目次
1. SDGsの進捗状況:折り返し地点で見える停滞
2025年現在、持続可能な開発目標(SDGs)は達成期限の2030年まで残り5年となりました。
しかし最新の国連報告によれば、その進捗は非常に厳しい状況です。SDGsの169あるターゲットのうち、予定通りに進んでいるのはわずか17%に過ぎず、3分の1以上は進展が停滞、あるいは後退していることが明らかになっています。
特に新型コロナウイルス感染症の長期化、地域紛争の激化、地政学的緊張や気候変動の深刻化が世界的な足かせとなり、2015年に掲げた目標への道のりが大きく狂わされました。
この停滞の影響は各ゴールに現れています。
例えば極度の貧困層は近年再び増加傾向にあり、2022年には2019年比で貧困人口が2300万人増加しました。
飢餓に苦しむ人も1億人以上増え、食料価格の高騰が途上国を直撃しています。
また気候変動分野では、2023年が観測史上最も暑い年となり、地球の平均気温上昇がパリ協定の目標である+1.5℃の危機的閾値に迫っています。
こうした中間点での現状分析から、グテーレス国連事務総長も「より強力でより効率的な国際協力によって今すぐ前進を最大化させる緊急性」を訴え、残る数年間での巻き返しの必要性を強調しました。
SDGsの17ゴールそれぞれについて見ても、分野ごとに停滞や格差が顕在化しています。以下では、特に達成が遅れている主要な目標について、世界と日本双方の現状データを交えながら詳しく見ていきます。

2. 遅れが目立つ主な目標と現状の課題
2.1 気候変動対策(目標13)の停滞
気候変動はSDGsの中でも深刻な遅れが指摘される分野です。
2030年までに地球温暖化を1.5℃以内に抑えるには、世界の温室効果ガス排出量を今すぐ減少に転じさせ、2030年までに約半減させる必要があります。しかし現実には排出量は依然増加を続けており、このままでは今世紀末までに平均気温が2.5〜2.9℃上昇するペースだと国連は警告しています。
2023年の世界のCO2排出量も過去最高水準を更新し、各国の現在の対策目標(NDC)を合算すると今世紀末の気温上昇は約2.5℃に達する見通しです。
つまり、パリ協定で約束された水準にはほど遠く、抜本的な対策強化が求められています。
この遅れの要因としては、石炭など化石燃料への依存が依然根強いことや、再生可能エネルギーへの移行のスピード不足が挙げられます。日本を含む主要国でも、経済成長との両立に苦慮し政策が後手に回るケースが見られます。
実際、日本の「気候変動に具体的な対策を」(目標13)の達成度は主要先進国の中でも低く評価されており、その理由として化石燃料由来のCO2排出量の多さが指摘されています。
日本は2030年までに2013年比▲46%の排出削減目標を掲げていますが、石炭火力発電の残存や産業部門の排出が高水準にあることから、目標達成には一層の政策強化と技術革新が必要です。
一方で希望もあります。世界では近年、太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及が加速しており、発電量は過去5年間で年率1%のペースで拡大しています。
技術革新と国際協調により気候変動を乗り越える道筋はまだ残されており、残る5年で各国が排出削減を本気で実行に移せるかが問われています。
2.2 貧困と飢餓の克服(目標1・2)の停滞
極度の貧困と飢餓の撲滅はSDGsの根幹に関わる目標ですが、この領域でも進捗は鈍化し、地域間格差が広がっています。
世界の極度の貧困率(1日$2.15未満で暮らす人口割合)は、1990年には36%でしたが2015年までに10%以下にまで減少し、25年間で半減するという前進を遂げました。
これはミレニアム開発目標(MDGs)時代の大きな成功例です。しかしその後、紛争やパンデミックの影響で貧困削減は足踏みし、2020年以降はむしろ再増加に転じています。
2022年には極度の貧困状態にある人が全世界で増加に転じ、開発途上国を中心に開発の後退が懸念されています。
特にサハラ以南アフリカや南アジアでは、貧困率の減少ペースが鈍く、所得格差の拡大も課題となっています。
またウクライナ危機などによる穀物価格高騰は、飢餓人口の増加に拍車をかけました。世界ではおよそ6億9,000万人が十分な食料を得られておらず、これはコロナ前より1億人以上多い水準です。
