この日本では、難病や怪我による長期入院で社会や友達から切り離され、貴重な勉強や遊びの機会が少なくなってしまう子どもたちがいます。今回ご紹介する認定NPO法人ポケットサポートは、そうした孤独を抱える子どもたちのため、学習支援や復学支援に加え、同じ境遇の仲間たちとのコミュニケーションの場を提供しています。
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『認定NPO法人ポケットサポート』は、難病によって学校に通えなくなることで、勉強や友達との触れ合いが少なくなってしまった子どもたちのため、学習支援や復学支援などを提供している団体です。
これまでに、読売新聞、日本経済新聞に始まり、NHKや文部科学省の機関紙にも掲載の実績があります。2018年には、岡山の経済活性化や人材育成を目的とした次世代のリーダーを選出する「オカヤマアワード2018 NPO・ボランティア部門賞」にノミネートされました。
READYFORが主催するクラウドファンディングにも過去2回挑戦、いずれも目標額を大きく上回る達成率を得ています。
目次
難病の子どもたち
日本で、小児がんや心臓の病気などのとても重い病気を患ってしまった子どもはどのような生活をし、未来を経験するのでしょうか。
病気やケガを理由とした長期欠席している児童生徒は、令和2年度は4.6万人、令和3年度は5.7万人と近年で最も多くなっています。しかしながらその子どもたちや両親を生活面、精神面で救済する制度が日本にはまだありません。
認定NPO法人ポケットサポート 代表理事 三好 祐也さん
2015年にポケットサポートを設立した三好 祐也さんは、病弱教育、院内学級を研究テーマとしながら自身の経験を通じて10年以上にわたり、病弱児の学習・復学などの自立支援と環境理解のための講演活動を行っています。
2018年には岡山市より認定を受けた「認定NPO法人」となり、非営利組織の信頼性の証でもある「グッドガバナンス認証」を同県で初めて取得しました。
今回は、ポケットサポート代表理事 三好 祐也さんに詳しくお話を伺い、彼らが向き合う社会課題やその想いについて取材しました。
難病をご経験されたと伺っておりますが、そうした原体験がポケットサポートの活動に繋がっているのでしょうか。
5歳の頃に慢性のネフローゼ症候群という腎臓の病気を発症して、生活が一変しました。「もうこの子の病気は治りません」と主治医に言われて、母親は泣いていましたね。
毎日の投薬と点滴をしながら、ベットからは動けない。何より子どもにとっては窮屈で退屈な空間なんですね。見上げれば白い天井、横には点滴がある。
友達とも遊べないし、学校にももちろんいけない。会話や流行にもついていけなくなって、塩分や水分の制限があるから、ポテトチップやコーラとか飲みたいじゃないですか(笑)。
お母さんも、入院に付き添う為にお仕事も辞めて、母親自身が目標にしてたキャリアだったり、自分の病気がきっかけで奪ってしまった。子どもながらに親に迷惑を掛けているんじゃないかなとか 弟に寂しい思いをさせているんじゃないかなっていうのを抱えながらも、病気とも向き合わないといけない。
だけど僕の場合は、小学校2年生の時に病院の中に『院内学級』という”長く入院する子達が通う学校”ができたんです。
5歳で難病発症、”院内学級”という存在
”院内学級”とは、一般にはあまり知られていない存在であるように感じます。どのようなところでしょうか?
院内学級は、学校なので先生がいて、国語とか算数の勉強があって、休み時間には同じように入院している子どもたちが集合して、トランプしたりゲームしたり、入院しながらも充実した子どもらしい生活が送れるんです。
何より、同じような子が近くにいることで”自分一人がそういう境遇じゃないんだ”って感じたことはとても大きかったです。母親も、子どもと病気から離れる時間ができて、少し自分の時間が持てたりとか、同じように闘病するママ友ができて情報共有ができたりする。
しかし病気やケガを理由として長期欠席をしている子どもはたくさんいますが、全国のたった3割の病院にしか院内学級が整備されていません。闘病している者同士が関わるという場が、本当に今少なくなっている。けどそうした子どもたちを救う制度がないんです。
誰もやらないんだったら、自分がやるしかないと思って、ポケットサポートを設立しました。
団体名である”ポケットサポート”にはどんな意味が込められているのですか?
病気によって起こるさまざまな空白、学校に通えないことであったりとか、同世代の友達と遊べないことであったりとか、自分一人がこんな思いをしているんじゃないかなっていう心の空白みたいなもの。制度では救いきれない中に埋もれているポケットを僕らはサポートしていきたいという想いでポケットサポートと名付けました。
ポケットサポートではどのような活動を行っているのでしょうか?
入院中に学校に行けない間の学習支援や、復学の支援、退院後の進学のサポートをしています。また、同じように闘病している子ども同士を繋ぐコミュニティーづくりだったりとか、病気の子どもに関する理解の啓発などを行っています。
子どもたちからはどんな声がありますか?
