「脱炭素」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?この言葉は、地球の未来にとても深く関わる大切なテーマなんです。
今回は脱炭素に関するお話を、今中学生や高校生の皆さんにもわかりやすく解説していきたいと思います。
たとえば、私たちにとって身近な車や工場から出る煙のようなもの「二酸化炭素(CO2)」がこのテーマの中心にあります。
CO2は地球を温める効果を持っていて、これが増えると「地球温暖化」と呼ばれる問題が進んでしまいます。温暖化が進行すると海の水が増えて島が沈んだり、異常な気象現象がたくさん起こると言われています。
なぜ二酸化炭素(CO2)は地球を温めるの?
地球は太陽からの光を受けてあたたかくなっています。その光の一部は地球の表面で吸収され、熱として大気中に放出されます。しかし、すべての熱が宇宙に逃げるわけではなく、一部は大気中にとどまります。この時、CO2のような「温室効果ガス」が、熱を大気中に閉じ込める役割を果たしているんです。
CO2は「温室効果ガス」と呼ばれるもので、このガスは地球の大気中にあると、地球から放出された熱を吸収して再び地表に戻す働きをします。これにより、地球は本来の温度よりも暖かくなります。
この現象を「温室効果」と言います。温室効果は、まるでビニールハウス(温室)のように、地球を包み込むガスが温かさを閉じ込めることから、その名前がつけられています。
だからこそ、私たち皆で「脱炭素」に取り組むことがとても大事なんです。
これは、”CO2をできるだけ出さない”、もしくは出したCO2を自然が吸収できるようにするための取り組みで、今では世界中の国々が協力して進めている目標です。
目次
脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違い
脱炭素とは何か?
「脱炭素」とは、地球温暖化の原因となるCO2を含む温室効果ガスを出すことをできるだけおさえ、最終的にゼロにすることを目指す取り組みです。
温室効果ガスは、地球の大気中に多くなると地球を温める力が強くなり、次のようなさまざまな悪影響を引き起こします。
- 酸性化した海:CO2が海に溶け込むと海洋の酸性度が上がり、サンゴ礁や貝類などの海洋生物がダメージを受けます。
- 海面上昇:南極などの氷が溶けることで海水の量が増え、海面が上昇し、島や海に面した地域が水没する危険が高くなります。
- 異常気象の増加:台風、ハリケーン、豪雨などの頻度や強さが増し、自然災害が増えます。
- 干ばつの増加:一部の地域では雨が減り、農作物を作ることが難しくなることがあります。特に水不足で困る地域が増えます。
- 熱波の頻発:非常に暑い日が増え、人間や動物が熱中症などの健康被害を受けるリスクが高まります。
- 農作物の不作:気温の上昇や異常気象により、農作物の育成環境が悪化し、食糧不足の問題が起こります。
- 生態系の崩壊:動植物の生活する場所が変わり、一部の動植物が絶滅の危機にさらされるなど、生物の生きる場所が奪われます。
- 感染症の拡大:気候の変化によって、熱帯地域に多い感染症(マラリアやデング熱など)が新しい地域にも広がる可能性が高まります。
- 氷河の消失:アルプスやヒマラヤなどの氷河が溶け、山が多い地域での水源が失われ、下流の方では水不足が起こる恐れがあります。
日本でも異常気象による被害が深刻です。2019年には台風や集中豪雨が頻発し、多くの地域で洪水や土砂災害が発生しました。このような気候変動の背景には、温室効果ガスの増加があるとされています。
カーボンニュートラルとは?
また、「カーボンニュートラル」とは、CO2を全く出さないわけではなく、排出量と吸収量を同じくらいに保つことを指しています。
たとえば、森林は自然にCO2を吸収する力を持っています。CO2を出す分それを森林やその他の方法で吸収し、最終的には排出量を実質ゼロにするのが「カーボンニュートラル」の考え方です。
カーボンニュートラルの実現は、2050年までに達成されることが国際的な目標とされていますが、多くの国がこの目標に向けて具体的な計画を立てていて、日本もその中のひとつなんです。
脱炭素の目的:なぜ脱炭素が必要なの?
