丸わかり【里親制度】とは?養子縁組との違いや目的。里親になるために

里親制度とは、さまざまな事情で親と暮らすことができない子どもたちに、家庭的な環境での養育を提供する制度です。
この制度の目的は、子どもたちが愛情豊かで安定した生活を送り、心身ともに健全に成長することを支えることにあります。

児童福祉法を基盤とするこの制度では、行政や専門機関が子どもたちを保護し、適切な里親家庭へ委託します。
具体的には、親が育児放棄や病気、その他の事情で養育が困難な場合に、里親制度が支えとなります。これは単なる一時的な保護ではなく、子どもたちが安心して育つための継続的なケアを目的としているのです。

里親の種類

里親制度にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる役割を担っています。

  • 養育里親: 社会的養護が必要な子どもを家庭に迎え入れ、18歳までの長期的な養育を行います。これが一般的な「里親」のイメージに近いものです。
  • 専門里親: 虐待や非行、障害を抱える子どもたちを対象とし、専門的なスキルを持った里親が養育します。
  • 養子縁組里親: 将来的に養子縁組を希望し、子どもと新たな家族関係を築く準備を行う里親です。
  • 親族里親: 両親が死亡や失踪、拘禁などにより養育できない場合に、祖父母などの親族が里親となります。
  • 季節・週末里親: 夏休みや週末などの短期間、施設で暮らす子どもを家庭に迎える特別な形態です。

これらの選択肢により、多様な子どもたちの状況に対応し、最適な養育環境を提供しています。

里親制度が推進される背景

子どもの成長には、特定の信頼できる大人との安定した関係がなくてはいけません。
これを「愛着」と呼びますが、愛着が形成されない場合、子どもは自信を持てず、生きてくための基本的な社会的スキルを欠いたまま成長してしまう恐れがあります。

近年、日本では虐待や育児放棄の増加により、社会的養護を必要とする子どもたちが増えています。
しかし、全体の8割が施設で生活しており、家庭的な養育が十分に行われていません。

里親制度は、この問題を解決するための重要な施策であり、愛情に満ちた家庭環境が子どもたちにとってどれだけ大切かを再認識させてくれる存在なのです。

里親制度の今と、目標について

数字で見る現状

日本では、約42,000人の子どもが社会的養護を必要としているとされています。
そのうち80%近くが児童養護施設や乳児院で暮らし、里親家庭で育つ子どもは約20%にとどまります。この割合は、イギリスやアメリカなどの先進国で70%を超える里親委託率と比較すると非常に低い水準です。

特に3歳未満の子どもは、国際的には家庭養育が推奨されていますが、日本では多くが乳児院で過ごしており、家庭での愛着形成が十分に図られていません。
これが、将来的な社会的能力や自己肯定感の欠如につながるリスクがあると言われています。

社会的養護とは、親が病気や離婚、虐待、経済的な問題などで子どもを育てることが難しい場合に、子どもを守り育てるために社会全体でサポートする仕組みのことです。

具体的には、児童養護施設や乳児院などでの集団生活や、里親家庭での養育を通じて、子どもたちが安心して生活できる環境を提供します。この制度の目的は、子どもたちが愛情を感じながら心身ともに健康に成長できるようにすることです。

つまり、「家庭では難しい養育を社会みんなで支える取り組み」と考えると分かりやすいかもしれません。

国が掲げる目標

新しい社会的養育ビジョン」という方針のもと、日本政府は家庭養育を優先するための具体的な目標を掲げています。
これには、現在の施設養護の割合を減らし、里親養育を50%近くまで引き上げることが含まれています。この目標を達成するためには、里親の普及だけでなく、社会全体の里親制度に対する理解と支援の拡大が必要です。

地域差と成功事例

里親委託率は地域によって大きく異なります。
一部の自治体では、児童相談所に専任の里親担当者を配置し、体験発表会や広報活動を積極的に行うことで、委託率を向上させています。
例えば、先進的な取り組みを行う自治体では、里親同士の交流を促進する「里親サロン」や、短期的な養育支援を通じて潜在的な里親の開拓に成功しています。

こうした事例は、他地域にも広がるべき取り組みのモデルケースと言えるかと思います。具体的な成果を基に、全国的な普及活動をさらに強化することが期待されています。

養子縁組との違い

法的関係

里親制度養子縁組の大きな違いは、法律上の親子関係の有無にあります。

養子縁組では、養親と子どもの間に法律上の親子関係が正式に成立します。
特別養子縁組ではさらに、実親との法的な親子関係が解消され、養親が唯一の親となります。

一方、里親制度では法的な親子関係は成立しません。里親はあくまで子どもを一時的に養育する立場であり、親権は実親または行政機関が保持します​​。

この違いにより、里親は子どもが実親の元に戻る準備を整える役割も担っていて、法的な責任の範囲が異なるため、養育の目標や手続きが明確に区別されています。

役割と期間

また、養子縁組は子どもが永続的に新しい家庭の一員となる仕組みです。
特別養子縁組の場合には、子どもは新たな家庭で完全に新しい生活を始め、通常18歳を過ぎてもその関係が続きます。
しかし一方で、里親は短期的な養育から18歳までの長期的な養育まで柔軟に対応します​​。

