経済成長を支える企業や経営者が、その力を社会貢献にも向けて動かすことは、今世界的にも注目されている現象です。
特に2020年代に入り、地球温暖化や貧困といった深刻な問題は急速に増え、もはや国家や政府の取り組みだけで十分に解決できる状況ではありません。そこで、企業や富裕層の個人が社会の重要な課題解決に関与する動きが高まり、その影響力は年々拡大しています。
目次
SDGsやCSRの普及と企業の社会的責任
SDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)が近年広く周知されるようになり、企業の寄付活動に大きな影響を与えています。
SDGsは、2015年に国連によって採択され、2030年までに達成することが求められる17の目標で構成されていて、企業活動においては経済活動と社会貢献の両立が不可欠とされています。これに伴い、多くの企業が利益の一部を社会に還元する「企業寄付」の形で、SDGsの目標達成に貢献し始めているのです。
また、CSRの理念も広く浸透し、企業は単に利益追求のためだけでなく、社会の一員としての責任を果たすことが求められています。
CSRの実践として寄付を行う企業は多く、製品の売上の一部を社会貢献に回す寄付や、地域コミュニティへの支援を行うことで社会的な役割を担うことも増えている傾向にあります。CSR活動を実施する企業は、ただの「営利企業」ではなく、「社会と共存するパートナー」としての評価を受け、企業イメージやブランド価値の向上にもつながっていると言われています。
世界的な富裕層や著名経営者による寄付活動
世界に目を向けると、特に米国の大富豪が率先して寄付活動を行っており、その影響力は計り知れません。
マイクロソフト創業者ビル・ゲイツは、自身が設立したビル&メリンダ・ゲイツ財団を通じて医療や教育分野に多額の資金を寄付し、世界的な問題解決に向けた取り組みを継続的に行っています。
投資家で有名なウォーレン・バフェットは資産の多くを社会貢献に使うことを宣言し、これまでに莫大な額を慈善活動に投入。さらに彼らは富裕層の資産家たちに寄付を促す運動「ギビング・プレッジ」を共同で立ち上げ、世界中の億万長者に少なくとも資産の半分を慈善活動に寄付するよう呼びかけています。
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日本における寄付文化の浸透
日本でも富裕層や一般企業による寄付は以前よりも注目されていますが、これは特に東日本大震災をきっかけの一つとしてその傾向が顕著になりました。
災害時の支援を通じて寄付の必要性や緊急性が改めて認識され、最近ではSNSを活用したクラウドファンディングなど、寄付の方法も多様化しています。
コロナ禍においても、医療機関や地方自治体に対する寄付活動が増加し、特に富裕層や経営者、大企業がその支援の主力となりました。ソフトバンク創業者の孫正義氏や、ユニクロの創業者である柳井正氏も、コロナ禍において大量の物資を医療機関に提供したことは記憶に新しい出来事です。
なぜ、企業・経営者は寄付をするのか?
企業や経営者が寄付をするその背景には、社会的責任を果たす意義が根底にあります。企業イメージやブランド力を向上させ、ひいては経済的な価値も高めることができるとされていますので、近年は単に慈善活動としてだけでなく、事業戦略の一環として寄付を活用する動きも見られ、寄付に対する意義や目的はどんどん多様化しているんです。
社会的意義と動機
企業の寄付活動が注目されるのは、企業が社会の一員として公益のために貢献できるからであり、企業もまた、この責任を果たすことが持続可能なビジネスモデルの一部と認識している風潮があります。
ある調査では、消費者の約70%が「社会貢献活動に積極的な企業を支持する」と回答しており、こうしたデータは寄付活動の意義をさらに裏付けて流のでしょう。
CSRの中核として位置づけられる寄付活動は、顧客や株主に対して「社会への貢献」という強いメッセージを伝える効果もあるため、寄付は製品やサービスの消費にとどまらず、企業全体の価値を高める活動として期待され、CSRの枠を超えて企業の使命の一部となってきているのかもしれません。
その信頼や好感度は、競争の激しい市場において企業を差別化する一つの要素となっているのです。
動機は多様
1. 慈善活動としての意義
寄付はもともと、弱者救済や社会課題の解決を目的とした「利他的な行動」であり、多くの経営者はこの観点から寄付を行っています。特に、教育・医療分野への支援は、社会基盤の整備に直結し、長期的な価値をもたらすことから広く支持されています。
2. ブランディング効果の狙い
寄付活動は企業イメージの向上に貢献します。
たとえば、環境保護を重視するパタゴニアは、『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。』といったミッションを掲げ、利益の一部を環境NPOに寄付し、その活動を広く公表しています。
このような透明性かつ強い企業メッセージを表明する取り組みは、消費者に対して企業の価値観を訴求し、製品の選択にも強い影響を与えているはずです。
