【寄付の返金】その善意は報われないのか

1. はじめに|寄付は善意だけで終われるのか?

寄付という行為は、見返りを求めず誰かのためにお金を差し出す、純粋な善意の表れだといえます。けれども、世の中には「思っていたのと違った」「こんなつもりじゃなかった」と、寄付の後に後悔を抱く人も少なくありません。

実際、2022年に社会を揺るがした旧統一教会の問題では、数千万円規模の献金が返金されたケースが報道され、大きな反響を呼びました。
また、自治体が呼びかけた寄付が目的を果たさずに宙に浮き、「返してほしい」と訴える声が上がった例も存在します。

寄付をする人が増えている一方で、寄付後のトラブルや不信感も確実に増加傾向にあります。
2023年の全国消費生活相談件数では、宗教団体などへの金銭提供に関する相談が前年比で約1.7倍に増えたと報告されており(消費者庁データ)、これは一部の団体による強引な勧誘や不透明な資金運用が原因とも言われています。

そんな中、「寄付って返してもらえるの?」「もし詐欺だったら?」といった疑問や不安を抱くのは自然なことです。

今回は、寄付金が返金される可能性やそのための法的根拠、実際の裁判例や制度の違いなどをわかりやすく解説していきます。

寄付は社会を支える美しい行為ですが、決して無防備であってはならない。そんな視点から、この問題を丁寧に紐解いていきましょう。


2. 寄付とは何か?法的にどう扱われているのか

寄付とは、他者のために金銭や物品を無償で提供する行為です。
一般的には慈善や支援の目的で行われ、社会的にも高く評価されていますが、法律的に見ると、寄付は単なる「善意」では済まされません。

民法では、寄付は「贈与契約」の一種とされています(民法549条)。これは「当事者の一方が財産を無償で与える意思を示し、もう一方がそれを受け入れることで成立する契約」として定義されています。
つまり、寄付も立派な契約行為であり、提供された財産には法律的な意味が伴います。

とはいえ、すべての寄付が一律に単純な贈与とみなされるわけではありません。
特に近年の法学では、寄付には「信託的性質」や「委託的側面」があるという解釈が強まってきています。
たとえば、被災地支援などを目的に集められた義援金のように、寄付者(お金を出す人)、募集者(団体)、受益者(被災者など)が異なる三者関係の場合、法的には「信託的譲渡」として構成されることもあります。

この考え方に基づけば、団体が寄付金の管理や使用において「目的に忠実である義務」を負うことになり、仮に寄付の目的に反する使い方をした場合には、寄付者が返還を請求する正当な理由が生まれるのです。

さらに、寄付契約が口頭でなされたとしても、団体側が使途を明示していた場合、その内容が契約内容の一部とされることもあります。
このように、寄付は「無償=自由な使い道」とは限らず、実は法的にも厳密なルールのもとで成立しているということを、まずは理解しておく必要があります。

3. 返金が認められる代表的なケース

寄付は基本的に無償の意思表示ですが、一定の条件を満たすと「取り消し」や「返金請求」が認められることがあります。
ここでは、民法・消費者契約法・不法行為の3つの観点から、どのような場合に返金が可能になるのかを解説します。

▷ 3-1. 民法による取消しが認められる場合

民法では、当事者が勘違いや欺かれた状態で契約をした場合、取り消しが可能になる制度があります。寄付も契約行為の一種であるため、錯誤や詐欺、強迫があったときには、寄付者が後からその契約を無効にできる可能性があります。

たとえば「このままでは先祖が祟る」と不安を煽られた上で、正常な判断ができずに寄付してしまった場合、錯誤や詐欺に該当する可能性があります。
民法95条と96条に基づき、これらの不当な意思表示があったと判断されれば、その寄付契約は取り消せます。

ただし注意点として、取消権には時効がある点が重要です。錯誤や詐欺の事実に気づいた日から5年、または寄付した日から20年を過ぎると、原則として取消すことはできません。
このため、違和感を覚えたらできるだけ早く専門機関に相談するのが得策です。

▷ 3-2. 消費者契約法に基づく取消し

霊感商法や不安を煽る特殊な勧誘方法は、消費者契約法の適用対象です。この法律では、不当な勧誘によって結ばれた契約は、たとえ寄付であっても取り消すことができると明記されています。

