医療用ウィッグの寄付【ヘアドネーション】のやり方と支援団体

現代の医療において、がん治療自己免疫疾患、さらには脱毛症先天的な髪の悩みを抱える方々にとって、医療用ウィッグは重要な存在です。
治療過程で抗がん剤などの薬の副作用により髪を失うと、外見の変化は避けられません。髪を失うことは、単に容姿が変わる以上のショックと苦しみがあり、患者さんの自信や社会復帰の意欲にまで影響を与えることもあります。

その中で、「医療用ウィッグ」は単なる美容アイテム以上の価値を持ち、患者さんにとっての「もう一つの治療法」ともいえるでしょう。
ウィッグをつけることで、外見が回復し、患者さんが再び社会と接する一歩を踏み出せるキッカケとなるかもしれません。
それは心のケアとしての役割も大きく、ウィッグの提供は患者さんに安心感と安らぎをもたらします。特に髪を失う苦痛が大きなストレスとなる若い世代にとって、医療用ウィッグは自尊心の回復や日常生活の安定に欠かせない存在なのです。

ここで注目すべきが、「ヘアドネーション」という活動です。
この活動は、健康な髪を持つ人々が髪を寄付し、その髪で医療用ウィッグを作り、必要とする患者さんに提供する仕組みになっています。ヘアドネーションによって提供される医療用ウィッグは、患者さんに外見の回復と共に「心のケア」を提供し、医療支援の一環として社会に貢献することができます。

さらに、このヘアドネーション活動には、寄付を受け取った人だけでなく、寄付を行う側にも多大な意義がある点が特徴です。
自分の髪が「誰かの役に立っている」と感じられることは、寄付者にとっても充実感や幸福感を感じることができ、これにより支援の輪が次々に広がり、患者さんと寄付者、そしてその支援を知った人々との間で「笑顔の連鎖」が生まれていきます。

ヘアドネーションとは

ヘアドネーションとは、健康な髪を持つ人が自分の髪を寄付し、それをもとに医療用ウィッグを製作して無償で提供する社会貢献活動です。
この取り組みは、小児がん先天性の脱毛症不慮の事故などにより髪を失ってしまった18歳以下の子どもたちを主な対象として行われています。

ヘアドネーションの基本的な仕組み

寄付された髪の流れは、おおむね以下のようなプロセスで進められます。
まず、寄付者が髪の長さや状態の基準を確認し、美容室でドネーション用のカットを行います。切った髪は、特定の団体へと郵送され、受け入れられた髪はウィッグ製作の工場で洗浄や殺菌が施され、ウィッグに適した状態に整えられます。
ウィッグは最終的に、患者さんの年齢や頭の形状に合わせて丁寧にカスタマイズされ、自然な仕上がりになるよう一人一人に合わせてデザインが調整されます。このような流れを経て、寄付者の想いが込められた髪は、必要とする子どもたちに無償で提供されるのです。

医療用ウィッグの種類と選択肢

現在、ヘアドネーションを通じて提供される医療用ウィッグには、さまざまな選択肢が用意されています。
髪の毛が完全に抜けてしまった患者さん用の「フルウィッグ」から、脱毛範囲に応じて頭の一部をカバーする「部分ウィッグ」、帽子と一体化した「帽子付きウィッグ」まで、患者さんの生活スタイルや症状に合わせたウィッグが揃っており、選択肢が増えてきています。
特に、帽子付きウィッグは肌が敏感な子どもに人気があり、リラックスした状態で使用できる工夫が施されています。

これらの医療用ウィッグはすべて手作業で製作されており、寄付された髪のナチュラルな質感を生かし、外見に違和感を感じることなく患者さんが使用できるようになっています。

ヘアドネーションの手順と基準

医療用ウィッグの製作において、髪の品質はそのままウィッグの自然な仕上がりや耐久性に影響します。
寄付される髪には一定の基準が設けられており、これをクリアすることでウィッグとして使用可能な状態が保たれるので、寄付を考えている方が安心して手続きを進められるよう、髪の基準と手順について詳しく見ていきましょう。