地球温暖化を防ぐため
脱炭素の一番大きな目的は、地球温暖化を防ぐことです。地球の温度が上がり続けると、私たちの生活や自然環境にとても悪い影響が出ます。
過去100年間で、地球の平均気温は1.2℃上昇していて、このまま温暖化が進むと皆さんが生きている間にさらに大幅に上がると考えられています。
地球は長い間、平均気温を安定させてきました。その気温が1.2℃上がるというのは、地球全体のバランスが崩れることを意味します。わずかな変化でも、海や空気の流れ、天気に大きな影響を与え、私たちの生活が予測できない形で変わってしまうのです。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、これを防ぐためにはCO2の排出量を大幅に減らし、2050年までにゼロを目指すことが必要だとしています。
IPCCとは、「世界中の国々が協力して地球の気候変動を調べている大きなグループ」と考えると分かりやすいかもしれません。このグループは、世界中の科学者たちが集まって、地球の気候について調べたり、温暖化が進むとどんな問題が起きるのかを予測したりしています。
化石燃料の枯渇を防ぐため
もう一つの大きな理由は、化石燃料がなくなってしまうことです。
今、私たちが普段使っている電気や車のガソリンなど、多くのエネルギーは石油や石炭といった化石燃料に頼っています。化石燃料というのは、昔の植物や動物が長い時間をかけて地中で変化してできたものです。しかし、この化石燃料は限りある資源で、いつかなくなってしまうと言われています。
たとえば、石油はあと50年ほどでなくなるかもしれないと予測されています。石炭もあと132年くらいでなくなると言われています。これらがなくなってしまったら、今のままでは私たちはエネルギーを作ることができなくなってしまうのです。
だからこそ、太陽や風、水といった再生可能エネルギーをもっと使うことが大切です。これらは、地球に常に存在していて、使ってもなくなることがありません。
地球に優しい再生可能エネルギーを使うことで、私たちは化石燃料に頼らずにエネルギーを作ることができるので、将来も安心して暮らせるようになります。
世界の取り組み
パリ協定
「パリ協定」とは、2015年に世界中のたくさんの国が集まって決めた、地球温暖化を防ぐための約束です。この協定では、地球全体の気温がこれ以上上がらないようにすることを目指しています。
具体的には、地球の温度がこれからさらに上がらないように、産業革命前(18世紀後半の頃)と比べて気温の上昇を2℃以内に抑えるという目標があります。
また、できれば1.5℃以下におさえる努力をすることも求められています。気温がそれ以上上がると、海面が上がって島が沈んだり、異常気象がさらに増えるからです。
パリ協定に参加している国々は、それぞれCO2をどれくらい減らすかの目標を決めています。そして、その目標は5年ごとに見直すことが決められています。
たとえば日本は2030年までに2013年と比べてCO2を46%減らすことを目標にしています。アメリカも2030年までに50~52%削減する目標を立てています。このように、世界中の国々が協力して地球を守るための行動をしているのです。
他の国の目標
各国は、パリ協定に基づいてさまざまな目標をかかげています。
- 日本:2030年までに、2013年と比べてCO2排出量を46%減らし、さらに2050年までにカーボンニュートラル(CO2の排出と吸収を同じにして実質ゼロにすること)を達成する目標を立てています。
- アメリカ:2030年までにCO2の排出量を50%減らす目標をかかげています。また、2035年までには、アメリカの電力の100%をクリーンエネルギーにする計画も進めています。
- EU(ヨーロッパ連合):EUは、2050年までに完全なカーボンニュートラルを実現するため、再生可能エネルギーの利用を急いで進めています。2030年までには、CO2排出量を1990年比で55%減らすすることを目指しています。
- 中国:中国は、世界で最も多くCO2を排出している国の一つです。2030年までにCO2排出量をピークに達する(それ以上は増えないようにする)ことを目標とし、その後、2060年までにカーボンニュートラルを達成すると発表しています。
- インド:インドは、2030年までにエネルギーの50%を再生可能エネルギーに変え、さらにCO2の排出量を1ギガトン減らす目標をかかげています。また、2070年までにはカーボンニュートラルを目指しています。
- カナダ:カナダも2030年までにCO2を40~45%減らし、2050年にはカーボンニュートラルを達成する計画です。
再生可能エネルギーの拡大
再生可能エネルギーとは、私たちが自然の力を利用して作るエネルギーのこと。
化石燃料のようにCO2をたくさん出すことなく、地球に優しいエネルギーを作る方法として世界中で注目されているんです。
再生可能エネルギーにはどんなものがある?