里親の役割は、子どもが安全に育つ環境を一時的に提供することであり、子どもの状況が変われば委託期間が終了することもあります。
実親の状況が改善し、子どもが家庭に戻る場合や、養子縁組へ移行するケースもあります。

戸籍の違いと手続き

養子縁組では、子どもが養親の戸籍に「養子」「養女」として記載されますが、特別養子縁組の場合は「長男」「長女」と記載され、実親との関係が完全に切れるため、養親の戸籍上の実子として扱われます。

里親制度では子どもの戸籍はそのままであり、里親の戸籍に記載されることはありません​。

さらに、手続きの観点でも違いがあります。
養子縁組は家庭裁判所での審判を必要とし、特別養子縁組は厳格な審査が行われます。一方で、里親制度は児童相談所の手続きにより比較的簡便に委託が決定されます。こうした法的な違いを理解することは、子どもを迎える準備を進める上でとても重要です。


里親になるためには

登録のステップ

里親になるためには、いくつかのステップを踏む必要があります。
まず、地域の児童相談所に相談し、里親として登録する意思を示します。その後、所定の研修を受講し、家庭訪問や適性審査を経て正式な登録が認められます。
このプロセスは一般的に数か月から半年程度かかることが多いようです​​。

審査の際には、家庭環境や育児への意欲、心構えなどが重視され、登録が完了すると、児童相談所が適切な子どもと里親をマッチングし、委託が開始されます。

条件と基準

里親に求められる条件は自治体によって異なりますが、以下の基準が一般的です。

  • 安定した収入: 子どもの養育に必要な経済的基盤が求められます。
  • 適切な居住環境: 子どもが安全に暮らせる環境が整っていること。
  • 心身の健康: 育児に対応できる健康状態。
  • 心構え: 子どもの心理的な課題に対応する意欲や能力​​。

研修内容

里親として登録するためには、所定の研修を受けることが義務付けられています。
研修では、虐待経験のある子どもへの接し方や心理的なサポート方法、愛着形成の重要性について学びます。
また、家庭内でのルール作りや他の里親との交流を通じて、実践的なスキルを身につけます​​。

支援体制

里親には経済的な支援も提供されます。
養育里親の場合、1人当たり月額90,000円の手当が支給され、食費や教育費などの補助が受けられます。
さらに、里親が育児に疲れた際には「レスパイト制度」があり、一時的に子どもを別の里親や施設で預かる支援も行われています​​。

レスパイト制度とは、里親や養育者が一時的に子どものケアを休むことができる仕組みのこと。
子どもを一時的に別の里親や施設で預かってもらい、その間に里親が心身をリフレッシュしたり、家族の事情に対応したりできるようにサポートします。

育児や子どものケアには、想像以上に体力や気力が必要だと言われていますから、里親が無理をせず、安定して子どもを育てるための「お休み時間」を提供する大切な仕組みなのです。

また、児童相談所やNPO団体による相談窓口も充実していて、里親が孤立しないような体制が整備されています。こうした支援を活用することで、より安心して子どもの養育に取り組むことができます。

里親制度が持つ意義

子どもへの大いなる影響

里親制度の最も重要な意義は、子どもが家庭的な環境の中で愛着を形成し、健全に成長できる機会を提供することです。
特に、幼少期に特定の大人との安定した関係を築くことは、子どもの心理的な発達において不可欠だと言われています。
この「愛着形成」によって子どもは自己肯定感を育み、安心感を得ることで社会的な能力を伸ばす基盤を構築します​​。

また、里親家庭での生活を通じて、子どもは「家庭モデル」を獲得します。これは、適切な家庭生活を体験することで、将来自分が家庭を持つ際に役立つスキルや価値観を学ぶ機会です。
施設で育った子どもたちは、このようなモデルを学ぶ機会が限られることが多く、里親制度の役割がより際立ちます。

社会全体への波及効果

里親制度は、子どもたちが健全に成長するだけでなく、社会全体にもポジティブな影響を与えます。
家庭的養育を受けた子どもたちは、自己肯定感や基本的信頼感を持つことで、社会に積極的に関わる力が育まれると考えられています。その結果、将来的に社会的孤立を防ぎ、地域や社会全体の連帯感を強化する役割を果たします​。

