自然保護とは、自然をただ保存するだけでなく、必要に応じて管理や改善を行い、未来の世代に良い状態で引き継ぐための広義の概念を指しています。
これは、「人間のために自然を保全する」だけにとどまらず、自然環境そのものの価値を重視し、生態系全体のバランスを保つことも含んでいるんです。
今回はそんな自然保護について詳しく解説していきますので、ぜひ最後までお読みください。
まず、自然保護の基本的な目的は、人間の健康や衣食住といった生活に必要な資源、さらにはリクリエーションやエンターテイメント、美的価値、教育的な観点からも自然を守り、利用できる状態に保つことにあります。現代社会では、生活と自然が密接につながっているため、これを良い状態で維持することが求められているのです。
自然保護は必ずしも「手を加えないでそのまま保存する」というだけではありません。
例えば、都市における公園の整備や里山の保全では、人の手による管理が欠かせません。むしろ、適切な管理や利用を含めた「生態系のバランスを考慮したアプローチ」が現代における自然保護の重要な視点です。
里山の例を挙げると、かつて日本の農村では住民が薪を採取し、雑木林を管理してきました。こうした人間の活動によって動植物の生態が維持され、自然と人間が共生する形で保護が実現していたのです。
目次
環境保全との違いと共通点とは?
自然保護と環境保全は同じ目的に向かうものである一方、アプローチが少々異なります。自然保護が「自然そのものの価値を守る」ことに重点を置いているのに対し、環境保全は「持続可能な利用」を目指しています。
環境保全は、経済活動の中で生じる環境への影響を最小限に抑え、自然資源を持続的に利用できるように管理するという考え方がベースにあります。
例えば、温室効果ガスの削減、プラスチック汚染の防止、再生可能エネルギーの推進などがその一例ですが、これに対し自然保護は、絶滅危惧種の生息地を守る、原生林の開発を制限するなど、生態系や環境のあるべき姿を保存することに重点を置きます。
いずれも環境破壊の防止や生態系の保護が目的であり、人間と自然の共生を目指している点は共通点になっています。
しかし、具体的な方法やその範囲が異なっていて、環境保全は広範囲のエコロジカルな課題を対象とするのに対し、自然保護は特定の地域や生物群にフォーカスする場合が多いのです。この違いは、地域や活動の状況に応じた柔軟なアプローチが必要であることを示唆しています。
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自然保護の三つの捉え方:防衛的保護、保存的保護、管理的保護
自然保護には主に三つの捉え方があります。それは、防衛的保護(protection)、保存的保護(preservation)、管理的保護(conservation)です。
- 防衛的保護(Protection)
防衛的保護は、自然に悪影響を及ぼす要因を取り除くアプローチで、外来種の除去や、環境破壊に繋がる開発計画の見直し、特定の野生動植物の保護区の設定がこれに該当します。例えば、砂漠化が進む地域で植林を行い土壌の流出を防ぐ活動も、防衛的保護の一例といえます。 - 保存的保護(Preservation)
保存的保護は原生自然や生態系をそのままの状態で保存することを目指します。いかなる人的干渉も避け、自然が自らの力で持続することを重視します。これには、日本の「原生自然環境保全地域」などが含まれます。人の手が加わらない地域は、貴重な生物多様性の宝庫であり、そのまま後世に引き継ぐことが重要視されます。 - 管理的保護(Conservation)
管理的保護は、自然の持つ資源を適切に管理しながら利用し続けるアプローチで、従来の保護や保存と異なり、自然環境に適切な働きかけを行うことで生態系を保ちながら人間の活動と調和させます。具体例として、里山における雑木林の間伐や再生可能エネルギーの利用も、自然環境への影響を抑えつつ持続可能な方法で資源を利用する管理的保護の一環です。
これら三つのアプローチは、状況や地域によって使い分けられていますが、すべてが一つの方向を目指すものではなく、各地域や生態系の特性に応じた最適な保護方法を考えることが自然保護において必要となっています。
自然保護に関する法律と政策
自然環境保全法とその対象地域
日本の「自然環境保全法」は、自然環境を次の世代に伝えることを目的に制定された法律で、1972年に施行されました。
制定の背景には、高度経済成長に伴う自然破壊の問題があり、急速な都市化や産業活動の拡大による環境破壊から国民の生活と自然を守るための法的枠組みが必要とされていました。この法律は、国土の中で特に優れた自然環境を保全するために、特定の地域を指定し、保護を図ることを目的としています。
「自然環境保全法」で指定される保全地域には、次のような種類があります。
- 原生自然環境保全地域
