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はじめに|「災害が起きてから集まるお金」だけでは間に合いません
日本では災害が頻発し、寄付の呼びかけも“発災後”に集中する傾向があります。
しかし現場で起きているのは、発災直後の不足だけではありません。
むしろ深刻なのは、発災前に備えが整っていないことによって、被害が拡大し、復旧・復興が長期化する構造です。
本記事では、「防災は寄付の対象になり得るのか」という問いを、感情論ではなく、投資としての合理性/制度との関係/寄付の設計という観点から整理します。
1. 事前投資は、数字の上でも“得”です
防災・減災への投資は、倫理的に正しいだけでなく、経済合理性でも優位であることが示されています。
- 国連のUNDRRは、災害リスク削減(DRR)への支出について、1ドルの投資が平均15ドルの回収(将来の復旧費の回避)につながるという研究知見を紹介しています。
- 米国FEMAも、連邦のハザード緩和(mitigation)助成について、平均して1ドルが6ドルの便益になるとするファクトシートを出しています(NIBS分析に基づく)。
もちろん、国や災害種別で数字は変動します。
それでも、「事後の復旧費・支援費」を増やすより、事前の備えに資金が流れる方がリターンが大きいという方向性は一貫しています。
2. 国も「事前防災」を加速しています。だからこそ寄付の意味がある
国の側でも、事前防災・減災を前提にした予算設計や国土強靱化の議論が進んでいます。たとえば政府の国土強靱化関係予算の概算要求でも「事前防災・減災」の推進が明確に掲げられています。
また国交省は「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」として、追加的事業規模を政府全体で約15兆円目途とする方針も示しています。
ここで重要なのは、「国がやるなら寄付はいらない」ではなく、逆です。
国が動くほど、寄付の役割は“行政がやりにくい領域”に特化して立ち上がります。
3. 寄付が効く「防災」の領域は、ハードではなく“ソフト”
防潮堤や道路整備のような巨大インフラ(ハード)は、基本的に公費が主戦場です。
寄付が最も効果を発揮しやすいのは、次のようなソフト領域です。
① 人材・訓練・ネットワーク
災害時は、資材より先に「動ける人」と「連携の線」が不足します。
日本財団は、災害支援活動への助成だけでなく、災害時に動ける人材の養成やネットワーク形成も事業として掲げています。
② 平時の防災・減災活動への資金
「平時にも寄付を受け付ける」仕組みがあるかどうかは、初動を左右します。
赤い羽根の「災害ボランティア・NPO活動サポート募金(ボラサポ)」は、災害時だけでなく平時の防災・減災活動も常時受け付けると明記しています。
③ 要配慮者・在宅避難者など“支援の空白”を埋める
避難所に来ない人(来られない人)に支援が届かない問題は繰り返されています。
寄付はこの「制度の谷」に対して、機動力と個別性で刺さります。
4. 「事前の寄付」が広がらない理由は、寄付者側に合理的な不安があるから
防災への寄付は、直感的には正しいのに、行動に移りにくい傾向があります。理由はシンプルで、寄付者の疑問が合理的だからかもしれません。
- 何が起きていないのに、何にお金が使われるのか分からない
- 成果が見えにくい(被害が減ったことは“証明”しづらい)
- どこに寄付すればよいのか判断軸がない
この壁を超えるには、団体側が「防災=善意」ではなく、3エップレイスメントプレイスメント;防災=投資(仮説→実行→検証)として説明できる設計が必要です。
5. 防災寄付を成立させる「設計原則」4つ
ここからは、寄付メディアとして提示できる“型”です。
原則① 使途を「災害前」ではなく「行為」に分解
例:備蓄、訓練、避難計画、要配慮者支援、コミュニティ形成、重機講習、災害DXなど。
原則② 指標は「成果」より「準備の到達度」を置く
例:訓練回数、参加者数、協定数、避難所の改善項目、要配慮者名簿の整備率など。
原則③ “平時→発災→復旧”を一続きのプログラムにする
平時の準備が、発災時の初動速度に直結し、復旧の長期化を抑えます。
(国際的にも、DRRへの投資は政策目標として位置づけられています。)
原則④ 寄付者への提案は「気持ち」ではなく「選択肢」にする
単発寄付・マンスリー・企業協賛・備蓄寄贈・スキル寄付など、複数導線を持たせます。
まとめ
防災を寄付の対象にできるかどうかは、理念の問題ではありません。
「何を、どの単位で、どう測り、どう継続するか」という設計の問題です。
災害が起きてからの寄付は不可欠です。
しかし、起きる前に資金が動く仕組みが増えれば、被害の総量を下げ、復旧の長期化を抑え、支援の空白を埋められます。
この転換は、寄付者にとっても、非営利団体にとっても、そして社会にとっても合理的です。
