『日本の寄付総額2兆円の正体――“返礼品”と“本当の寄付”の狭間で考える』

はじめに —— 「ありがとう」と「返礼品」のあいだに

夕方、スマートフォンを眺めながら、ふと「どこかに寄付をしてみようかな」と思う瞬間があります。
ニュースで目にした子どもの貧困や災害支援、気候変動の話題が胸に残り、少しでも何か役に立ちたいと感じたからかもしれません。

翌日、ふるさと納税のサイトを覗いてみると、返礼品の魅力や控除制度のわかりやすさに驚きます。
「寄付」なのに特産品も届く。制度として賢く使える。
こうして、「寄付をした」という感覚と、「返礼品を受け取った」という満足の両方を手にする人も多いのではないでしょうか。

しかしその一方で、あなたのその一歩が、どれほど社会課題の解決に使われているのか。
あるいは、返礼品競争のような“消費の延長”になっていないか。
寄付市場が急拡大するいまこそ、静かに問いかける必要があります。

今回は、日本の寄付市場が「過去最高の2兆円」といわれる背景を分析し、
数字の裏にある構造や課題を読み解いていきます。

日本の寄付市場はどこまで大きくなったのか

日本における寄付市場は、この10年で大きく伸びています。
とくに個人寄付は、ふるさと納税を含めると 2兆円規模に達し、過去最高水準です。

2024〜2025年にかけて、ふるさと納税の寄附金額は 約1兆2,700億円 といわれ、こちらも過去最高です。
寄付経験者の裾野が広がったことは確かで、「寄付=特別な行為」ではなくなりつつあります。

興味深いことに、寄付に対し肯定的な人の割合もこの数年で増加しており、
「社会のために使いたい」「自分にできることを知りたい」といった価値観の広がりが見られます。

しかし――
この数字がそのまま「社会課題の解決を支えた金額」になっているわけではありません。

「2兆円」の内訳を見てみると見えてくること

● ふるさと納税は寄付なのか?

多くの統計は、ふるさと納税での寄附金も“寄付”として計上します。
しかし実際には、次のような特徴があります。

  • 返礼品目当ての行動が主になる
  • 実質2,000円の自己負担
  • 税控除が大きな動機
  • 社会貢献より「お得さの最大化」が重視されやすい

つまり、心理的には「寄付」ではなく「買い物・節税」に近い行動であり、
ここに寄付市場の数字が大きく膨らむ構造が存在します。

これが「2兆円」の正体のひとつです。

● 寄付市場の“分断と偏り”

研究によると、日本の寄付は次のように“分散”していると指摘されています。

  • ふるさと納税(消費・返礼品型)
  • 災害寄付(一時的・感情的)
  • 国際協力(緊急性あり)
  • 子ども支援や福祉(長期支援)
  • ペット・動物保護
  • 医療・研究支援

それぞれの寄付動機や関心が異なるため、
「どの課題にどれだけ資金が流れているか」が見えにくい状態です。

とくに、長期的に支援が必要な子ども・教育・福祉分野は、資金が集まりにくい傾向が続いています。

寄付が増えた背景にある社会・心理の変化

寄付市場を押し上げたのは「制度」だけではありません。

● 災害の頻発

地震・豪雨・台風が増え、「他人事ではない」という意識が高まっています。

● パンデミック

COVID-19を経験し、命・医療・生活安全を考える時間が増えました。

● 情報発信の変化

SNSやニュースで“寄付の呼びかけ”が目に入りやすくなりました。

● 税制・ふるさと納税の普及

「返礼品があるなら試してみよう」というライト層が流入。

つまり、社会不安と制度が相乗し、「寄付行動への心理的ハードルが下がった時代」といえます。

寄付市場の拡大が抱える本質的な課題

■ 問題①:「返礼品」と「寄付」の境界が曖昧

返礼品競争のなかで、寄付の目的が「社会のため」ではなく
「返礼品を選ぶ行動」へとシフトする現象が起きています。

これは寄付文化の形成を歪める可能性があります。

■ 問題②:支援の偏りと“長期課題”への資金不足

災害のたびに寄付が集中し、
翌年には一気に寄付金が減る傾向があります。

その結果、

  • 子どもの貧困
  • 教育アクセス
  • 障害児支援
  • 社会的孤立
  • 医療的ケア児支援

など 長期で支える必要のある領域は、慢性的な資金不足 に陥りやすい。

■ 問題③:寄付の透明性・ガバナンスへの要求が増大

「本当に信頼できる団体なのか?」
「成果はどこで見えるのか?」

寄付者の情報需要が高まる一方、NPO側が十分に情報発信できていないケースも多いです。

これからの寄付市場を考えるために必要な視点

寄付が世の中で広まることは、非常に大切です。
しかし、寄付の“質”と“効果”を高めるためには、個人が次の視点を持つことが重要です。

● ① 「誰のための寄付か」を確認する

返礼品の有無ではなく、
誰に届き、どのような変化が生まれるか が大切です。

● ② 「長期的に支えられている分野か」

教育・子ども・福祉・医療――
これらは短期の寄付では解決しません。

● ③ 情報公開・ガバナンスに注目する

NPOの透明性は信頼の基盤です。
理事構成、財務、成果指標(インパクト)、事業費割合などを確認することが重要です。


おわりに —— 寄付は「未来への投票」です

2兆円――
この数字は日本の寄付文化が育ちつつある証拠でもあります。

しかしその一方で、
「返礼品の消費」なのか
「未来への投票」なのか、
その違いをどう見つめるかが問われています。

寄付は、社会の課題を少しずつ変えていく力です。
そしてその方向を決めるのは、寄付をする一人ひとりの意思です。

あなたの寄付が、
ほんの少しでも未来の誰かの「選択肢」になることを願っています。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。