原生自然環境保全地域とは、人の手がほとんど加わっていない原生の自然状態を維持している地域を指します。この地域は、厳しい管理下に置かれ、人間活動の影響を極力排除するようになっています。面積の基準は、山岳地域であれば1,000ヘクタール以上、島嶼では300ヘクタール以上。例として北海道の「遠音別岳(おんねべつだけ)」が指定されており、エゾマツやダケカンバの森林が広がる原生の姿を今なお保っています。この地域では特に生態系への影響を避けるため、立ち入りが厳しく制限されています。 - 自然環境保全地域
自然環境保全地域は、優れた自然環境を維持している場所で、森林や湖沼、湿原など多様な自然環境が対象になります。この地域は、以下のような条件に合致するものが指定されます。- 高山や亜高山の植生(1,000ヘクタール以上)
- 特異な地形や自然現象(10ヘクタール以上)
- 自生植物や野生動物の生息地として適した環境(10ヘクタール以上) 例としては、静岡県の大井川源流部が挙げられます。ここでは、ブナの落葉広葉樹林から高山帯のハイマツまで多様な植生が見られ、自然の垂直分布が特徴的です。
- 沖合海底自然環境保全地域
沖合海底自然環境保全地域は、沿岸から遠く離れた海底で優れた自然環境が維持されている区域を指します。水深200メートルを超える海域が対象となり、特異な海底地形や自然現象が確認される地域が指定されます。この指定によって、海底資源の過剰な採取や破壊的な漁業活動から生態系を守る取り組みが行われています。
自然保護憲章と日本の自然保護方針
自然保護憲章とは、1974年に日本で制定された国民的な自然保護の指針で、自然環境を大切にする心を国民に育むための理念を掲げています。
制定の背景には、当時の急速な経済成長が引き起こした環境破壊や公害問題がありました。この憲章は、自然を人間の資源としてのみ扱うのではなく、自然そのものの価値を尊重し、次世代に豊かな自然環境を残すことを強調しています。
50周年を迎えた現在、「ネイチャーポジティブ」という自然再興の視点も加わり、より積極的な環境再生の必要性が認識されています。
ネイチャーポジティブとは、これまでに失われた自然を再生し、将来に向けて自然の回復力を高めることを目指すアプローチです。単なる保護にとどまらず、積極的に自然を再興する取り組みの必要性が叫ばれています。日本はこれからの50年、100年後を見据えた長期的な視点で、自然保護の新たなアプローチを模索しています。
国際的な保護条約と日本の役割
日本は、国際的な自然保護の枠組みにも積極的に参加しており、ワシントン条約(CITES)や生物多様性条約(CBD)などを通じて、国際社会との協力を進めています。
- ワシントン条約(CITES)
ワシントン条約は、絶滅の危機に瀕する野生動植物の国際取引を規制する条約で、1973年に採択されました。
この条約の目的は、絶滅が危惧される種の過剰な取引や密猟を防ぐことです。日本はこの条約の批准国として、輸出入規制を通じて、サイや象牙製品などの違法取引の防止に努めています。 - 生物多様性条約(CBD)
生物多様性条約は、1992年の地球サミットで採択されたもので、自然保護だけでなく、持続可能な利用や利益配分の公平性も目指しています。
日本はこの条約に基づき、国土に存在する生態系の保護や生物多様性の回復を目指す施策を実施。2010年に愛知で開催されたCOP10において「愛知ターゲット」という目標が策定され、2030年までに生物多様性の減少を食い止めるための具体的な行動が求められました。愛知ターゲットは、日本が国際的な自然保護に果たしている役割を象徴するものであり、今も生態系保全の指針となっています。
自然保護に関連する技術的アプローチと企業の役割
技術革新による自然保護(ドローン、リモートセンシング等)
現代の自然保護活動において、技術革新は欠かせない要素となっています。
特に、ドローンやリモートセンシングといった最新技術は、従来の人力による調査や管理を大きく補完し、自然環境の保全に大きく貢献しています。
ドローン(無人航空機)は、自然保護分野での利用が増加しているテクノロジーの一つです。今まで徒歩で行われていた森林や湿地の調査において、広大なエリアを効率的にカバーすることが困難でした。しかし、ドローンを活用すればアクセスが難しい地域でも簡単に上空からのモニタリングが可能で、ドローンに搭載したカメラやセンサーを使うことで、植生の変化や生物の生息地の状況を定期的に観測できるため、動植物の生態系に負担をかけずにリアルタイムで情報を得ることができます。
リモートセンシング技術も自然保護における重要なツールです。
リモートセンシングとは、衛星や航空機に搭載されたセンサーで地球環境を観測する技術で、熱や光、色の違いをもとに地表の変化を把握します。この技術は、広範囲の森林伐採の状況や海洋汚染の拡大、気候変動の影響などを把握するのに適しており、自然災害発生時の被害状況の確認にも役立ちます。