- 太陽光:太陽の光を使って発電する方法です。太陽光パネルを屋根の上や広い土地に置いて、太陽の光を電気に変えます。晴れていればどこでも使えるので多くの国で利用されていますね。
- 風力:風車(風力発電機)を使って、風の力で電気を作る方法です。
風がよく吹く場所では効率よく電気を作ることができ、日本でも海の近くや山の風が強い場所で利用されています。 - 水力:川の水の流れやダムを使って発電する方法です。これは昔から使われている方法で、大きなダムを作って水の力で電気を作る「水力発電」が有名です。水は流れ続けるので、安定した電気の供給ができるのが強みです。
- 地熱:実は地面の中には熱がこもっていて、その熱を使って電気を作る方法です。温泉のある地域など、地中の熱を利用できる場所でよく使われています。
なぜ再生可能エネルギーが大事なの?
再生可能エネルギーは、CO2をほとんど出さないため、地球温暖化を防ぐためにとっても大切なんです。太陽や風、水は無限に使える資源なので、石油や石炭のように将来なくなってしまう心配がありません。これが、再生可能エネルギーが「持続可能なエネルギー源」として注目されている理由です。
脱炭素の取り組みをもっと詳しく
日本は、2020年に「2050年までにカーボンニュートラルを達成する」という目標を宣言しました。この目標に向けて日本政府は、2030年までにCO2排出量を46%削減することをかかげています。
具体的な対策として、再生可能エネルギーをもっと使う方法や、火力発電所の脱炭素化が進められています。
地域脱炭素の取り組み
日本では、地域ごとにCO2を減らす取り組みも進められています。
これは、各地域で使うエネルギーを、その地域で作ってまかなうというアイデアです。たとえば、地元の太陽光や風力を使って、エネルギーを自給自足する「地産地消型」呼ばれる方法が注目されています。
さらに、多くの自治体が「ゼロカーボンシティ」を宣言しています。これは、「2050年までに、その地域から出るCO2の量を実質ゼロにしよう」という目標です。このように、再生可能エネルギーを使って、地域全体の経済も元気にしながら、環境にも優しい取り組みが進んでいるんです。
スマートモビリティの利用
交通の分野でも、CO2を減らすための取り組みが進んでいます。その中で特に重要なのが、電気自動車(EV)をもっと利用することです。電気自動車は、ガソリンを使わずに電気で走るので、CO2をほとんど出しません。(ガソリンはCO2をたくさん出します)
日本の政府は、電気自動車をもっと広めるために、購入する人への補助金を出したり、充電するためのスタンドをたくさん作ったりしています。こうしてガソリン車を電気自動車に置き換えることで、交通によるCO2の削減を目指しているのです。
2030年までに電気自動車をもっと増やして、交通から出るCO2を大幅に減らすことが目標です。
エネルギーの効率化
エネルギーの効率化も、CO2を減らすための大切な方法の一つです。
簡単に言うと、同じ仕事をするのに、できるだけ少ないエネルギーで済むように工夫することです。無駄に使うエネルギーを減らし、CO2の排出を少なくすることができます。
例えば、省エネ家電という言葉を聞いたことがあるかもしれません。冷蔵庫やエアコン、洗濯機などで省エネ家電として作られたものは、普通の家電よりも少ない電気で動くように作られています。
また、会社ではスマート技術が使われていて、これはコンピュータやセンサーを使って、工場やビルでエネルギーを無駄なく使えるようにする技術です。電気を必要な時にだけ使うように自動で調整する仕組みを作ることで、エネルギーの消費を減らしています。
こうした工夫がどんどん進めば、エネルギーの無駄をなくし、結果的にCO2の排出を減らすことができるのです。