たとえば「悪いことが起こる」「災いを避けるために必要」といった言葉で脅し、寄付をさせた場合、その勧誘は「困惑させた行為」とされ、取消権の行使が可能です。

しかもこの取消権、通常の契約よりも長期間有効です。
消費者契約法では、取消可能な期間は「勧誘の事実に気付いたときから3年」または「寄付契約を結んだときから10年」。2022年の法改正でこの期間は延長され、より多くの人が救済されやすくなりました。

この法律の最大の特徴は、宗教団体であっても「事業者」として扱われる点です。
つまり、宗教法人に対する寄付であっても、消費者契約法の対象となる場合があるということです。

▷ 3-3. 不法行為に基づく損害賠償

民法709条に基づく「不法行為」に該当する場合、寄付の返還に加えて損害賠償を求めることもできます。不法行為とは、違法な手段や社会的に妥当とはいえない行為によって他者に損害を与えることです。

宗教団体による過度な献金要求や、生活を脅かすような金額の寄付を求める行為は、「社会的相当性を逸脱した」と評価される可能性があります。

実際、過去の裁判では、寄付者が生活困難に陥った事実をもとに不法行為が認定され、返金が命じられた例も存在します。

損害賠償請求の時効も重要です。被害を認識したときから3年、または行為から20年以内でなければ請求が難しくなります。
継続的に寄付を強いられていたケースでは、全体の流れを「一連の不法行為」として判断される場合もあるため、タイミングに迷った場合は専門家の判断を仰ぐのが安心です。

4. 実際の事例で見る「返金の現実」

法的には返金可能なケースがあっても、現実の世界ではすべてがスムーズにいくわけではありません。
ここでは、実際に起きた寄付返金に関する3つの事例を紹介し、それぞれの背景や社会的な反響について考察していきます。

▷ 4-1. 東京都・尖閣諸島寄附金

2012年、東京都が尖閣諸島の購入を目的に寄附金を募ったところ、わずか数か月で10万件超、総額約14億8,000万円が集まりました。しかしその後、島は国が購入することとなり、都は購入に関わらない形に。

この事態に対して一部の寄付者からは「目的を達成していないのだから返金してほしい」という声が上がりました。
実際、東京都の条例には「行政財産の用途を廃止した場合は、寄付者に無償で譲渡できる」といった返還の可能性が示されています。

ところが、都は「尖閣の活用という目的は継続している」と主張し、寄付金は都の基金に移し、活用予定との見解を示しました。加えて、10万人以上の返金手続きの煩雑さも理由にあげ、最終的には返金には至りませんでした。

この事例は、善意で寄付されたお金がいかに曖昧な運用になりうるか、そして返金を求める声がどれほど難しい壁にぶつかるかを象徴しています。

▷ 4-2. 旧統一教会の献金返還

安倍元首相の銃撃事件を契機に、加害者の母親が旧統一教会に約1億円を献金していたことが明るみに出ました。後に教団が約5,000万円を返金したと報じられ、この問題は全国的な注目を集めます。

返金の詳細な法的根拠や経緯は不明ですが、報道では母親と教団の「合意」によって返金されたとされています。
これは訴訟ではなく示談的な形で解決されたケースであり、同様の状況にある他の献金者にとっても希望となる一例でした。

ただし、返金額が献金総額の約半分だったことや、被害者家族の生活が破綻していたことを踏まえると、制度的救済の限界も浮き彫りになったといえるでしょう。

▷ 4-3. 福岡地裁の判例(平成12年)

2000年、福岡地方裁判所では、宗教団体に対する過度な献金要求が「違法な勧誘行為」と認定されました。
判決は、信者に精神的プレッシャーを与え、生活困難に陥らせた行為を「社会的妥当性を欠く」として違法とし、一部の献金返還と損害賠償を命じました。

この判決の意義は大きく、「信教の自由」があるからといって、あらゆる宗教活動が許されるわけではないという判断が明示された点にあります。
献金が法的にも社会的にも相当でない場合は、返還請求が認められるという実例です。