こうした食料不安は子どもの発育不良や社会不安の要因にもなっています。
日本に目を移すと、絶対的な飢餓こそありませんが相対的貧困の問題があります。
厚生労働省の調査によれば、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%(2019年時点)と約9人に1人が貧困状態にあり、ひとり親世帯では50.8%とOECD加盟国中最悪の水準です。
このような所得格差は教育格差や就業機会の不平等にも直結し、貧困の世代間連鎖が懸念されています。社会保障や子育て支援を通じた国内貧困対策の強化とともに、日本としても海外への開発援助を通じて飢餓・貧困の撲滅に一層貢献することが求められています。

2.3 ジェンダー平等の実現(目標5)の遅れ
ジェンダー平等は「誰一人取り残さない」社会の実現に不可欠ですが、世界的に見ると依然として多くの課題が残っています。
例えば各国の法制度を見渡すと、世界の約55%の国には未だ女性に対する直接・間接の差別を包括的に禁止する法律が整備されていない状況です。
政治・経済分野での女性参画も道半ばで、2023年時点で各国の議会に占める女性の割合は平均約26%に留まります。
また女性の就業率や賃金は多くの地域で男性を下回り、コロナ禍では女性の雇用が特に大きな打撃を受けたことも報告されています。
日本においてもジェンダー平等の達成は大きな課題です。
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に関する日本の評価は主要国中でも低く、特に国会議員の女性比率の低さ(衆議院で一桁台)や男女間賃金格差の大きさが深刻な問題とされています。
実際、日本の男女の平均賃金格差は約22%(OECD平均は約12%)と先進国の中でも開きが大きく、管理職に占める女性の割合も一部企業を除き依然として低水準です。こうした状況の背景には、長時間労働や固定的性別役割分担といった構造的な問題や、政治分野でのクオータ制未導入など制度面の遅れがあります。
ジェンダー平等に関する指標は横ばいか改善がごく緩慢なものが多く、近年は女性に対する暴力やオンライン上のハラスメントといった新たな課題も浮上しています。
それでも、多くの国で女子の教育機会は拡大し、現在ではほとんどの地域で女子の就学率が男子と同等以上になりました。
日本でも企業による女性活躍推進や育児制度の拡充など前向きな変化が進みつつあります。残り5年でジェンダー平等を飛躍的に進めるには、法制度の整備とともに、私たち一人ひとりが職場や家庭で固定観念を改める意識改革も欠かせません。
2.4 教育と学習機会の不平等(目標4)の課題
教育は貧困や不平等を断ち切る最大の手段ですが、コロナ禍以降、その進展にも陰りが見えています。
世界では初等教育への就学率は概ね8割台後半まで向上したものの、2020~2021年の学校閉鎖により学習の遅れが深刻化しました。
現在、小学生のうち基礎的な読解力を身につけられる子どもの割合はわずか58%にとどまり、2人に1人近くが読み書きの最低水準に達していないとのデータもあります。特に低所得国では、教師や教育インフラの不足により質の高い教育へのアクセスに地域格差が残っています。
女子教育に関しては、過去数十年で顕著な改善がみられます。初等・中等教育における女子の就学率は男子と同等になりつつあり、教育のジェンダー格差は縮小してきました。
しかし依然として貧困や紛争の影響下で学校に通えない子どもは世界で2億人規模に上り、その多くが女児です。また教育の内容面でも、気候変動やデジタルスキルといった21世紀型の学びを提供できていない学校が多い現状があります。
日本では就学率や学力平均値こそ高い水準にありますが、家庭の経済状況による教育格差が問題となっています。先述のように子どもの約1割が貧困状態にあり、そうした家庭の子どもは塾や習い事など学校外教育を受けにくいため、学力や進学率で大きな差が生じています。
実際、生活保護世帯の子どもの大学進学率は33.1%と、全体平均(73.2%)の半分以下に留まります。
コロナ禍では日本でもオンライン授業への移行が遅れ、家庭のインターネット環境による学習機会の差が露呈しました。こうしたデジタルデバイドも含め、教育の機会均等を図る政策が国内外で急務です。
