一般社団法人 明日へのチカラが運営する『ドコデモこども食堂』は、里親制度の啓発や里親支援活動、そして虐待防止活動を推進する日本こども支援協会の代表理事でもある岩朝しのぶさんが立ち上げた新しい”子ども食堂”の形態です。
その先進的かつ革新的な試みはNHKを初めすでに多くのメディアに取り上げられ、Readyforで実施したクラウドファウンディングでは、目標金額を大きく上回る支援が集まりました。
また、数々の経済的リーダーのバックアップを受けており、日本の貧困を危惧する多方面での期待を背にしています。
この記事は約9分で読めます。
一般社団法人 明日へのチカラ 代表理事 岩朝しのぶ
約12年以上、社会福祉の領域で子どもの貧困や虐待の解決に向け活動してきた岩朝さんは、ご自身も養育里親(育ての親)として子どもを受け入れ、その苦労と喜びを味わってきました。
今回は、今注目が集まる『ドコデモこども食堂』の魅力とその仕組みについて、岩朝さんにたっぷりとお話を伺いました。
たまたま産まれた環境が違うだけで人生が決まってしまう。そんな社会に警鐘を鳴らし、まさに現場で課題に直接触れ、間近で見てきた岩朝さんだからこそ解る子どもたちの声にならない苦しみが伝わってきます。
『ドコデモこども食堂』を運営する『明日へのチカラ』について教えてください。
ドコデモこども食堂を運営する明日へのチカラは、2022年に設立したばかりの団体で、副代表理事にロート製薬創業家の元専務取締役である山田 安廣さん、大塚製薬創業家の大塚 芳紘さん、元クレディ・スイス銀行プライベートバンキング日本代表、平尾 恒明さん、同銀行プライベートバンカー東 信吾さんと一緒に創りました。
大阪の事務所を拠点に支援を広げています。
ドコデモこども食堂ではどういった活動をされているんでしょうか。
利用する世帯に、専用アプリを通じて配られる食事チケットを、提携している飲食店さんに持っていくと、メニューから食べたいものを選んで食べることができます。
チケットは各地域で活動している子ども支援団体1団体につき、現在は20世帯分までを上限に配布して、団体さんからアプリを通じて子どもたちにチケットを付与いただいています。
チケットの配布先世帯はどのように選ぶのですか?
例えば普段運営されている地域の子ども食堂に、100世帯来るっていうところであれば20世帯じゃ全然賄えないのですが、その中でもより優先度の高い世帯を各支援団体さんの方で見て決めていただいています。
そうじゃないと「年収いくらですか?」って聞くわけにいかないし、きっと見守りが必要だろうなと思う世帯を、団体さんは想いを持って活動しているので任せています。
優先度の高いところに、例えば「半年ごとに入れ替えてもいいですよ。」っていうお話もしています。ずっと同じ20世帯が1年も2年もっていうんじゃなくて、団体によっては4ヶ月ぐらいで見直している団体もあります。
急に、「もう来月からやめます」となると世帯の方も切られるみたいになっちゃうので、「順番で回していきます。」みたいな言い方だと多分やりやすいかなっておっしゃってました。
従来の”子ども食堂”とドコデモこども食堂の違いは?
一般的な子ども食堂っていうのは、開催日が決まっていて、その時間帯に来ないとご飯を食べられません。
もし来てくれた時にも、運営側が用意したプレートのご飯であったり、メニューは決まっていて、子ども側の好き嫌いは関係なく大人の都合で開催して、大人の考えたメニューを出すというものだと思うんですけど、ドコデモこども食堂は飲食店に行って、子どもがメニューから好きなものを選べる。”自分で選べる”というところがまず大きな違いになっています。
食べたい時に行けばいいので、定休日以外は飲食店さん空いてますよね。例えば、ラーメン屋さんが朝の10時から夜の9時までやっているなら、いつでも子どもたちは好きな時に行ってラーメンや炒飯、餃子、子どもが食べたい時に食べたいものを選ぶ。という選択の機会を作っていきたいと思っています。
そして何より、貧困家庭は外食経験が乏しいので、そういった経験をさせてあげれることも大きな違いとなっています。
すでに日本こども支援協会さんの方でも他方面で活躍されていると思うんですが、今回の『ドコデモこども食堂』設立のキッカケを教えてください。
里親の啓発と里親支援で向き合う子どもたちは、本当に虐待児の中でも最も深刻な状態にいる子どもたちです。
虐待通報が20万件超える中で、保護できるのは2%ちょっとぐらい。その中でも最も苦しい状態の子どもたちが、里親や施設に託されてくるんですが、本当に傷ついていて、よくぞ生きてたという状態なんですよね。
ここまで傷ついてからケアする担い手(里親)を増やしましょう。っていうよりも、やっぱり蛇口を閉めておかなきゃいけない。(もちろん里親へのサポートやトレーニングも必要なんですけど)
