児童労働とは、子どもの健全な成長を阻害し、教育を受ける権利を奪うような労働を指します。
具体的には、15歳未満の義務教育年齢の子どもが教育を受けずに働くこと、または18歳未満の子どもが危険で有害な労働に従事することが含まれます。
国際労働機関(ILO)はこれらの労働を【児童労働】と定義し、中でも「最悪の形態の児童労働」について厳しく規定しています。
たとえば、子どもが人身売買や奴隷労働、危険物を扱う仕事に従事する場合は、即時に保護が必要とされています。
一方で、子どもの発達を助ける軽い労働、例えば適切な時間と対価で行われるアルバイトは、児童労働には該当しません。このように、「子どもの労働」と「児童労働」は明確に区別されるべきです。
目次
産業革命から現代へ
児童労働は、歴史的には産業革命期に顕著に増加しました。
18世紀後半のイギリスでは、工場や炭鉱で働く子どもたちの過酷な労働環境が記録されています。多くの子どもたちは長時間労働を強いられ、十分な賃金を得ることもできませんでした。
ヴィクトリア朝時代の児童労働者は、4歳という幼い年齢から危険な仕事に従事させられ、健康を害することも少なくありませんでした。
19世紀になると、児童労働を規制する動きが活発化し、イギリスやアメリカで最低就業年齢を定めた法律が成立しました。それでもなお、現在でも児童労働は続いており、特に開発途上国では根強い問題として残っています。
現状:児童労働の広がり
最新の報告によれば、世界中で約1億6,000万人の子どもが児童労働に従事しており、その約半数が危険有害労働に携わっています。
この数は、全世界の子どもの約10人に1人に相当。地域別では、サハラ以南のアフリカが最も多く、約8,600万人が従事していると言われています。この地域では、4~5人に1人の子どもが働いている計算になるのです。
産業別に見ると、農業分野が圧倒的に多く、全体の約70%を占めています。
次いで、サービス業(20%)や工業分野(10%)が続きます。
農業分野ではカカオやコーヒーなどの換金作物を栽培する作業、工業分野では鉱山や縫製工場での過酷な労働が挙げられます。
見えない児童労働。家事労働の実態
家事労働は「見えない児童労働」として注目されています。
多くの国では、家事使用人として働く子どもたちは統計に反映されにくく、その数は過小評価されがちです。ILOによれば、世界中で約5,400万人の子どもが週21時間以上の家事労働を行っています。その多くは少女であり、教育を受ける機会が失われることが問題視されています。
さらに、発展途上国では「ヤングケアラー」として家族を支える子どもたちも増加しています。これらの子どもたちは、親の介護や兄弟の世話をするために学校に通えず、結果として将来の選択肢が大きく狭められることになります。
児童労働の原因と背景
貧困は児童労働の最大の原因
児童労働の最も大きな原因は貧困です。
世界の多くの地域で、家族が最低限の生活を維持するために子どもを働かせざるを得ない状況があります。
親の収入が不安定または不足している場合、子どもの労働が家計の重要な支えとなります。特に農業や季節労働が多い地域では、この傾向が顕著です。
また、国全体が貧困に陥っている場合、教育や医療といった基盤が整わず、子どもたちは働かざるを得なくなります。このように、個人や家庭だけでなく、社会構造そのものが児童労働を助長しています。
教育機会の欠如
教育の欠如は、児童労働を生む大きな要因です。
多くの家庭では、学校に通わせる費用を負担できないため、子どもが学校に行く代わりに働かされます。
また、教育の価値が理解されていない場合、「学校に行っても生活が変わらない」と考えられることも少なくありません。
教育機関そのものが整備されていない地域などでは、子どもたちが学ぶ機会を得ることが難しく、児童労働が続く一因となっています。
文化的背景。それは差別や慣習
多くの国では、文化や慣習が児童労働の原因となっています。
例えば、カースト制度が根強い地域では、特定の階層の子どもたちが過酷な労働に従事することが普通とされています。
また、性別による役割分担が厳格な地域では、女の子が教育を受けることよりも、家庭内外で働くことを求められることが多いのです。
このような文化的背景は、児童労働の撤廃を一層困難にしています。
武力紛争や自然災害
戦争や自然災害も児童労働を助長。武力紛争のある地域では、親を失った子どもたちが生活のために働かざるを得ない状況に陥ります。
また、子ども兵士として強制的に徴用されるケースも報告されています。
さらに、自然災害によって家や財産を失った家庭では、子どもたちが働くことで生活を支える必要が生じます。
