されることになりました。また、毎年8月1日を「水の日」として定めることで、国民の関心を高める努力も行われています 。(この日に合わせて、水資源の大切さや水環境の保全に関するイベントや啓発活動が行われています。)
食べ物に変身した水を大切にする
バーチャルウォーターと食料の生産における水資源の活用
私たちが消費する食べ物も、実は大量の水を必要としています。
このバーチャルウォーターという概念は、食料や商品を生産する際に使われた水の量を示します。
例えば、牛肉1kgを生産するのに約15,000リットルもの水が必要と言われていますが、日本は多くの食料を輸入しているため、世界中の水資源に大きく依存しています。
食品ロスを減らすことが水問題解決につながる
日本では、年間約600万トンもの食品が廃棄されています。
実はこの食品ロスを減らすことは、間接的にも水資源の無駄を防ぐことにつながります。意外かもしれませんが、食料の無駄を減らすことがSDGs目標6の達成にも寄与することを覚えておいてください。
日本にとってSDGs目標6とは
日本の水道インフラの老朽化と維持管理の課題
日本でも、安全な水の供給は当然のように思われていますが、実はその裏では水道インフラの老朽化が進んでいます。
インフラを維持・管理し続けることは今後の重要な課題ですが、災害時の対応や、都市部と農村部での水供給の差が特に課題となっています。
ですから、ここ日本国内においても水循環基本法や技術革新を通じて持続可能な水資源の利用が進められています。企業やNGOが国内外での水資源保護活動に積極的に取り組んでおり、これらの取り組みがSDGs目標6達成に向けた鍵となっています。
まとめ
SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、持続可能な未来を実現するためには欠かせない目標であることを理解いただけたでしょうか。
安全な水や衛生施設がないことは、健康問題や貧困、教育の機会損失など、さまざまな社会的課題と密接に結びついています。この目標を達成するに、国際協力や技術革新が必要不可欠なのですが、個人レベルでも、寄付や意識的な行動を通じて貢献することができ、持続可能な未来の実現に向けた力強い一歩を踏み出すことができるのです。