2.5 安全な水と衛生へのアクセス(目標6)の遅れ
清潔な水とトイレの確保は健康や人間の尊厳に直結する目標ですが、未だ世界の多くの地域で達成には程遠い状況です。
2022年時点で、世界では約22億人(4人に1人)が安全に管理された飲料水を自宅で入手できず、約34億人(5人に2人)は安全な衛生設備(トイレ)を利用できていません。
さらに約20億人は石鹸と水で手を洗う環境が家庭にありません。人口増加や都市化に伴って水需要が高まる一方、気候変動により干ばつや水害が水資源を不安定にし、安全な水へのアクセスが脅かされています。
このままでは2030年までに全ての人に安全な水・衛生を行き渡らせることは難しく、現状の進捗ペースを5~8倍に引き上げる必要があるとされています。
特にサブサハラアフリカや南アジアの農村部では井戸や川の生水に頼る地域が多く、水汲みの負担は女性や子どもに偏っています。また下水処理の未整備により、水質汚染が健康被害を及ぼすケースも各地で報告されています。
日本では幸いほぼ全国民が安全な水と衛生設備を利用できますが、世界の水危機は巡り巡って影響を及ぼします。
例えば水資源を巡る国際紛争や、大規模な感染症の流行は日本の安全保障や経済にも跳ね返ります。日本政府や企業は、水インフラ技術や衛生管理のノウハウを活かして途上国支援に取り組んでおり、今後も官民連携でSDGs目標6の達成に貢献することが期待されています。

3. SDGsの進捗が停滞する原因:複合的な要因
これほど多岐にわたる目標の達成が遅れている背景には、いくつもの複合的要因があります。主な原因を整理すると以下の通りです。
- 資金と開発援助の不足:SDGs達成には莫大な投資が必要ですが、その資金が決定的に不足しています。国連は、特に途上国向けのSDGs関連投資が年間4兆ドルも不足していると試算しています。
多くの開発途上国では債務危機に陥る国もあり、持続可能な開発に振り向ける予算の余裕がありません。その一方で2023年の世界の軍事費は2兆7千億ドルを超え過去最高となるなど、人類は財源を十分に持ちながらも配分の優先順位を誤っている面があります。開発資金の不足は貧困やインフラ整備の遅れに直結するため、国際社会による資金拠出の強化と金融システム改革が急務です。 - 政策の優先度とガバナンスの課題:各国政府にとってSDGsの目標は重要であるものの、短期的な経済政策や国内政治に押されて後回しにされることがあります。
選挙周期の短さや政権交代によって長期的視点の政策が継続しにくい問題も指摘されています。また腐敗やガバナンス不全により、せっかくの予算が現場に届かないケースもあります。
SDGsは政府だけでなく、企業や地域コミュニティなどあらゆる主体の協力を要するため、政府主導のトップダウンだけでは限界があるのも事実です。 - デジタルデバイド(情報格差):急速にデジタル化が進む世界ですが、その恩恵から取り残されている人も少なくありません。
2023年時点で世界人口の3割(約26億人)はインターネット未接続であり、オンライン教育や遠隔医療、電子決済などSDGs達成を支えるサービスを享受できない人々が存在します。
都市と農村、先進国と途上国の間でのデジタル格差は、教育・経済格差をさらに広げる要因となっています。日本国内でも高齢者や過疎地でのICT利用率の低さが課題で、行政サービスのデジタル化に乗り遅れる自治体もあります。デジタル技術はSDGs推進の強力な武器である反面、それ自体が新たな格差を生まないよう包摂的な普及策が必要です。 - 市民の認知不足と関心のギャップ:SDGsは徐々に社会に浸透してきたものの、その内容や自分との関わりについて深く理解している人ばかりではありません。
日本では「SDGs」という言葉自体の認知率は9割近くに達しますが、「関心がある」と積極的に答える人は半数程度に留まります。言葉は知っていても自分事として捉えていない層がまだ多く、特に年代が高くなるほど関心度が下がる傾向があります。またSDGsは範囲が広いため、何から手を付けて良いか分からないという声もあります。
市民の理解と参加が進まなければ、政治や企業の動きも鈍くなってしまうため、わかりやすい啓発や教育が重要です。 - 官民連携・パートナーシップの不足:SDGsのスローガンである「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)が示すように、政府・企業・NGO・市民が連携してこそ持続可能な社会は実現します。