里親に託されてくる子どもたちって、地域から来るんですよね。地域からなので、もっと根本的にその地域で大人たちが見守ってなんとかここから助けてあげないといけない。
子ども食堂は日本中に増えているんですけど、じゃあそこで虐待を未然に防げるかというと、できないんです。なぜかと言ったら虐待に対して、集団ケアってできないからです。子どもに個別に伴走者をつけていかないと本来ダメなんですよ。それが里親なんですよね。だから家庭にいる子を外部からどうやって支援できるかという考え方をしていかないと、親子が親子でいられるような支援をしていかないと子どもにとっての最善ではないので、地域で見守っていくべきなんですよね。
どうしたらいいかという最善を模索していく中で、この児童福祉の世界で13年間関わってきたので、じゃあ地域力をつけていくにはどうしたらいいだろう。ということで地域にそもそもある資源を使っていく。すでに地域にある飲食店が子ども食堂になって、経済的利益も伴う形で持続可能な仕組みを3年ほど熟考しながら計画を温めてきました。
ここ数年で子どもを取り巻く貧困にどんな変化があったと思いますか?
貧困の深刻度が増してるなと思いますね。
課題を抱えている家庭というのは、例えば学歴もない学力もない収入もない。ないない尽くしで複合的にいろんな要因が重なっていて、さらに結局親がそもそも虐待を受けてた子だったケースがとても多いんですよね。
自分のトラウマがそもそもあってケアされていない。そうすると安心もできないし、傷つきやすくて脆いのでハートがむき出しの状態なので、孤立していくんですよ。
人との関わりがなく孤立していることが一番の致命傷で、繋がりがない人がさらにトリプルワークとかやって、いわゆる接客業をやっているお母さんたちもいっぱいいて、今それもできない状態なんですよね。本当にコロナで一時しのぎの収入が途切れた。
子ども食堂について、一般的に知られていない事実や誤解はありますか?
これから子ども食堂をやろうと思ってる人も勘違いしてるのは、「ご飯あげよう」っていう人が多い。でも、一番子ども達に必要なのってご飯よりも先に「関わり」福祉なんです。
それを、実際にこども食堂を開催してきた人たちは徐々にそういった課題に気付き始める。
ご飯を食べに来ることをきっかけにして、この子たちには関わりが必要なんだっていうのが見えてきている人が多いと思います。子ども食堂に本当に必要なのは食事に加えて、人との関わりなんですよね。
それをみんな食事だけだと思っている人が多いと思います。
支援の現場で印象に残っているエピソードはありますか?
ある里親さんのところに来た15歳の男の子。15歳までお母さんと不適切な家庭にいて、かなりしんどい思いをして保護された子なんですけど、その子が里親さんのところに来て誕生日を迎えた時、児童相談所の人が「一番何が嬉しかった?」ってその子に聞いたんです。
私は、「誕生日ケーキ嬉しかった」とか言うのかなと思ったら、「お母さん」って呼んだ時に「なあに?」って返事をしてくれたことが一番嬉しかったって言いました。
この話をするたびに胸が詰まります。
15年どれだけ厳しい人生を歩んできたのかと思います。
子ども食堂でのエピソードはありますか?
子ども食堂の方では、ケーキ屋さんでお母さんがプラス800円を出して3,800円(チケットは上限3,000円が好きに使える)のホールケーキを、子どもの誕生日に初めて買ったそうです。
その子だけじゃなくて、家族全体に幸せを運べたような気持ちになりました。
一方で、誕生日にそうしたケーキを買ってあげられなかった。買ってあげられない家庭があるんだということを改めて認識した瞬間ですね。
ドコデモこども食堂を利用される方はどういった感想をお持ちなんでしょうか?
やっぱり利用したい時に利用できる。ってことですね。
お母さんが、「今日はご飯作るのもしんどいなぁという時にこれを使えるっていうのはすごくありがたい。」って言ってましたね。
あとは、「お誕生日にしてあげれなかったこと。後ろめたさを感じてたところが、チケットがあればプラスアルファとして使える。」ことがすごくいいって言ってました。
アプリで決済できる点が素晴らしいと思います。
そうなんです。
お店で携帯(専用アプリ)のQRコードをピッって読んでもらうだけです。
電子決済みたいな感じだから、”かわいそうな家庭”みたいな感じは全くないですよね。さらにアプリで管理しているので、チケットの印刷コストや配送コストもかかっていません。子どもが無くしたり、破いたりすることもない(笑)
それに、チケットをいつどこで利用したのか、決済の状況もすべてタイムリーにわかるようになっています。
一緒に活動されている方にはどんな方がいらっしゃいますか?
