日本の【ホームレス】問題。概要と現状、支援について

法的定義と現状

日本における「ホームレス」は、2002年に制定された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」によって、法的に明確に定義されています。
この法律では、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」とされています。

ただし、この定義は路上で生活する人々に限定されており、ネットカフェや簡易宿泊所を転々とする「見えないホームレス」は含まれていません。この点が、現代のホームレス問題を捉える際の課題とも言えるでしょう。

最新の統計では、2024年時点で全国の路上生活者は2,820人とされています。
この数値は、2003年の25,296人に比べて約88%減少しており、支援策の一定の効果が見られる結果です。

しかし、ネットカフェ難民を含めた「見えないホームレス」の実態を加えると、統計以上に深刻な状況が浮かび上がります。
2018年の東京都調査によれば、都内だけで毎晩約4,000人がネットカフェで宿泊していると推定されています。彼らは公式統計に含まれないため、課題の一端が見過ごされている可能性があります。

高齢化と長期化の進行

日本のホームレス問題は、ただ数が減少しているだけではありません。
新たな側面として、路上生活者の「高齢化」と「長期化」が進行しています。最新調査によれば、ホームレスの平均年齢は63.6歳に達し、65歳以上の高齢者が全体の54.4%を占める状況です。
この背景には、高齢者の再就職の困難さや、年齢を重ねることで孤立が深まることが挙げられます。

さらに、路上生活期間が5年以上にわたる人は59.1%を占め、そのうち10年以上続けている人は40%にも及びます。
高齢者ほど路上生活が長期化する傾向が顕著であり、例えば健康問題が悪化しやすいことや、社会的なつながりが断たれることで生活の再建がさらに難しくなる現実が浮き彫りです。このように、短期的な支援だけでは解決が難しい問題が複雑に絡み合っています。

地方と都市のギャップ

ホームレス問題は大都市特有の課題と捉えられがちですが、地方でも支援の手が及ばない現状が存在します。東京都と大阪府だけで全国のホームレスの約半数を占めている一方で、地方都市では支援施設や相談窓口が整備されていないケースが多く、支援の地域格差が大きな課題となっています。

例えば、東京都では自立支援センターや一時生活支援施設が充実しており、多様なバックアップ体制が整っています。
一方で、地方自治体ではこうした施設がなく、既存の福祉制度だけでは十分に対応できないケースが目立ちます。結果として、地方ではホームレスの把握すら困難である状況があり、支援に必要なデータ収集やリソース配分が遅れる要因となっています。

この都市と地方の格差を埋めることは、今後のホームレス問題解決のカギとなるでしょう。支援が十分に行き届いていない地方では、地元住民の協力やNPOとの連携がより重要な役割を果たすことが期待されます。

ホームレス状態からの脱却のハードル

住居の確保

ホームレス状態から脱却する上で、最も大きな壁となるのが「住居の確保」です。
日本の賃貸市場は、初期費用として敷金や礼金、前家賃が求められ、これらの総額が数十万円に及ぶことも少なくありません。これに加え、保証人の確保も必須条件となる場合が多く、経済的に困窮しているホームレスの方々にとって、この壁を乗り越えるのは極めて困難です。

さらに、住所がない状態で身分証明書を取得するのが難しいという問題もあります。
多くの賃貸契約では、身分証明書や収入証明が求められますが、ホームレス状態にある人々はこれらの書類を揃えることができず、賃貸物件へのアクセス自体が制限されています。このような制度的な障壁が、住居確保を一層困難にしている現状です。

就労の難しさ

ホームレス状態からの脱却には就労が欠かせませんが、これにも数多くの課題があります。
住所や連絡先がないことで履歴書の提出が難しくなるのはもちろんのこと、身分証明書がない場合、働き口を見つけること自体が困難です。

仮に一時的な仕事を得たとしても、安定して働き続けるのは容易ではありません。
その理由の一つとして、単発労働や低賃金労働に依存せざるを得ない状況があります。これでは生活費を賄うだけで精一杯となり、住居を確保するための貯蓄をするのが難しいのが現実です。このような連鎖が、ホームレス状態の脱却を阻む要因となっています。

再路上化の要因

一度ホームレス状態から抜け出しても、再び路上に戻る「再路上化」の問題も見過ごせません。
契約社員や日雇い労働の場合、契約満了後に再就職できなければ、再び住居を失うリスクが高まります。また、人間関係のトラブルや職場環境への適応の難しさも、再路上化を引き起こす要因の一つです。

これらの問題を解決するには、単に一時的な住居や仕事を提供するだけでなく、長期的に支援する伴走型のアプローチが必要とされています。地域社会と連携しながら、再び孤立しないような仕組みを構築することが求められるでしょう。

日本のホームレス支援策の全体像

行政の取り組み

日本では、2002年に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」がホームレス支援の基盤となっています。
この法律に基づき、自立支援センターや一時生活支援事業、緊急シェルターが全国各地で運営されています。例えば、自立支援センターでは住居と食事を提供しながら、就労訓練や生活再建の相談が行われています。
一時生活支援事業は、特に緊急性の高いホームレスの方々に対し、短期間での住居提供を行いながら、次のステップに進むためのサポートを提供する仕組みです。

また、2015年には「生活困窮者自立支援法」が施行され、ホームレス支援の対象が広がりました。この法律では、ホームレスになる可能性のある人々も対象とし、包括的な支援を提供する体制を整えています。