5. 家族が返金を求められるケース

寄付は本来、本人の自由意志に基づく行為です。憲法第13条では自己決定権が保障されており、自分の財産をどう使うかは基本的に個人の判断に委ねられます。
しかし、寄付によって家族の生活が著しく損なわれるようなケースでは、第三者である家族がその寄付に異議を唱えることができる場合があります。

たとえば、親が生活資金を超えるような高額献金を続け、結果として養育費や生活費の支払いが困難になる状況に陥ったとしましょう。このようなケースでは、家族が「債権者」として寄付の取り消しを主張できる法的根拠が生まれます。

具体的には、以下の2つの法的手段が存在します。

■ 民法第424条:詐害行為取消権

債権者が、債務者(この場合は寄付者)が自分の資産を他人に与えることで自分の債権回収ができなくなったとき、一定の条件を満たせば、その行為を取り消すことができます。

たとえば、子どもが親に養育費の支払いを求めており、その親が宗教団体に多額の献金をした結果、支払い不能となった場合、この規定に基づいて献金の取消しを求めることが可能になります。

この際、団体側が「家族に不利益を与えることを知っていたかどうか」が争点になることもあります。

■ 民法第423条:債権者代位権

寄付をした本人が返金を求められる立場でありながら、それを行わない場合、家族が「代わりに」返金請求を行う権利を持つのが債権者代位権です。
本人が判断能力を失っていたり、心理的に団体に支配されていたりするケースで活用されることがあります。

2022年に施行された「不当寄附勧誘防止法」によって、この制度の活用はさらに容易になりました。今までは「支払い義務がすでに発生している債権」にしか適用できませんでしたが、改正後は「将来の支払い義務(例:毎月の扶養費など)」についても、保全のために寄付取消しを求めることが可能になりました。

このように、家族が法的に立ち上がる余地があるという事実は、寄付に関する問題が「個人の問題」にとどまらず、「家庭全体の問題」へと発展していることを示しています。

6. 寄付の種類によって異なる返還ルール

ひと口に寄付といっても、その相手や制度によって返還のルールはまったく異なります。
特に「公的機関への寄付」と「一般社団法人の基金拠出」は、性質も法的な位置づけも大きく異なります。ここでは、2つの代表的なケースを比較しながら、返金可能性の違いについて見ていきましょう。

▷ 6-1. 自治体や公的団体への寄付

都道府県や市町村といった自治体への寄付は、条例や規則に基づき行われます。このような寄付の多くは「指定寄付」や「負担付寄付」として処理され、特定の目的(例:公園の整備、災害復興など)に充てられることが多いです。

ところが一度納められた寄付金は、原則として返還されません。たとえ当初の目的が果たされなかった場合でも、「行政の裁量によって使途が変わった」「他の公共目的に流用された」とされれば、それを理由に返金を求めることは難しくなります。

東京都の尖閣諸島寄附金の事例がまさにそれに該当します。
約14億円が集まったものの、最終的に都は島を購入しない方針を示しました。一部寄付者から返金を求める声が上がりましたが、都は「基金に積み立て、公益のために活用する」として返還には応じませんでした。

条例上は「目的を達成できなかった場合、寄付者に無償譲渡できる」といった返還の道筋もあるものの、実際には行政の判断に委ねられる場面が多く、個人が返金を勝ち取るハードルは非常に高いと言えるでしょう。

▷ 6-2. 一般社団法人の「基金」

自治体への寄付とは対照的に、「基金」は返還を前提とした仕組みです。これは株式会社における出資金とは異なり、非営利法人である一般社団法人などが外部から資金を募るために設ける制度で、「一定の条件を満たせば返してもらえるお金」として扱われます。

ただし、この返還にも明確なルールがあります。たとえば、基金を返還するには以下のような条件を満たす必要があります。

  • 定款または契約書に返還期限や条件が定められている
  • 総会などで返還の決議がなされている
  • 法人の資産が基金の総額を超えており、返還に耐えうる財務状況である

加えて、返還金には利息がつかない点も特徴です。
つまり、出資した金額と同額が返されるのみで、増えることはありません。また、法人が解散する場合は、まずすべての債務を弁済した後に、残余資産の範囲内で返還が行われることになります。