カーボンプライシング
カーボンプライシングとは、CO2を出す量に値段をつける仕組みです。
「CO2をたくさん出すと、その分お金がかかるんですよ」というルールを作ることで、会社や人びとがCO2を減らそうとする理由(インセンティブと呼びます)を生み出します。
例えば、工場がたくさんCO2を出すと、それに対してお金を払わなければならないので、CO2を少なくするための努力をするようになりますよね。そうするとお金を節約できるので、自然と会社や工場はCO2を減らす技術や工夫を取り入れるようになるんです。
この仕組みのおかげで、皆が環境に優しい行動をするようになり、結果的に脱炭素が進むことが期待されています。
まとめ:私たちにできること
脱炭素は国や会社、大人たちだけが頑張ることではなく、私たち一人ひとりができることもたくさんあります。
毎日の生活の中で、少しずつでも地球に優しい行動をすることで、大きな変化を生み出すことができるのです。
- エコな製品を選ぶ
例えば、省エネ家電や、再生可能エネルギーを使った製品を選ぶのはどうでしょうか。少ない電力で動く家電を使えば、CO2の排出を減らせます。 - ゴミを減らす、リサイクルをする
不要なものをできるだけ買わないようにしたり、使えるものをリサイクルすることも大事ですね。ペットボトルや紙を捨てる前にリサイクルすることでゴミの量を減らし、CO2の排出をおさえられます。 - 電気を無駄にしない
家の中でも使わない電気はこまめに消すようにしましょう。部屋を出るときに電気を消したり、エアコンの温度を上げすぎたり下げすぎたりしないだけで、CO2を減らすことができます。 - 歩いたり自転車を使う
車を使うとガソリンを燃やしてCO2が出ますが、近い距離なら歩いたり自転車を使うことでCO2の排出を減らせます。電車やバスなどの公共交通機関を使うことも効果的です。 - 家族や友達と話し合う
脱炭素について家族や友だちと話してみましょう。みんなでエコな生活を心がけることで、もっと効果的にCO2を減らすことができます。
いかがだったでしょうか。
こうした小さな行動を積み重ねることで、私たちは地球温暖化を防ぐ大きな力になれるんです。ぜひ自分ができることから始めてみることをおすすめします。
最後に、キフコの一言
日本が目指す2050年の脱炭素社会に向けて、他にもさまざまな新しい技術や取り組みが進んでいます。
まず、日本政府は再生可能エネルギーを主力にするだけでなく、火力発電の脱炭素化にも取り組んでいて、その一環として水素エネルギーやアンモニア燃料といった新技術の開発を進めています。この、CO2を出さない新しいエネルギーを実用化し活用すすることで、2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにすることが目標です。
他にも、エネルギーを無駄なく使うためのスマート技術も重要な役割を果たしています。
AIを使ったスマートグリッドという仕組みでは、電力の消費状況をリアルタイムで管理し、エネルギーをもっと効率的に使うことが可能になります。企業や家庭がこうした技術を取り入れることで無駄なエネルギー消費が減り、CO2の排出も少なくなります。
産業分野では、CCS(炭素回収・貯留技術)やメタネーションなど、CO2を回収して再利用する技術も使われ始めています。
鉄鋼業や化学工業などでのCO2削減に大きな効果を発揮していて、企業は脱炭素に貢献しながらも、経済活動を続けることが可能になってきています。
そして、脱炭素に積極的に取り組む企業は、ESG投資やグリーンファイナンスといった分野で注目され、資金調達がしやすくなるという経済的なメリットを生みました。脱炭素化は、環境を守るだけでなく、企業にとっても長期的な利益を生む好循環な取り組みなんです。