寄付可能な髪の基準

  1. 髪の長さ:通常、髪の長さは31cm以上が望ましいとされています。
    これは、ウィッグとして十分に加工できる長さが必要なためです。
    また、寄付団体によっては長さの上限も設けていることがあります。ロングウィッグなど特定の用途には、より長い髪が重宝されますが、35cm以上の髪は短くカットして使用する団体もあるため、寄付前に確認するようにしましょう。
  2. 髪色と髪質:ウィッグ製作には健康で自然な色の髪が理想とされます。
    例えば、ヘアカラーを施していない、暗めの自然な髪色が好まれます。軽いヘアカラーが施された髪も受け入れ可能な団体は多いですが、ブリーチや派手な色の髪は受付が難しい場合があります。
    また、パーマや縮毛矯正が施されている髪も、ウィッグの耐久性や質感に影響を与えるため、受付を断られることが多いようです。
  3. 清潔さ:髪を寄付する際は、清潔にし、乾かした状態で送ることが求められます。髪が湿ったままの場合、配送中にカビが発生する恐れがあり、使用不可となってしまいます。新鮮で清潔な髪をウィッグに使用するため、必ず乾燥させてから送ることが大切です。

寄付手順の詳細

  1. カット準備:髪を寄付する際は、美容室での「ヘアドネーションカット」が推奨されます。
    美容室でカットする際、髪を複数の束に分けてゴムでしっかりとまとめておきましょう。束にすることで、髪の毛がばらばらにならず、長さや方向を揃えてウィッグ製作に利用できる状態が保たれます。
  2. カットの手順:まず、髪を3~5ブロックに分け、それぞれの束をゴムで留めます。その後、髪がばらつかないようゴムの少し上をカットし、切り分けた髪は1つにまとめて梱包します。
    カットの際、乾いた状態で行うことが推奨され、濡れたまま送らないように注意が必要です。
  3. 梱包と発送:カットした髪は1つにまとめ、レターパックや封筒など簡易な包装材に入れて送付します。
    エコの観点からも簡易包装が望ましいとされ、封筒や箱に入れる前に髪を輪っか状にまとめると便利です。また、髪が乾燥したままの状態で発送できるよう工夫しましょう。

医療用ウィッグ寄付の流れと注意事項

医療用ウィッグとして使用可能なウィッグも、特定の基準と手順に従って寄付を行うことが大切です。既に使用していたウィッグも、適切にクリーニングし、状態が良ければ再利用され、がん患者さんに届けられるケースが多くあります。

ウィッグ寄付の具体的な流れ

  1. ウィッグの準備と洗浄:寄付するウィッグは、軽く洗い、汚れがない状態に整えておきます。団体によっては、ウィッグをそのままの形で送ると送料がかさむため、コンパクトに梱包するよう推奨しています。もし可能であれば、ウィッグを袋や小さな箱に入れて簡易梱包としましょう。
  2. 配送と受け取りのタイミング:ウィッグ寄付を受け付けている団体の多くは、配送の日時や方法を指定しています。
    例えば、「毎週月曜日の10時から16時まで」のみ受付可能な場合があるため、郵送日時を確認し、スムーズな配送手続きを心がけましょう。
  3. 事前連絡の有無:多くの団体では、ウィッグの寄付に際して事前連絡は不要とされています。ですが、個別の団体により異なるため、公式サイトや問い合わせフォームなどで確認しておくと安心です。

寄付時のメッセージオプション

寄付者がウィッグと共に応援のメッセージを添えることで、寄付の意義がさらに深まります。
多くの団体では、寄付者からのメッセージを受け付けており、患者さんに向けた応援メッセージや励ましの言葉を添えることができます。これにより、患者さんも寄付者の想いを感じ取ることができ、ウィッグが単なる物資以上の「気持ちのこもった贈り物」として、より大きな力を発揮するでしょう。

主な活動団体とその特徴的な取り組み

医療用ウィッグ寄付とヘアドネーションの支援活動は、国内外で複数の団体により行われており、それぞれが独自のアプローチで患者さんをサポートしています。

今回は、代表的な3つの団体とその特徴的な取り組みについて紹介します。

NPO法人 ウィッグリング・ジャパン

ウィッグリング・ジャパン

ウィッグリング・ジャパンは、福岡を拠点とする非営利団体で、がん治療を終えた患者さんから医療用ウィッグを寄付として受け取り、リユース活動を行っています。
2010年から活動を開始し、現在までに5000個以上の医療用ウィッグを収集・提供してきました。その特徴は、ウィッグのリユースにとどまらず、患者さんの社会復帰を支援する取り組みも行っている点です。たとえば、がん患者さんやその家族が安心して外見ケアを相談できる「がんカフェ」や、専門家を招いた医療セミナーの開催など、多角的なサポートを提供しています。