今事務局長をしている人間には5年ぐらい前に出会って、「虐待を無くしたい。どうしても関わりたい。」みたいな話があって即決しました。(笑)
彼は里親支援や虐待防止に関する活動もしっかりわかってくれていて、課題(貧困、虐待などの)っていっぱいあるから、もっとみんなの活動を底上げしたいんだけど、私たちの活動にこんなにコミットしてくれる人はいないと思います。
TVでの取材も拝見しました。
ドコデモこども食堂のテストランが始まった当初、朝日放送テレビ(ABCテレビ)の『newsおかえり』の特集コーナーでだいぶ長くしっかり放送していただきました。
あれがすごく大反響で、YouTubeにもアップしてくださって、1ヶ月経たないうちに100万再生を突破しました。(現在は配信終了)
あとは、NHKニュース関西『おはよう関西』でも放送していただいて、それがまた反響が良いということだったので、『おはよう日本』で全国放送していただきました。
支援者の方からはどんなお声がありますか?
支援してくださる企業さんは、自分たちができることは寄付することなので、子どもたちを支えている団体に託すことしかできないんだけど、ぜひ企業の存在意義としてお手伝いさせていただきます。というようなメッセージをいただいています
個人の寄付者の方からは「食べさせてあげてください」というようなメッセージをいただけますね。
提携されている飲食店の方からのお声はありますか?
飲食店さんからいただく声としては、こうやって子どもたちが来てくれて、地域の役に立っているという自分たちのコミュニティプライドが育っていくそうです。
「自分が飲食店やって本当に良かった。ずっと何かしたいと思ってたんです。力になれて良かったです。」ってすごいおっしゃってもらえています。
活動の目標を教えてください。
全ての子どもの永続的解決をしたいんですよね。虐待と貧困が繰り返されている根本を断ちたい。
そのために、ドコデモこども食堂が今直近で目指している目標は、まず1,000世帯をカバーしていくこと。その次には全県でドコデモこども食堂があるという状態、さらにその次の段階では全ての自治体にドコデモこども食堂があるという状態を目指しています。
チケット代だけ資金を確保できたら、飲食店がない場所は存在しないので、この仕組みさえあれば拡大できます。
岩朝 しのぶ
1973年宮城県生まれ。
先天性の病気により16回の手術を経験するも、シングルマザーの母親に支えられ幼少期を過ごす。25歳で起業し約50名の通信業・広告代理業の代表に就任。
不妊治療を経て養育里親になったのを機に、10年以上里親を経験。
- 一般社団法人明日へのチカラ代表理事
- 南大阪みささぎライオンズクラブ 元会長
- 大阪を変える100人会議 第5期世話人
団体概要
法人名:一般社団法人明日へのチカラ
住所:大阪府大阪市天王寺区上汐3丁目2番16号 アリビオ上本町502
代表理事:岩朝 しのぶ
理事:
山田安廣
東信吾
平尾恒明
大塚芳紘
野澤智子
設立:2022年3月
文:高崎
撮影:大藤
制作・著作:DO DASH JAPAN株式会社
当メディアに掲載/取材をご希望の団体さまは自薦多選問わず以下フォームよりお問い合わせください。
お問い合わせ:https://www.dodash.co.jp/
編集後記
今日本では子どもの9人に1人が相対的貧困(その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態)だと言われています。未曾有のパンデミックや、インフレによる物価高騰が貧困を助長し、途方にくれている世帯は思っていたより多いのです。
インターネットやSNSが発達し、社会がデジタルシフトしていく中、人々や地域との触れ合いは減り、不寛容な社会によって取り残されてしまう子どもは最大の被害者なのかもしれません。
筆者が子どもの頃(筆者は30代後半)は、近所の人とは顔見知りだったし、彼らは私たちの名前を呼んでくれた。親の帰りが遅ければ向かいのおじちゃんの家でTVを見ていたし、おばちゃんはお菓子をくれた。核家族化が進み、地域性が失われつつあり、世帯同士で助け合っていたような繋がりは失われてしまったように思います。
技術の進歩によって気薄になってしまった人と人との繋がりを、再びデジタルによって再構築しようとするドコデモこども食堂の取り組みは、これからの社会課題解決の新しい一歩となりそうです。