このように、災害や紛争は家庭だけでなく、地域全体の経済基盤を破壊し、児童労働のリスクを増大させます。
児童労働に対する世界と日本の取り組み
国際条約と目標
児童労働を根絶するための取り組みは、国際的な枠組みの中で進められています。特に重要なのが国際労働機関(ILO)が制定した以下の2つの条約です。
- ILO第138号条約(1973年)
この条約では、就業が認められる最低年齢を義務教育の終了後(通常15歳以上)と定めています。また、軽い労働に関しては一定条件下で13歳以上の就業を認める一方、危険な労働に従事する年齢を18歳以上としています。 - ILO第182号条約(1999年)
「最悪の形態の児童労働」を禁止することを目的とした条約です。これには人身売買や児童兵士としての徴用、性産業への関与、危険物を扱う仕事などが含まれます。この条約は2020年までにILO加盟国全てで批准され、国際的な基準として広く受け入れられています。
さらに、SDGs(持続可能な開発目標)では、目標8「働きがいも経済成長も」の中でターゲット8.7として「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撤廃する」ことが掲げられています。この目標達成には、政府・企業・市民社会が一丸となった取り組みが求められます。
キフコの一言
国際労働機関(ILO)は、世界中の働く人たちの権利を守り、より良い労働環境をつくることを目的とした国連の専門機関です。
1919年に設立され、現在は約190の国が加盟。
ILOは、労働に関する国際ルールを作るだけではなく、加盟国がそのルールを守るためのサポートも行っています。
最低賃金や労働時間の基準、児童労働や強制労働の禁止などを提案し、各国がこれらを守るよう働きかけています。
貧困や不平等をなくすために、雇用の創出や社会保護の仕組み作りを支援していて、すべての人が安全で人間らしい労働環境で働ける未来を目指したものなんです。
日本の取り組み
日本では、児童労働を防ぐための法的枠組みが整備されています。具体的には以下の法律が挙げられます。
- 労働基準法
労働基準法では、満15歳未満の子どもの労働を原則禁止しています。また、18歳未満の就業についても夜間労働や危険な業務に制限が設けられています。 - 児童福祉法
この法律は、子どもの福祉を保障する観点から、子どもが劣悪な環境で働くことを防ぐ規定を含んでいます。たとえば、道路での物品販売や有害な影響を及ぼす行為をさせることが禁止されています。 - その他の規制
映画や演劇などにおける児童の就労には、親の同意書や行政の許可が必要です。このような厳格な管理により、児童労働の防止に努めています。
啓発活動
啓発活動もまた、児童労働を減少させる重要な手段です。
毎年6月12日は、国際労働機関(ILO)が定めた【児童労働反対世界デー】とされ、世界各地で児童労働の問題についての意識を高めるためのイベントやキャンペーンが行われています。
日本でも、NGOや教育機関が主導してセミナーやワークショップを開催。これらの活動を通じて、児童労働の現状や背景を学び、解決に向けた行動を考えるきっかけを提供しています。
児童労働が及ぼす影響
健康と安全
児童労働に従事する子どもたちは、健康や安全が脅かされる環境で働くことが少なくありません。
農業分野では農薬や化学物質に直接触れるリスクがあり、工業分野では重い機械や危険物を扱うことが日常的です。これにより、呼吸器疾患や中毒症状、身体の発育不良といった深刻な健康問題を抱える子どももいます。
さらに、危険な労働環境下での長時間労働は、事故や怪我のリスクを増大させます。統計によれば、危険有害労働に従事する子どもは全児童労働者の約半数を占め、これが彼らの身体的な成長を大きく妨げています。
教育の喪失
児童労働が教育を奪う問題も深刻です。
子どもたちは働く時間が長いため、学校に通うことができず、基本的な読み書きや計算能力さえ身につけられない場合があります。これにより、将来的な職業選択肢が狭まり、低賃金の労働から抜け出せない悪循環に陥ります。
国際機関の報告によると、世界中で学校に通えない子どもの多くが何らかの形で児童労働に従事しており、これが貧困の連鎖を助長しています。
精神的影響
児童労働は子どもたちの精神面にも悪影響を及ぼします。過酷な労働環境や虐待的な扱いは、ストレスや不安を引き起こし、うつ病や自殺未遂といった深刻な精神的問題をもたらすことがあります。特に、性産業や人身売買の被害に遭った子どもたちは、トラウマから回復するために長期的な支援が必要です。
貧困の連鎖
児童労働は、貧困の連鎖を生む一因でもあります。