また、ウィッグリング・ジャパンはがん患者さんのケアを行いたい美容師やサロンスタッフを対象に「がんサポーター養成講座」を設けています。この講座は、がんの基礎知識やウィッグケアに関する技術的な知識を提供するもので、地域の美容サロンと連携してがん患者さんを支援する体制を整えています。
こうした取り組みにより、ウィッグリング・ジャパンは、医療、美容、そして患者さんをつなぐ架け橋としての役割を果たしているのです。

つな髪プロジェクト

株式会社テラスハートジャパン

つな髪プロジェクトは、株式会社テラスハートジャパンがCSR活動の一環として展開するヘアドネーションプロジェクトです。
主に18歳以下の子どもたちに医療用ウィッグを無償で提供することを目指しており、寄付された髪をもとに、さまざまなニーズに応じたウィッグを製作しています。
部分ウィッグや帽子付きウィッグ、敏感な頭皮に優しいオーガニック素材を使用したウィッグなど、子どもたちの生活スタイルに合わせた選択肢を提供していることが特徴です。

つな髪プロジェクトでは、活動を通じて「髪でつながる社会貢献」をテーマに、寄付者と受益者のつながりを大切にしています。

ヘアドネーション認定証の発行や夏休み授業といったイベントも行っており、ヘアドネーションの意義を広めるための活動も積極的に行っていました。

一般社団法人リンクウィッグ

リンクウィッグ

リンクウィッグは、名古屋市を拠点に活動する一般社団法人で、使用済みの医療用ウィッグをリユースする取り組みに特化しています。
この団体の設立背景には、がん治療を終えた方が使用済みウィッグの処分に困り、寄付先を求めているという現状がありました。リンクウィッグは、医療用ウィッグを必要とする患者さんに再利用されたウィッグを届けることで、リユースの輪を広げています。

寄付方法もシンプルで、ウィッグを簡易包装し、宅配便や郵送で送るだけです。
さらに、寄付者が送料を負担すること、髪のケア製品(シャンプーやリンス)を一緒に送ることが推奨されているなど、寄付者が手軽に参加できる仕組みを整えています。


寄付者と受益者の声

キフコの一言

わたしも、自分の髪が誰かの助けになるなら嬉しい。治療に励む患者さんたちに少しでも笑顔を届けたいと思って、髪を伸ばし、寄付をしたことがあります。
私の場合、親戚ががん治療を経験したこともあり、その時に何か力になれることはないかと感じたのがきっかけでした。


髪を通じて、少しでも寄り添えるならという気持ちでのヘアドネーションですが、こうした想いが、誰かの支えとなり、患者さんの笑顔につながればと思っています。

受益者の声

医療用ウィッグを受け取った患者さんからは、「自信を取り戻せた」「ウィッグのおかげで外出が楽しくなった」といった感謝の声が数多く寄せられているようです。

ウィッグは単なるヘアアイテム以上のもので、社会復帰のきっかけや生活への安心感を提供しています。また、「自分が他者から支えられている」と感じることで、患者さんの治療意欲やポジティブな気持ちも高まります。


補足:ヘアドネーションにおける課題

資金不足と寄付の課題

ヘアドネーションと医療用ウィッグの製作には、多額の費用と時間がかかります。
髪が集まるだけではウィッグは完成せず、清潔で高品質なウィッグを作るためには、製作費や輸送費、スタイリング費用も必要です。
そのため、髪の寄付量が増えても製作が追いつかず、供給が遅れてしまうことが課題となっています。これに対し、賛助会員制度や寄付金の呼びかけが進められており、こうした活動に継続的な支援が重要視されています。
ですから、もしヘアドネーションをせずとも寄付をすることができるなら、ぜひ寄付を検討するのもいいかもしれません。詳しくは各団体のホームページをご覧ください。

地域連携と支援拡充の取り組み

支援活動を広げるためには、地域の美容室やサロンとの連携も重要です。
たとえば、患者さんが訪れやすい美容サロンと提携し、ウィッグのフィッティングや日常的なメンテナンスを支援する活動が進められています。さらに、がん患者さんの外見ケアに理解を持つ美容師を育成する「サポーター養成講座」を実施する団体も増え、医療・美容・患者さんを結びつける取り組みが広がりつつあります。
このような地域連携により、より多くの患者さんが適切なケアを受けやすくなり、支援の輪がさらに大きく広がることが期待されています。


このように、ヘアドネーションと医療用ウィッグ寄付は、寄付者と受益者、そして支援団体の協力のもとで成り立つ取り組みです。
各団体が直面する課題や解決策、そして活動を支える人々の声を知ることで、この活動の意義や魅力が皆さんに伝わることを願っています。
それではまた。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。