3. コミュニティへの投資として
企業が活動する地域やコミュニティ、関連団体に寄付を行うことで、地域社会との信頼関係を築き、長期的なブランド価値を確立する動きもあります。
地域密着型の企業などは、地元への支援を行うことで住民の支持を得て、企業活動の円滑化を図ります。地域支援の一環としての寄付は、特に小規模な企業において地域社会との結びつきを強化する役割を果たしています。
4. 税制優遇措置を活用した節税効果
法人による寄付金には、一定の税制優遇が認められており、損金算入限度額の範囲内で寄付金を経費処理することが可能です。中小企業にとってこうした税制優遇措置は負担を軽減しつつ社会貢献を実現する手段として有効であり、寄付のインセンティブとして機能しています。
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法的枠組みと税制優遇
日本の法人税法においても、寄付に対する優遇措置は設けられているため、法人は寄付金を経費として計上する際、指定寄付金や特定公益増進法人への寄付など、寄付金の種類に応じた制限が設けられています。たとえば、特定公益増進法人に対する寄付は、寄付金額の半額までが損金算入の対象となるといった具体的な枠組みがあります。
また、特定公益増進法人やNPO法人などに寄付した場合、個人でも一定の税控除を受けられるため、寄付を通じた税優遇は寄付を促す要因の一つとされています。
具体的な寄付事例と影響力ある企業・経営者リスト
社会課題解決に積極的に取り組む企業や経営者の中には、その象徴とも言えるほどの寄付を行う人々が存在します。ここでは、世界的に注目を集める著名な寄付事例を紹介します。これらの寄付活動は、企業や個人が社会に与える影響を強調し、寄付がもたらす可能性を示しています。
海外の著名な寄付事例
ウォーレン・バフェット:伝説の投資家と慈善活動
ウォーレン・バフェットは、世界有数の投資会社であるバークシャー・ハサウェイのCEOであり、「オマハの賢人」と称される伝説的な投資家です。これまでに総額560億ドル(約9兆円)を超える寄付を行っており、その多くがビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめとする慈善財団に渡されています。
バフェットは2006年に資産の99%以上を寄付する意向を表明し、2010年にはビル・ゲイツと共に「ギビング・プレッジ」という運動を共同で立ち上げました。
このギビング・プレッジは全世界の富裕層に対し、自らの資産の半分以上を生涯を通じて慈善活動に寄付するよう呼びかけるもので、この運動に賛同する富裕層は今もなお増え続け、世界中の社会貢献活動を促進する大きな原動力となっています。
バフェットは寄付活動について「社会の中で成功を収めたからこそ、社会に還元するべきだ」と話し、今後も残る財産の大半を社会貢献のために使用する意向を表しています。
ビル・ゲイツ:医療と教育に捧げる巨額の寄付
マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツもまた、世界で最も影響力のあるフィランソロピストの一人です。これまで約500億ドル(約7.5兆円)以上を医療や教育支援に充てており、特に低所得国の疾病予防や教育機会の改善に力を注いでいます。
2000年に設立したビル&メリンダ・ゲイツ財団は、結核やマラリアの予防プログラム、教育インフラ整備の支援などを行い、特に発展途上国の人々の健康と生活水準の向上に大きな影響を与えています。
ビル・ゲイツは、「お金だけで解決できない問題はあるが、資金がなければ解決の糸口も掴めない課題も存在する」と述べ、財団の活動が社会に与える影響の重要性を強調しています。
イボン・シュイナード(パタゴニア創業者):環境保護への全株寄付
アウトドア用品の大手パタゴニアの創業者であるイボン・シュイナードは、環境保護のためにパタゴニアの全株式(約4300億円相当)を寄付するという画期的な決断をしました。
彼は環境NPOである「ホールドファスト・コレクティブ」とパタゴニア・パーパス・トラストに株式を移し、事業の利益を環境保護活動に充てる構造を作り上げました。
この決断についてシュイナードは「地球が唯一の株主になった」と表現し、自身の企業をただのビジネスではなく、地球のための活動に昇華させる強力な意志を示しています。彼は創業当初から環境保護に関心を持ち続け、これまでもパタゴニアの売上の1%を環境保護活動に寄付するなど、サステナブルなビジネスモデルを確立してきました。
日本国内の寄付事例
孫正義(ソフトバンクグループ):災害支援と医療への貢献
ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏は、社会課題解決に向けた巨額の寄付を行っています。2011年の東日本大震災を受けて100億円を寄付し、さらに震災で被災した地域や人々への支援を行いました。
その後も新型コロナウイルスの感染拡大を受け、医療機関にマスク100万枚を寄付し、医療従事者を支援しました。