教育を受けられない子どもたちは成長しても安定した仕事に就けず、収入の低い労働に従事する傾向があります。その結果、自分の子どももまた働かなければならない状況が生まれます。これが地域社会全体の発展を阻害し、さらなる貧困を引き起こします。
成功事例と現代の課題
児童労働削減の成功要因
実は2000年から2016年にかけて、世界の児童労働者数はおよそ1億人減少しました。この成功には、いくつかの重要な要因が挙げられます。
まず、国際的な協調が大きな役割を果たしました。
ILOやユニセフ、国連の持続可能な開発目標(SDGs)による取り組みが進み、児童労働の問題が国際社会の注目を集めました。
特に、ILO第182号条約の批准拡大は、「最悪の形態の児童労働」をなくすための国際的な規範を確立し、多くの国で法整備が進みました。
さらに、教育へのアクセスが向上したことも重要です。
無償教育プログラムや学校の設立が推進され、多くの子どもたちが労働から解放されました。例えば、サハラ以南のアフリカや南アジアでは、教育支援プロジェクトが進行し、小学校への就学率が飛躍的に向上しました。
経済支援も成果を上げました。発展途上国では、貧困家庭に現金給付プログラムを実施することで、子どもを学校に通わせるインセンティブを提供しました。これにより、児童労働からの脱却が可能となった家庭が多く見られました。
コロナパンデミックによる逆風
しかし、2020年以降、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、児童労働の現状に大きな逆風をもたらしました。
世界的なロックダウンと経済の停滞により、1億6,000万人の児童労働者がさらに増加するリスクが浮上しました。
家庭の収入が激減したことで、貧困家庭では子どもの労働への依存度が高まり、農業分野では、学校の閉鎖により多くの子どもが学業を中断し、農場での労働に従事するようになりました。
また、性産業や強制労働に従事する子どもの数も増加したと報告されています。
こうした事態は、これまでの進展を大きく後退させる可能性があります。
パンデミックの影響を緩和するためには、経済的な救済策と教育支援を強化する必要があります。
私たちにできること
フェアトレード商品
私たちの消費行動は、児童労働の問題解決に直結しています。
フェアトレード商品を購入することは、児童労働のない製品を選ぶという明確なメッセージとなります。例えば、カカオやコーヒー、コットン製品には、児童労働が関与している場合があります。フェアトレード認証のついた商品を選ぶことで、倫理的な消費行動を推進できます。
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教育の普及
児童労働をなくすためには、教育の普及が欠かせません。
日本国内でも、児童労働についての啓発活動やワークショップを開催することで、多くの人が問題の深刻さを理解し、行動につなげることができます。さらに、開発途上国における教育支援プロジェクトへの参加や寄付も効果的です。
消費者の役割
消費者として、私たちは企業に対して責任あるサプライチェーンの確立を求めることができます。
製品がどのように作られたのか、児童労働が関与していないかを意識し、持続可能な製品を選ぶ行動は企業に大きな影響を与えます。
寄付やボランティア
児童労働を解決するために活動しているNGOや国際機関に寄付を行うことは、問題解決への直接的な貢献になります。
また、ボランティア活動を通じて現地の実態を知り、さらに具体的な支援を行うことも可能です。
最後に。児童労働をなくすために私たちができること
児童労働は、世界中で約1億6,000万人もの子どもが関わる深刻な問題です。
その背景には、貧困、教育の欠如、文化的な慣習、さらには武力紛争や自然災害といった複雑な要因が絡んでいます。
この問題は子どもたちの健康や安全を脅かすだけでなく、教育の機会を奪い、将来にわたる貧困の連鎖を生み出します。
これまで国際的な条約や法律、啓発活動を通じて多くの進展がありましたが、新型コロナウイルスの影響により児童労働が再び増加する懸念も高まっています。この課題を乗り越えるためには、個人として、また社会全体としての行動が必要です。
私たちができることは、フェアトレード商品を選ぶ消費行動、教育支援への参加、責任ある企業活動を後押しする選択、そして関連団体への寄付やボランティア活動など多岐にわたります。小さな行動の積み重ねが、世界中の子どもたちの未来を変える力になります。
児童労働をなくすことは、SDGsの目標でもあり、私たち一人ひとりの責任でもあります。
子どもたちが本来あるべき教育を受け、安心して成長できる社会を目指し、行動を起こしていきましょう。この問題は私たちの手で解決できるのです。