【家庭訪問型 子育て・虐待防止支援】NPO法人バディチーム/代表 岡田妙子さん

子育ての課題が多様化する今の日本において、家庭に寄り添う形で支援を行うNPO法人バディチーム。その活動をけん引するのが、代表の岡田妙子さん。
家庭訪問型の支援を通じて、虐待の予防や子育てに悩む家庭をサポートしています。

「子どもの笑顔や親御さんの負担が軽減される瞬間が、私たちの支援の意味を実感する時です」と語る岡田さん。その言葉には、活動に込めた熱い想いと誇りがにじみます。自治体との連携や地域住民の参加を促し、年間約300世帯に支援を届ける一方で、まだ手が届いていない家庭も多いとのこと。

この日は、同団体の立ち上げから現在に至るまでの歩み、子育て支援の現状と課題についてお話を伺いました。岡田さんの言葉を通じて、地域全体で子育てを支え合う社会の重要性を再認識するきっかけとなるはずです。

この記事は約12分で読めます。

バディチームさんの活動内容を教えてください

主な活動内容としては、さまざまな事情や背景がある中で、子育てが大変になっている家庭や里親家庭などを訪問し、保育、家事、送迎、学習支援などを通じて親子に寄り添うという活動を行っています。

具体的な事業内容としては、自治体からの委託事業が三本柱としてあります。

委託元は児童相談所や子ども家庭支援センターで、「困難な状況にある家庭への訪問支援事業(子育て世帯訪問支援事業など)」「里親家庭支援事業」「食の支援事業」の三つの事業をメインに行っています。

「子育て世帯訪問支援事業」についてですが、こちらは国の虐待防止対策の予防的な事業と位置づけられており、都内12区で実施しています。

次に、「里親家庭の支援」についてですが、社会的養護として実親が育てられない子どもたちは、児童養護施設や里親家庭で暮らしていますが、里親さんも実は多くの苦労を抱えながら子どもを育てておられます。
そうした里親家庭を支えるために、訪問型の支援を行っています。

三つ目の「食の支援事業」ですが、こちらも家庭を訪問して食事作りをサポートする事業になっています。

食材費の助成が出ることもあり、経済的に困難な家庭にとっても助けになる支援です。

各地域には、私たちバディチームで雇用している子育てパートナーや、自治体に登録している地域支援員の方々で支援を行っています。

さらに、数年前からは「制度の狭間」にある家庭に対して、民間団体との連携による家庭訪問事業も始めました。

加えて、今年度(2024年時点)からは、「小さな居場所事業」もスタートし、特に子ども食堂や一般の居場所など不特定多数の人がいる所には行きづらい子どもや親子を対象に居場所の提供を始めています。

小さな居場所事業では親子で訪れることができるスペースがある
家具やおもちゃはIKEAさんからのご支援があったとのこと

支援対象となるご家庭はどういった問題を抱えているのでしょうか?

対象となる要支援家庭には、訪問による支援が行われていますが、さまざまなご事情があり、経済的な困窮や心身の不調、病気や障害、DV被害など複雑な背景を持つ家庭も多いです。

保護者自身が適切な養育環境を知らずに育ったケースも多く、掃除の仕方を知らなかったり、手作りのご飯ややさしい言葉に触れてこなかった方も少なくありません。

さらには精神的な不調や発達特性を抱える親御さんもいらっしゃいます。

こうした複合的な要因が絡み合っている家庭に対して、私たちは指導ではなく、寄り添いを重視する訪問支援を行っています。

虐待相談対応のケースはどのようなものが多いのですか?

統計上は、心理的虐待のケースが最も多いですね。

例えば、夫婦間でDVがあり、子どもがそれを目撃することも心理的虐待とみなされます。

心理的虐待が全体の6割を占める〈福祉行政報告例〉

虐待の通報経路としては、実は警察からの通報が最も多く、次いで近隣住民や学校の先生からの通報が続きます。虐待は身体的なものに限らず、心理的な側面も含むため、非常に広範な問題となっています。

一般にはあまり知られていないかもしれませんが、虐待の中には「教育過多」というケースがあるんです。

親が子どものために一生懸命になりすぎて、手をあげてしまう。こちらも心理的虐待に含まれます。

ご家庭は、どのように選ばれるのでしょうか?