孫正義氏の寄付活動は災害やパンデミックといった緊急事態に際しての迅速な対応を特徴としており、これらの支援を通じて社会貢献に積極的に取り組んでいます。その行動力は、「経済活動だけでなく、人々の安全や安心も守るべきだ」という企業家としての使命感を強く感じさせます。
柳井正(ファーストリテイリング創業者):迅速な支援と社会的責任
ファーストリテイリングの創業者でありユニクロのオーナーでもある柳井正氏も、社会貢献に積極的に取り組む経営者の一人です。2011年の東日本大震災時に10億円を寄付し被災地支援に大きな貢献を果たしました。さらに2020年のコロナ禍では、医療機関や地域コミュニティへの寄付や物資提供を迅速に行い、支援体制を構築しました。
柳井氏の寄付活動は、企業家としての責任感を示すだけでなく、企業の迅速な対応が社会にもたらす影響を強く示唆しています。
伊藤雅俊(イトーヨーカドー創業者):地域社会と教育への長期的支援
日本の大手スーパーであるイトーヨーカドーを創業した伊藤雅俊氏は、教育や文化支援を通じた社会貢献を続けています。自身の資産をもとに設立した財団を通じて、地域社会や教育の発展に寄与しており、長期的な視点で社会に還元しています。彼の活動は地域社会への感謝を示すものであるとのことでした。
企業寄付の種類と方法
企業が社会貢献のために行う寄付には、さまざまな形式と方法があります。
それぞれの企業が自社の資産やスキルを活かし、目的に合わせた方法で社会に貢献しているため、ここでは企業寄付の主な種類やその具体的な特徴についてご紹介します。
金銭寄付
- 売上金の一部を寄付: 企業が特定の製品やサービスの売上金の一部を社会貢献に充てる形式です。環境保護や児童福祉に特化した製品の販売額の数パーセントを寄付することで、消費者にも寄付活動に参加している感覚を提供します。この方法は企業ブランディングとしても効果が高く、社会貢献への関心を顧客に伝えることができます。
- 経常利益の一部を使った寄付: 多くの企業では、年度ごとの経常利益の一部を社会貢献に充てています。特に大企業では、この利益配分を通じて規模の大きい社会貢献活動を可能にし、医療機関やNPOへの安定的な支援を行っています。
物品やサービスの提供
- 災害地への救援物資提供: 地震や台風などの自然災害が発生した際、多くの企業が自社製品を救援物資として提供します。食品会社が食料品や飲料を、日用品メーカーが衛生用品や衣類を寄付するように、被災地で必要とされる物資を迅速に届けることで、企業は地域社会に即座に貢献することができます。
- 医療機関への医療機器や設備提供: 新型コロナウイルス感染拡大時には、多くの企業が医療機器や防護用品を医療機関に寄付しました。医療機器メーカーが人工呼吸器やマスク、手袋などを提供することは、直接的な医療支援として大きな価値があります。
従業員参加の寄付(マッチングギフト)
近年注目を集める寄付方法として「マッチングギフト」をご存知でしょうか。
従業員が個人的に行った寄付額に対し、企業が同額を上乗せして寄付するという仕組みで、従業員が自発的に社会貢献に関わるきっかけとなるだけでなく、企業全体で寄付活動を行うという意識を共有する効果もあります。
- 企業によるマッチングギフトのサポート: マッチングギフトの導入により、従業員一人ひとりが自分の寄付が倍になる形で社会に還元できるため、寄付を行う意欲が高まります。米国ではこうしたマッチングギフトが盛んに行われており、少額からも始めることができるため、日本でも従業員の寄付参加を促す効果的な方法として注目が集まっています。
- プロボノ活動(専門スキルの活用): プロボノとは、従業員が持つ専門知識やスキルを活かして、非営利団体や地域活動を支援する取り組みです。IT企業の従業員がNPOのウェブサイト開設を支援したり、弁護士や会計士が法務・税務のアドバイスを行うケースが実際にあります。
まとめ:寄付文化の発展と今後の展望
寄付文化の発展
日本においても少しづつではありますが、寄付文化が浸透し、個人や企業の寄付活動が身近なものとなりつつあります。
2011年の東日本大震災をきっかけに日本国内でもクラウドファンディングやオンライン寄付が急速に普及、ふるさと納税のような身近な支援の形も広がりました。コロナ禍では、物理的な接続が絶たれてしまった社会の助け合いや共助の重要性が見直されました。
また最近では、日本国内の富裕層や経営者の間でも「フィランソロピック・イニシアチブ」として社会貢献が広がっており、個人資産を用いた財団設立やNPO支援の取り組みが増加傾向にあります。これは、欧米の富裕層による慈善財団の影響もあり、企業や富裕層の資産が社会的課題解決のために活用される動きが進んでいます。
キフコの一言
フィランソロピック・イニシアチブとは、「社会貢献を目的とした行動やプロジェクト」のことです。資産を持っている方や会社が、自分の持っているお金や知識、時間を使って、社会の問題を解決しようとする試みのことを指しています。
これは「みんながもっとよい生活を送れるように」との願いから始まり、フィランソロピック・イニシアチブによって、さまざまな課題を解決するための支援が増えることで、社会がよりよい方向に向かって進むことが期待されているんです。