里親制度は次世代の健全な育成を支える柱とも言えるかもしれません。
子どもたちが愛情深い環境で安心して育つことで、社会全体の福祉水準が向上し、虐待やネグレクトといった問題を減らす可能性があります。

里親支援体制の充実

児童相談所の役割

児童相談所は、里親制度を円滑に運営するための中心的な役割を担っています。
まず、子どもと里親をつなぐマッチングを行い、その後も継続的なフォローアップを実施。特に、信頼関係を築くための定期的な訪問制度が重要だと言われており、委託直後は2週に1回、その後は数か月ごとに訪問を行うことで、子どもの適応状況や里親の悩みを把握し、適切なサポートを提供します​。

相談体制も整備されており、里親が孤立しないように複数の相談窓口が設けられています。これにより、養育に関する課題が生じた際にも迅速に対応できる仕組みが構築されています。

NPOや地域の支援

地域のNPO団体や里親支援機関も、里親制度を支える重要な存在です。
これらの団体は、里親同士の交流を促進する「里親サロン」の運営や、研修の実施を通じて里親のスキルアップを支援しています​。

また、フォスタリング機関の活動も注目されています。これらの機関は、児童相談所と連携して里親家庭をサポートし、地域全体で子どもを育む環境を整備しています。こうした取り組みは、里親制度の持続可能性を高めるために欠かせません。

現役里親の体験談

現役の里親たちは、制度の魅力や課題を共有する重要な声を持っています。「子どもたちが自分に心を開き、成長する姿を見ることは、何にも代えがたい喜び」と語る里親もいます。
一方で、「初めは不安だったが、相談窓口や他の里親のサポートがあったから乗り越えられた」との声もあります​​。

こうした体験談を通じて、里親制度のリアルな姿を知ることができ、これから里親になることを検討している人たちにとって貴重な情報となります。

家庭的養護の優位性

施設養護との比較

施設養護は、多くの子どもたちにとって安全を提供する重要な役割を果たしています。しかし、長期的な施設生活にはいくつかの課題が存在します。その一つが、「家庭モデルの欠如」です。施設では、子どもたちが家庭生活を直接体験する機会が限られ、将来、自分の家庭を築く際にどのように家庭を営むべきかの指針を持てないことがあります。

また、施設で育った子どもたちは、個別の愛情を感じる機会が少なく、自己肯定感や基本的な信頼感を育むのが難しい場合があります。これは、将来的に社会的スキルの欠如や孤立感をもたらす可能性があると指摘されています。

家庭的養護のメリット

家庭的養護の最大の利点は、子どもが「愛着形成」を通じて安定感を得られることです。特定の大人と深い信頼関係を築くことで、子どもは自己肯定感を育み、他者と健全なコミュニケーションを取る能力を養います。このプロセスは、社会で成功するための基盤とも言えるでしょう​​。

さらに、家庭での日常生活を体験することで、「生活技術」を自然に学ぶことができます。例えば、料理や掃除などの実用的なスキルだけでなく、家族間のコミュニケーションや役割分担の重要性など、社会的なルールを理解する機会が増えます。これらの経験は、将来的な自立にも大きな助けとなります。

欧米諸国では、こうした家庭的養護の重要性が認識されており、多くの国で里親養育が社会的養護の中心となっています。日本でも、家庭的養護をより推進することで、子どもたちの将来により大きな可能性を開くことができるでしょう。


行動を起こすために

里親制度について関心を持った方は、まず地域の児童相談所に問い合わせるのが最初のステップです。各相談所では、制度の概要や登録プロセスについて詳しく説明してくれるほか、具体的な疑問にも丁寧に対応しています。

また、NPOや里親支援機関も有益な情報を提供しています。
例えば、フォスタリング機関では、里親候補者向けの研修プログラムや里親同士の交流イベントを開催しており、制度の実際について深く知ることができます​。

関わる

里親制度への参加方法は多岐にわたります。
長期的に子どもを育てる「養育里親」としての登録に加え、短期間だけ子どもを預かる「ボランティア里親」という選択肢もあります。この短期的な支援は、まず里親としての経験を試してみたい方にとって理想的な方法です。

また、自治体によっては「週末里親」や「季節里親」という制度を設けており、週末や長期休暇の間だけ子どもを迎え入れることが可能です。
このような柔軟な選択肢が提供されているため、ライフスタイルや家庭の状況に合わせて参加することができます​​。

まずは一歩を踏み出し、自分にできる範囲で子どもたちを支えることから始めてみませんか?
社会全体で子どもを育てるという理念を共有することで、より温かい未来を築くことができるはずです。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。