こうした厳格なルールがあるため、寄付のように自由度が高いわけではありませんが、その分「制度として返してもらえる前提がある」という意味では、寄付とは一線を画す仕組みと言えるでしょう。

7. 時効に注意|返金請求のタイムリミット

寄付の返還を求める際に最も気をつけるべき落とし穴――それが「時効」です。どんなに正当な理由があったとしても、法的な手続きをとるまでに一定の期間を過ぎてしまえば、返金の道は閉ざされてしまいます。

まず、民法上の取消権には「2つのリミット」が存在します。

1つは「追認をすることができる時から5年」。
これは、寄付が錯誤や詐欺、強迫によってなされたと後に気付いた場合、その“気づいた瞬間”から5年以内に取り消さなければならないというルールです。

もう1つは「行為の時から20年」。寄付をした日から20年を経過すると、たとえその後に問題に気づいたとしても、原則として取り消しの主張はできません。

一方、消費者契約法に基づく取消しには別のルールが適用されます。
こちらは、「困惑から脱した時から1年」「契約から10年」が時効の目安です。2022年の法改正によって、以前は5年だった上限が10年に延長され、多くの被害者が救済されやすくなりました。

また、不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、「加害者と損害を知った時から3年」または「不法行為の発生から20年以内」が基本です。

ただし、ここで言う「知った時」とは単に被害に気付いただけではなく、「法的に請求できると判断できる状況」に至ったことが求められます。
このような解釈の幅があるため、いつ時効がスタートするのかは、専門家の判断がカギになることもあります。

寄付が不適切だったと後悔しても、時間が経てば手遅れになりかねません。少しでも違和感を覚えたときには、早めの相談と行動が最も重要です。

8. 税務・会計上の注意点

寄付には社会的な意義だけでなく、税制上のメリットもあります。たとえば、特定の団体への寄付金は「寄付金控除」として所得税や住民税の負担軽減につながります。

ただし、後にその寄付金が返還された場合、話は少し複雑になります。

本来、税務上の控除は「支出されたこと」が前提ですが、返金されたことで「実質的に寄付していなかった」と判断される可能性が生まれます。
その結果、過去の控除分について、税務署から修正申告を求められるリスクもあるため注意が必要です。

さらに、法人や団体の側にも見逃せない論点があります。寄付金の会計処理は、「収益」として計上すべきタイミングや、使途制約のある資金の取り扱いが細かく定められているのです。

特に、返還義務がある寄付金(例えば、条件付き助成金など)の場合には、資金を「負債」として計上し、収益認識を繰り延べる必要があるケースもあります。これを誤ると、不適切会計とみなされ、監査や行政指導の対象になりかねません。

寄付という行為が持つ法的・会計的な責任は、想像以上に重く広範囲に及びます。

寄付者も受け取る団体も、「善意だからこそ慎重に」という姿勢が求められているのです。

9. 終わりに|「返金できるか」よりも「信頼できる寄付を」

ここまで、寄付が返金される条件や法的手段、実際の事例などを詳しく見てきました。確かに、寄付に問題があれば返金を求める道は存在します。けれど、その道のりは想像以上に長く、複雑で、時には心をすり減らすものでもあります。

だからこそ、最も大切なのは「そもそも返金を求めるような寄付をしないこと」。

寄付先を選ぶときは、団体の信頼性をしっかりと確認しましょう。具体的には、以下のようなポイントをチェックすることが有効です。

  • 団体の活動実績が公開されているか
  • 年次報告書や財務状況が透明に提示されているか
  • 運営メンバーや団体の設立背景が明確か
  • 寄付の使途が具体的に明記されているか

このような情報は、団体の公式サイトやSNS、第三者の評価サイトなどから調べることができます。最近では、信頼性を担保する「認定NPO法人」や「ガバナンス評価機構」などの制度も活用されています。

寄付は、社会をより良くするための大切なアクションです。けれどそれは、信頼があってこそ価値が生まれるもの。

思いやりの気持ちが、あとで「騙された」「返してほしい」という後悔に変わってしまわぬよう、ひとつひとつの寄付を丁寧に選びたいですね。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。