こちらは自治体の児童相談所や子ども家庭支援センターに寄せられた情報に基づいて決まります。

希望者全員が受けられるわけではありませんが、心配な家庭についての様々な関係機関からの相談を受けて、その中でも特に支援が必要と判断された家庭に対して、無料もしくは低額な自己負担金でサービスが提供されています。

支援が必要とされる要因は実に様々

支援対象となるご家庭はどれくらいの数なのでしょうか?

現在、担当している支援対象の家庭数は年間で約300ほどです。

以前はもっと多かったのですが、最近ではより支援が必要な家庭を優先して絞り込んでいる状況です。

ただ、孤立していて、まだ見つかっていない家庭もあると思いますので、実際の支援ニーズはさらに多いと感じています。

対応件数は年々上昇、対応に至っていないケースはまだまだある

衛生的、倫理的に厳しい環境の家庭もあると想像します
パートナーさんや現場での対策にはどのようなものがありますか?

はい、実はあります。

そうした状況を知ってもらうために事前に「活動説明会」を実施しています。

そこで、支援対象となるご家庭の状況や、支援に伴う大変さを説明することで、自身に適性があるかを考えてもらうようにしています。
また、説明会ではご家庭の環境をイメージするような写真をお見せし、「このような家庭での支援になります」と事前に知ってもらうことで、自主的に判断してもらうという側面もあります。
それでも”想い”がある方は多く、子どもや家庭を支えたいという気持ちで関わってくださる方がたくさんいらっしゃいます。

ホームページには子育てパートナーの採用ページがある

子育てパートナーはどういった方が多いですか?

バディチームでは、事務局スタッフが18名、子育てパートナーが80名、地域支援員が120名といった形で多くの方に関わっていただいています。

性別や年齢、経験や資格の有無に関係なく幅広いスタッフを募集していて、学生さんから主婦の方、企業に勤めている方までさまざまな方が支援に携わっています。

中には80歳近い支援者さんもいらっしゃいます。

子育てパートナーさんの人数はどれくらいいらっしゃいますか?

現在の登録数は80名ほどですが、皆さんそれぞれの空いている時間に参加されるため、週に1回程度の参加が多く、実稼働は約40名ほどです。

支援ニーズを考えるとまだまだ十分な人数とは言えません。

支援が必要なご家庭はとても多く、児童相談所だけでは対応しきれないため、私たちのような民間の団体ができることも多くあります。

食の支援事業についても教えてください

この支援は、子ども食堂に行くことが難しい家庭にも対応する形で、訪問型で行っています。

自治体の調査で、子ども食堂にさえ行けない家庭があることが明らかになりました。

精神的に不安定であったり、病気や障害のあるご家庭など、居場所に行くのが難しい方々に向けて、お宅に伺って食事作りの支援を行う形です。

活動の中で印象に残っているエピソードはありますか?

普段IT企業で働いている男性が、休日に支援に参加しているケースがありました。

多くの子どもがいる家庭を訪問し、部屋も相当汚れていたのですが、子どもたちと一緒に掃除をしたり、ダンボールで棚作りをしてあげたりと、子どもたちと楽しみながら支援を行っていたのが印象的でした。

また、過去に色々あった若年のご夫婦で、赤ちゃんが生まれたばかりの家庭に支援に入るケースがありました。

どうしても過去の経験からか、子育てに難しさがあり、まわりが『保育園入園』をアドバイスをしてもなかなか聞き入れてもらえない。

そこに、バディチームの80歳近い支援者さんが入っていって食事を作るところからはじまりました。

こうした親御さんは、行政支援に抵抗を示す方が多いのですが、支援者さんが定期的に訪問し続け、温かい食事を作ってあげることで、時間が経つにつれおばあちゃんみたいな関係性が作られていきました。

結果的にその80歳近い支援者さんの一言で夫婦は保育園に入れることを決めました。

継続していく中で信頼関係が築かれ、支援がうまく機能することもあります。とても印象的だったエピソードです。

バディチームが作られたキッカケを教えてください

2000年に「児童虐待防止法」が制定されたことがきっかけです。

当時、私自身も子育ての真っ只中にいて、また以前には精神科の看護師として働いていた経験もありました。その仕事の中で、生きづらさを抱える方々の多くが、子ども時代に虐待や過酷な環境を経験してきたことを知っていました。

