目次
はじめに──「働くしかない」という選択肢しかない子どもたち
ダッカ郊外の縫製工場。
ミシンの音が絶え間なく響く室内で、少年ラフィク(仮名)は布を押さえ続けています。
学校に通っていたのは、ほんの数年前まで。
洪水で家が浸水し、父の仕事がなくなったあと、彼の一日は工場で始まり、工場で終わるようになりました。
バングラデシュの子どもたちは、ひとつの問題だけに直面しているわけではありません。
難民の流入、貧困、児童労働、そして気候変動による洪水。
それらが同時に重なり、子どもたちの「選択肢」を狭めています。
今回は、バングラデシュにおける子ども支援の文脈を、
ロヒンギャ難民、児童労働、洪水・気候災害という三つの軸から丁寧に見ていきたいと思います。
1. バングラデシュという国──成長と脆弱性が同居する社会
バングラデシュは南アジアに位置し、近年は経済成長を遂げてきました。
- 人口:約1億7,000万人
- 人口密度:世界有数
- 繊維・縫製産業が主要産業
- 多くの国民が低地・河川流域に居住
経済成長の一方で、
貧困層の多さ、社会保障の脆弱さ、災害への弱さが長年の課題です。
とくに子どもは、その影響を最も受けやすい存在です。

2. ロヒンギャ難民──突然増えた「支えきれない人口」
■ 世界最大規模の難民キャンプ
2017年以降、隣国ミャンマーから迫害を逃れてきたロヒンギャ難民が、
バングラデシュ南東部に大量流入しました。
- 難民の多くが女性と子ども
- 居住地は巨大な仮設キャンプ
- 教育・医療・安全が不足
難民キャンプでは、
生まれた時から「国籍のない状態」で育つ子どもも少なくありません。
■ 教育の欠如がもたらす長期的影響
難民の子どもたちは、
- 正規教育を受けられない
- 将来の職業選択肢が極端に限られる
- 搾取や暴力のリスクが高まる
という問題に直面します。
教育が断たれることは、
貧困と不安定さが次の世代へ引き継がれることを意味します。
3. 児童労働──「学ぶより働く」が現実になる理由
■ 生活を支えるために働く子どもたち
バングラデシュでは、
多くの家庭が日々の生活で精一杯です。
- 親の収入が不安定
- 都市部への流入
- 家賃・食費の高騰
その結果、
子どもが家計を支える労働力として扱われるケースが生まれます。
縫製工場、建設現場、路上販売、家事労働。
これらは「違法」とされながらも、
現実には多くの子どもが関わらざるを得ない仕事です。
■ 児童労働が奪うもの
児童労働は、単に「働いている」状態ではありません。
- 学校に通えない
- 健康を害する
- 将来の選択肢が失われる
短期的には家計を支えても、
長期的には貧困から抜け出せない構造を固定化します。
4. 洪水と気候変動──毎年のように奪われる「日常」

■ 水と共に生きる国の危うさ
バングラデシュは、
大河川が集中する低地に国土の多くが広がっています。
- 雨季の洪水
- サイクロン
- 河岸侵食
これらは昔からの課題でしたが、
近年は気候変動の影響で被害が激甚化しています。
■ 洪水が子どもに与える影響
洪水が起きると、
- 家が流される
- 学校が閉鎖される
- 衛生環境が悪化
- 感染症が広がる
被害を受けた家庭では、
まず教育費が削られ、
子どもが働きに出るケースが増えます。
つまり洪水は、
児童労働と教育断絶を加速させる引き金にもなっています。
5. なぜ問題が「見えにくい」のか
バングラデシュの状況は深刻ですが、
戦争のような劇的な映像が少ないため、
国際的な注目が集まりにくい側面があります。
- 難民はキャンプに留まる
- 児童労働は日常に溶け込む
- 洪水は「毎年の出来事」として扱われる
しかし、
静かに続く問題ほど、子どもたちの未来を確実に削っていくのです。
6. 国際社会が行っている支援の方向性
バングラデシュでは、次のような支援が行われています。
- 難民キャンプでの教育・保健支援
- 子どもの保護(暴力・搾取から守る仕組み)
- 児童労働を減らすための教育支援
- 洪水被災地での緊急支援
- 気候災害への適応支援
重要なのは、
短期の緊急支援と、長期の教育・保護支援を同時に行うことです。
7. 日本から考えるバングラデシュ支援の意味
バングラデシュは、
日本人にとって心理的に近いアジアの国です。
衣服、日用品、食料品。
私たちの生活と、バングラデシュの労働は深く結びついています。
だからこそ、
- 子どもが働かなくてよい社会
- 災害に強い暮らし
- 学び続けられる環境
を考えることは、
決して他人事ではありません。
おわりに──「選択肢」を取り戻すために
ラフィクがミシンを踏む理由は、
怠けているからでも、学びたくないからでもありません。
ほかに選択肢がないからです。
バングラデシュの子どもたちが必要としているのは、
特別な未来ではありません。
- 働かなくてもよいこと
- 学校に通えること
- 災害が起きても立ち直れること
それだけです。
難民、児童労働、洪水。
これらは別々の問題ではなく、
ひとつの社会構造の中で連鎖しています。
その連鎖を断ち切る第一歩は、
現実を知り、見過ごさないことから始まります。