しかし現実にはセクター間の連携は十分とは言えません。たとえば行政と民間企業の情報共有不足や、政府による規制・制度整備の遅れで企業のやる気が削がれるケース、逆に企業が掲げるSDGsの目標がPR止まりで本業に落とし込まれていないケースなどがあります。
また国際的な官民連携プロジェクトも資金面・調整面で難航しがちです。こうした連携不足を解消するには、共通のプラットフォーム作りや成功事例の横展開など、異なる主体を結びつける仕組みが求められます。
以上のような要因が絡み合い、SDGsの前進を阻んでいます。
加えて、世界的なパンデミックや戦争、気候災害など予期せぬ危機も達成を遅らせる要因となりました。
しかし原因が複雑だからといって手をこまねいている時間はありません。むしろ残り5年間でこれらのボトルネックを一つ一つ取り除き、社会のあらゆる層を巻き込んで行動を起こすことが求められています。

4. 市民一人ひとりにできる具体的アクション
SDGsを達成するには政府や企業の取り組みだけでなく、私たち市民一人ひとりの行動が不可欠です。
とはいえ「自分に何ができるのか分からない」「日常生活で意識するのは難しい」と感じる人も多いでしょう。
ここでは、日々の暮らしや仕事の中で実践できる具体的アクションを提案します。心理的なハードルや実践上の課題にも触れながら、参加しやすくなる工夫を考えてみましょう。
- 日常生活で持続可能な選択をする:毎日の買い物や移動、エネルギーの使い方を少し見直すだけでも、大勢が実行すれば大きな効果につながります。例えばレジ袋を断ってマイバッグを持ち歩いたり、使い捨てプラスチックを減らす工夫は簡単に始められる行動です。
日本では2020年のレジ袋有料化以降、レジ袋の使用量が半分以下に減少したとのデータがあり、消費者の小さな選択の積み重ねが社会全体の資源消費削減につながる好例です。ほかにも節電・省エネを心がけて二酸化炭素排出を減らす、環境ラベルの付いた製品を選ぶ、フードロスを出さないよう食材を使い切る、といった行動がSDGsに直結します。「自分一人が頑張っても大勢に影響ないのでは」と思いがちですが、その一人が何百万と集まれば企業や自治体の方針も変わるほどの力になることが実証されています。 - ボランティアや地域活動に参加する:時間や労力を提供するボランティア活動は、SDGs達成に向けた直接的な貢献になります。
忙しい社会人にはハードルが高いと感じるかもしれませんが、日本企業の中にはボランティア休暇制度を設けて社員の社会参加を支援するところも増えています。例えば年に数日の有給ボランティア休暇を与えることで、社員がNPOの活動や地域の清掃・美化活動に参加しやすくしている企業もあります。
自治体によっては、市民ボランティアをマッチングする窓口やポイント制度を設けているところもあります。最初は単発のイベントでも構いません。自分の住む町のゴミ拾いや、子ども食堂での配膳手伝いなど、小さな関わりから始めてみましょう。現場を体験すれば社会課題を身近に感じられ、継続的に関わりたい分野が見えてくるはずです。 - 寄付やふるさと納税で支援する:金銭的な支援も、市民ができる重要なアクションです。寄付というと大金が必要なイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
例えば月に1000円でも、継続的に寄付することでNPOの活動を安定的に支えることができます。また日本独自の仕組みとしてふるさと納税があります。これは生まれ故郷や応援したい自治体に寄付すると税控除が受けられる制度で、自治体によっては子育て支援や環境保全、災害復興などSDGs関連のプロジェクトを寄付金で実施しています。
自分の納める税金の一部を社会課題解決に役立てることができるため、寄付初心者にも取り組みやすい方法です。寄付先を選ぶ際、「本当に役立つのか」「信用できる団体か」と迷うこともあるでしょう。その場合は自治体や信頼できる基金経由の寄付、あるいは実績が公開されている認定NPO法人などを選ぶと安心です。少額でもお金の出し手になることで、社会を支える当事者意識が芽生え、さらに別の行動にもつながっていきます。 - 職場や学校でSDGsを推進する:自分の属する組織内でできることも多くあります。例えば会社員であれば、勤務先での省エネ提案やペーパーレス化の推進、SDGsに関する社内勉強会の実施など、小さな提案でも積み重ねれば職場全体の意識が変わります。