周りに同じ境遇の人たちがいることの心強さを語ってくれた子や、「みんな応援してくれてるんやな。がんばらないと!!」と言ってくれた子もいます。
保護者の方からは、「検査入院や通院でなかなかゆっくりできず、疲れ気味でしたが、元気を頂きました。」と嬉しい声をもらっています。
ポケットサポートの目標を教えてください
ポケットサポートは2025年に10周年を迎える予定なんですけど、病気の子どもたちが集える相談ができたり、勉強ができたり、色んな想いが叶えられる支援拠点を新たに迎えたいと思っています。今はそのための仲間集めや準備に力を入れているんです。
これを読んでくださる方には、ポケットサポートの仲間『ポケサポ応援団』になってくれると嬉しいなって思ってます。
難病を取り巻く課題、求められる支援の輪
支援者の方はどのような方がいらっしゃるのでしょうか?
支援者の方の中には、ご自身も難病のお子さんを抱えており、「子どもたちが病気で苦しむことを少しでも減らせるよう、生きたい学びたいを支援させて下さい」と仰ってくださる方や、「三好さんの活動、心打たれるとともに身の引き締まる思いです。お手伝い致します。」と声をかけてくださり、とても心強く感じています。
どのような仲間/職員/スタッフの方がいらっしゃるのでしょうか?
スタッフの大半も、実は難病の経験のある人たちがほとんどなんですね。僕らも当事者なんです。当事者だからこそ分かり合える気持ちだったりとか、こういうことがあったら良かったのにと、自分たちが悩んだり苦しんだり悔やんだりしてきたことを形にできる。それが強みかなと思っています。
これからも仲間や理解者や支援者を増やしていく、学校の先生も、病院の先生も、教育委員会や行政、ポケットサポートもみんなで多職種で連携してネットワークを作りたい。
それが僕の一番の仕事だと思っているので、”この子たちのために何とかしたい”と思う輪を広げていくことが一番のミッションです。
僕はお世話になった大学病院の付属の大学で院内学級のボランティアや、病気の子ども専門の家庭教師業みたいなことから始めました。大学院では病弱教育っていう分野なんですけど、病気の子どもの教育について研究していました。
だから僕は当事者であり、専門家であり、支援者なんです。
私たちの活動は、寄付によって成り立っています。頂いたご寄付は、病気の子どもたちへの学習支援や復学の相談、彼らが自立をしていくための活動全てにあてられるようになっています。活動に共感いただいた方は、ぜひご支援ください。
三好 祐也
5歳で慢性のネフローゼ症候群を発症
義務教育のほとんどを病院で過ごす
岡山大学経済学部卒業
岡山大学大学院保健学研究科修士課程修了
研究テーマ:病弱教育、院内学級
自身の経験を通じて10年以上にわたり、病弱児の学習・復学などの自立支援と環境理解のための講演活動を行う。講演は学会や大学、小・中学校、福祉関係など多岐にわたっている。
団体概要
団体名:認定特定非営利活動法人ポケットサポート
代表理事:三好 祐也
事務所所在地:〒700-0932 岡山市北区奥田本町22-2
事務所メール:info@pokesapo.com
活動開始時期:平成23年7月
法人格取得:平成27年11月
(平成30年4月13日に認定取得)
文:高崎
撮影:大藤
制作・著作:DO DASH JAPAN株式会社
【編集後記】
ポケットサポートと関わる子どもたちの中には、小中学生と入退院を繰り返していましたが、学習や復学支援を受け無事に高校へ進学、その後”今度は僕が支えたい”と言って医療系の進路に進んだ子もいます。看護師になる夢を叶えた子や、学校の先生になった子もいるそうです。
支援の輪が広がってほしい
私にも幼稚園に通う子どもがいますが、彼が2歳半の時に自転車と接触し腕を骨折したことを思い出しました。今でも手術室で泣き叫んでいた凄まじい声が時折聞こえてきます。一生忘れることはないでしょう。
彼はその後、大好きだったお風呂が怖くなり、戦いごっこが嫌いになり、自転車や車を見るだけで体が硬直し動けなくなることがありました。完治するまでは3ヶ月程度でしたが、両親である私たちはあの手この手で彼を外に連れて行ったり、ただでさえままならない生活の補助に明け暮れました。
そんな中、これまであまり興味を示さなかったはずの”本の読み聞かせ”や”あいうえおの練習”に彼がなぜか没頭したのは、なんとしてでも自分の症状や気分、感情を”言葉”にしなければいけないと、彼自身学んだことなのだと思います。
三好さんは語りました。
「医療は子どもの命を救うことができる。教育は子どもの心を救うことができる。」
学ぶことは生きることだ。
病気やケガのせいで奪われてしまった貴重な機会と未来を、応援していきたいと思います。