児童虐待防止法ができたことで、子どもたちが虐待によって命を落とす事件が次々と報道されるようになり、社会全体で虐待問題への意識が高まっていた頃です。

そうした状況に対して、自分も何か行動しなければと考えていた時期に、ある地域で「養育困難家庭へのホームヘルプサービス」が行われていることを知りました。

その活動に関わる中で、「家庭に入るからこそ見えること」「家庭との長期的な関係の中で、変化が起こること」があると実感しました。

このような支援を広げることで、もっと多くの子どもたちと家族を支えられると感じたことが、バディチーム設立のきっかけです。

ミッション・ビジョンについて教えてください

私たちのミッションは「子育てが大変になっている家庭の子どもも親も、生まれてきて良かったと思えるように支援する。歩みを支える」ことです。

子どもだけでなく、親も含めてその人らしく生きられるようサポートしたいと考えています。

ビジョンとしては「みんなで子育てする社会」を掲げており、年齢や経験を問わず多様な人が関わることで、さらには行政と民間と連携し、地域社会全体で子育てを支えることが大切だと考えています。

地域によって支援の格差はあるのでしょうか

そうですね。例えば私たちは都内の13区で活動していますが、予算規模や取り組みの進め方は自治体によって異なり、対応にかなりの差があります。

支援の制度や仕組みさえない地域もあるほどです。

ですから、児童相談所のような公的機関だけでなく、私たちのような民間団体が支援を行うことで、支えられる範囲が広がることを目指しています。

今後の目標や計画についてお聞かせいただけますか?

現在、私たちが訪問支援を行っている家庭は年間約300世帯ですが、まだまだ支援を必要とする家庭は非常に多くあります。

特に、制度の枠に入らない家庭への支援を自主事業として拡充したいと考えています。委託事業の三本柱に加えて、今後は自主事業の割合を増やし、制度の狭間にある家庭や、経済的に困窮している家庭にもより多くの支援を届けていきたいです。

また、居場所事業も、少人数で子どもたちが安心して過ごせる小規模なものが増えるような取り組みをしていきたいと思っています。こうした居場所の提供が、地域にとっても意義ある取り組みとなるよう、少しずつ拡大していくことが目標です。

安定した支援を得るための課題はありますか?

私たちは今後、委託事業に加えて、より多くの自主事業を行うための寄付金の確保が重要だと考えています。制度の狭間にある家庭を支援するためには、民間からの資金が欠かせません。

寄付金を増やすことで、制度に頼らない新しい支援体制を整え、広範な地域やご家庭に訪問支援を届けていきたいです。

地域ごとに事情やニーズが異なるため、地域住民や企業と連携しながら、その地域の特性に合った支援を展開することも目指しています。これにより、地域全体で子育てを支え合う環境を構築したいと思っています。

読者の方々へのメッセージをお願いします

私たちバディチームは、虐待防止を目的に、様々な事情や背景があって子育てが大変になっている家庭に訪問して保育、家事、送迎、学習支援などを行っています。

学生さんから80歳近い方まで、年齢や性別、経験を問わず、子育て支援の仲間「子育てパートナー」を募集しています。

支援活動への参加が難しいという方も、SNS(FacebookやX:旧Twitter)での応援や寄付によるご支援が大変助けとなります。

寄付を通じていただいたご支援は、制度の狭間にある親子へと訪問支援を届けるための力になります。

皆さまの温かいご支援をお待ちしています。

どうぞよろしくお願いいたします。

編集後記:あとがき

今回のインタビューを通じて、NPO法人バディチームの活動が、どれほど多くのご家庭にとって希望の光となっているかを強く感じました。

家庭訪問型の支援というスタイルは、支援を必要とするご家庭にとって非常に効果的でありながら、支援者さん側の根気や情熱も大いに求められる取り組みです。

虐待防止や子育て支援は、社会全体で取り組むべき課題です。
制度の狭間にいるご家庭を支えるために必要な資金の確保や、地域の理解を得ることなど、バディチームが直面する課題はまだ山積みですが、その活動の意義は計り知れません。

団体概要

団体名:特定非営利活動法人バディチーム

所在地:〒162-0822 東京都新宿区下宮比町2-28-830

Tel:03-6457-5312

代表理事:岡田 妙子

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。