アマゾンの森林破壊の進行状況や、サンゴ礁の白化現象の度合いも、リモートセンシングによって把握されています。
これらの技術が組み合わされることで、自然保護における効率的かつ継続的なモニタリングが実現し、破壊の予兆を早期に察知することも可能です。技術の進化により、より精度の高いデータ収集が可能となり、自然保護活動の根拠となるデータの信頼性が向上しているのです。
企業の環境保全活動とエシカル消費
企業による自然保護や環境保全の取り組みも、現代の自然保護の大きな柱となっています。
清水建設は、環境配慮型の建築や都市開発に力を入れています。
建物の屋上や壁面に緑化を施し、都市のヒートアイランド現象の緩和に貢献。さらに、自然のエネルギーを利用する技術として、太陽光発電や雨水の再利用を取り入れたエコビルディングの開発を進めています。このように、建設業界でも環境負荷を減らす取り組みが進んでおり、持続可能な都市づくりへの貢献を目指しています。
サラヤは、環境保全を考慮した製品づくりを行っている企業です。
ボルネオ島での環境保全活動に積極的に関わり、熱帯雨林の保護やオランウータンの保護活動に資金を提供。さらにサラヤは、生分解性の洗剤やパーム油の持続可能な調達を目指す「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証製品の提供にも取り組んでいます。
自然保護のために私たちができること
個人ができる具体的な取り組み
日常生活の中で私たち一人ひとりが自然保護に貢献できる方法も数多くあります。
たとえば、エコラベル製品の選択は簡単で効果的な方法です。エコラベルとは、製品が環境への配慮をして製造されたことを示す認証で、日本では「エコマーク」などがお馴染みです。このマークが付いた製品を選ぶことで、日常生活において環境への負荷を減らすことができます。
また、電力会社を選ぶ際には再生可能エネルギーを導入している会社を選ぶのも効果的かもしれません。風力や太陽光、地熱などの再生可能エネルギーを利用する企業や団体を応援することは地球温暖化対策の一助となります。
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資といった投資方法を通じて、自然保護に積極的な企業に投資を行うことも一つの手段です。ESG投資は、持続可能な社会づくりに貢献する企業への資金提供を促進し、結果的に環境保全活動を支援することにつながります。
地域コミュニティでの自然保護活動とボランティア
地域コミュニティでの活動も、自然保護にとって重要な役割を果たします。
日本各地の里山保全活動は、地域の住民と共に自然を守る取り組みの一例です。里山の森林管理や水路の整備、外来種の除去など、地域住民がボランティアとして参加することで、身近な自然環境が守られており、ボランティア活動は自然保護団体とも連携して行われることが多く、地域全体での自然保護意識の向上につながります。
ボランティア活動と科学者の協力
最近では、ボランティアが科学者と協力して自然保護活動に参加する例も増えています。
絶滅危惧種の調査や環境影響評価の際に、ボランティアが現場でデータ収集に協力することがあり、このような参加型の活動は「市民科学(Citizen Science)」と呼ばれ、ボランティアの収集したデータが科学的な研究の基盤となります。市民が科学者と共に現場で協力することで、自然環境についての理解が深まり、データの精度も向上するのです。
未来の自然保護:持続可能な社会への道
持続可能な社会への展望
持続可能な社会の実現に向けて、私たちは自然保護を前提とした社会システムを構築する必要があります。
国際的な目標であるSDGs(持続可能な開発目標)には、自然保護と密接に関わる目標が複数存在します。たとえば、目標14「海の豊かさを守ろう」は海洋生態系の保全を目指し、目標15「陸の豊かさも守ろう」は陸域の生物多様性を保全することを目的としています。
これらの目標を達成することで、持続可能な社会を築き、未来に豊かな自然環境を残すための基盤が整うのです。
SDGsに関する記事はこちらから
環境教育と次世代へのアプローチ
持続可能な社会を実現するためには、次世代を担う若い世代への環境教育も重要です。学校教育や地域活動を通じて、自然保護の意識を育て、実際の活動に参加する機会を提供することができるでしょう。
小学校での森林教室や自然体験学習は、子どもたちが自然を身近に感じ、愛着を持つきっかけとなりますし、地域コミュニティによる環境保護イベントも、若い世代に自然保護の重要性を伝える場となるはずです。私たちの次の世代が環境保護を意識し、積極的に行動することで、持続可能な未来が形作られるのです。
このように、技術革新や企業活動、そして私たち一人ひとりの行動が積み重なって、自然保護が実現されます。個人と社会全体が自然を守る意識を共有し、未来に向けた環境保護活動を推進することで、次世代に豊かな自然環境を受け継ぐことができるでしょう。