学校であれば、SDGsをテーマに自由研究を行ったり、生徒会でフードドライブ(食品寄付)活動を企画することもできます。最近は地方自治体や企業が連携してSDGsワークショップやアイデアコンテストを開催する例も増えており、優秀な提案は実際の政策や商品化に結びつくこともあります。
身近なところから「こうしたらもっと持続可能になるのでは?」という視点で働きかけてみましょう。それが周囲の人を巻き込むきっかけになり、やがて大きなムーブメントにつながる可能性があります。 - 声を上げ、投票で意思を示す:もう一つ大切なのは、社会のルールを決める政治や企業の方針に対して、市民が意思表示をすることです。
具体的には、選挙でSDGsや環境問題に熱心な候補者を支持したり、消費者としてエシカルな企業の商品を選ぶといった行動です。またSNSや地域の意見交換会で、自分が関心を持つ社会課題について発信したり提言することも効果があります。
かつて「若者の政治離れ」が叫ばれましたが、昨今では若い世代の気候ストライキやジェンダー平等を求める声が実際に政策を動かす例も出てきました。企業も消費者の声には敏感で、環境配慮を求める声が高まったことで脱プラや脱炭素の潮流が加速しています。「どうせ自分の声など届かない」と諦めず、小さくても発信を続けることが社会を変える原動力になります。
以上のように、市民にできる行動は実にさまざまです。
それぞれが自分の得意分野や無理のない範囲で取り組むことが長続きのコツです。最初は心理的抵抗があっても、一度始めてみれば意外と簡単であることに気づくでしょう。
大事なのは完璧を目指しすぎないことです。すべての目標に取り組むのは難しくても、「私は目標○番に特に貢献している」と実感できる分野を持てれば、それが他の目標への関心も広げていくはずです。

5. 残り5年、未来への希望と私たちの責任
2030年まで残り5年という時間は決して長くありません。しかし、あと5年もあるとも言えます。
かつて世界は15年の間に貧困人口を半減させ、オゾン層破壊という環境危機を克服し、HIV/AIDSの新規感染を劇的に減少させるなど、数えきれない成功例を積み重ねてきました。それらは決して一夜にして成し遂げられたわけではなく、無数の市民や団体、政府の小さな行動の積み重ねが臨界点を超えたときに実現したものです。
SDGsにおいても、希望の兆しは随所に見られます。再生可能エネルギーが競争力を持ち始めたことでクリーンエネルギーへの転換は想像以上に加速していますし、インターネット普及率がここ8年で70%も上昇したことで、世界中の人々が知識と機会を共有できる基盤が整いつつあります。こうした進歩はすべて、個人の創意工夫や献身があってこその成果です。
残り5年を「もう半分しかない」と捉えるか、「まだ5年もある」と捉えるかで、行動のモチベーションは変わります。
重要なのは、私たち一人ひとりが自分にも社会を変える力があることを信じ、日々の選択に責任を持つことです。仮に世界中の10億人が毎日それぞれSDGsに資する行動を一つ起こせば、5年で累計1.8兆回もの前向きな行動が取られる計算になります。その中から、生態系を守る画期的な技術が生まれるかもしれません。社会的弱者を救う新たな制度が立ち上がるかもしれません。そして何より、その姿勢は次世代への模範となり、持続可能な価値観が社会に根付いていくでしょう。
最後の5年間は、SDGs達成に向けた希望と責任の両面を意識する期間です。
目標を達成できなかった場合、犠牲になるのは弱い立場の人々や未来の子どもたちです。その責任を果たすために、私たちは今を生きる一員としてできる限りの行動を取る義務があります。
同時に、あと5年あれば状況を好転させられるという希望を胸に、諦めず挑戦を続けることも重要です。小さな行動でも、それが連鎖して大きなうねりとなった例は歴史上何度も証明されています。ですから、どうか悲観しすぎず、それぞれが自分の役割を果たしましょう。
あと5年後、「誰一人取り残さない」という約束が果たされた社会を迎えるために──今こそ私たちの行動が問われています。