地方自治体の事例

地方自治体による支援の取り組みも多岐にわたります。
例えば、東京都では「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画」を策定し、自立支援システムの運営や住居の確保、医療の提供などを9つの柱に分けて具体的な施策を展開しています。
一方、神奈川県では、無料低額宿泊所や診療所の整備を進め、ホームレスの方々がアクセスしやすい支援体制を構築しています。

北九州市は特に注目される事例の一つです。
同市では、民間団体や地域住民と協力して、住居と就労の両面から支援を行う独自のモデルを展開しています。この取り組みは、行政だけでなく、地域全体で支援の輪を広げる成功例として全国から注目されています。

民間支援団体の役割

民間の支援団体も、日本のホームレス問題解決において重要な役割を果たしています。認定NPO法人Homedoorは、ホームレスの方々に対して就労支援や住居提供を行い、自立を目指すための支援を続けています。
また、抱樸(ほうぼく)という団体は、「ひとりにしない」という理念のもと、伴走型支援を通じて地域社会における孤立を防ぐ取り組みを進めています。

これらの団体の活動は、行政の支援が届きにくい層に対しても手を差し伸べる重要な補完的役割を果たしています。
例えば、巡回相談や炊き出しといった直接的な支援を通じて、ホームレス状態の人々が最初の一歩を踏み出せる環境を整えることに成功しています。

これらの施策と支援体制を通じて、日本のホームレス問題に取り組むための道筋が少しずつ整備されています。
ただし、これらの仕組みがすべてのホームレス状態にある人々に平等に行き届いているわけではありません。次の課題は、これらの支援をどのように全国的に展開し、より効果的な形に改善していくかという点にあります。

支援が生み出す効果と課題

政策の効果

日本におけるホームレス支援政策は、2002年に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」から始まりました。
この法制度は、ホームレス状態にある人々の自立支援を目的とし、行政と地域社会が連携して実施されてきました。
その結果、全国のホームレス数は2003年の25,296人から2024年には2,820人へと、約88%も減少しました。この減少率は、国際的にも高い成果を示しており、行政や民間団体の努力が実を結んだといえます。

具体的な成功例としては、自立支援センターの運営が挙げられます。
これらの施設では、ホームレスの方々に住居と食事を提供しながら、就労訓練や生活再建のための相談を行います。

さらに、東京都や神奈川県の自治体が展開するシェルター事業では、緊急時に住む場所がない人々に一時的な居住スペースを提供し、次のステップへ進むための支援を行っています。

残る課題

一方で、全てが順調に進んでいるわけではありません。
一部の自治体では、施策の実施率が低いことが指摘されています。例えば、生活困窮者自立支援法に基づく一時生活支援事業は、全国的には304自治体(全自治体の約28%)でしか実施されていません。このような地域的なばらつきは、ホームレス問題が特定の地域に集中しているという誤解を生み、支援が行き届かない地域を取り残す原因となっています。

また、孤立した状態でホームレスに陥る人々を支援するには、従来型の施策だけでは不十分です。
伴走型支援」と呼ばれる、個々の事情に寄り添った支援が必要とされています。
このアプローチでは、住居や仕事を提供するだけでなく、コミュニティとのつながりを取り戻す支援が重視されます。孤立を防ぐためには、支援者が継続的に寄り添い、社会復帰を支える長期的な視点が求められます。

私たちにできること

寄付や物資支援

ホームレス問題を解決するためには、私たち一人ひとりができることがあります。
認定NPO法人Homedoorや地域の支援団体に寄付を行うことは、その代表的な方法です。
寄付金は、住居支援炊き出し就労プログラムの運営資金として活用されます。特に、定期的な小口寄付を行うことで、支援団体は安定した運営が可能になります。

物資支援もまた効果的な方法です。冬の寒い時期には毛布や防寒具、普段から必要とされる食料や衛生用品など、具体的なニーズを把握して支援を行うことが重要です。
これらの支援は、直接的にホームレス状態にある人々の生活を助けるだけでなく、支援の輪を広げるための第一歩となります。

ボランティア活動

炊き出しや地域での見守り活動に参加することも、ホームレス支援の効果的な方法です。直接的な接触を通じて、支援を受ける人々の声を聞くことができ、現状の理解が深まります。また、SNSやイベントを活用して、ホームレス問題についての情報を発信することも大切です。このような意識啓発活動は、社会全体の理解を促進し、偏見を減らす効果があります。

政策への協力と提言

私たちが地域住民として、行政に意見を届けることも支援の一環です。地域で開催される公共の意見交換会やワークショップに参加し、ホームレス問題に関する提言を行うことで、政策の改善を後押しできます。
また、包摂的社会づくりに向けた参加型のアプローチを通じて、全ての人が安心して暮らせる社会の実現に貢献できます。


未来への提言

包括的社会の実現

誰も孤立しない社会」を実現するためには、行政、民間、地域社会が一体となった取り組みが不可欠です。
特に、地域住民が主体となって支援活動に参加し、社会全体で孤立を防ぐ文化を育てることが重要です。包摂的な社会の実現に向けて、全ての人がつながりを感じられる仕組みを構築することが必要です。

政策のさらなる改善

支援策を統一し、地域格差を是正するための新たな政策が求められています。
地方自治体ごとに異なる支援資源の格差を埋めるためには、全国規模での施策展開が必要です。また、見えないホームレス問題に対しても積極的にアプローチし、ネットカフェ難民や短期的に住まいを失った人々を支援の対象とすることが重要です。

これらの取り組みを通じて、日本のホームレス問題に持続可能な解決策を提供し、全ての人が安心して生活できる社会を目指すことが、私たちの使命であると言えるでしょう。
この実現には、一人ひとりの協力が欠かせません。小さな一歩から始めていきましょう。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。