データあり【実態調査】日本の貧困問題と現状を読み解く

日本社会では、表面上は豊かな生活が営まれているように見えますが、その裏には多くの人々が貧困に苦しんでいます。
特に「相対的貧困率」と呼ばれる指標は、社会全体の中で、一定の収入以下で生活する世帯の割合を示すもので、貧困問題の実態を浮き彫りにしています。

本記事では、厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査をもとに、貧困の現状とその背後にある要因、そして今後の課題について詳しく見ていきます。

※本記事は厚生労働省が令和5年に報告した以下の資料を参照/引用しています
2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況


1. 日本の現在の貧困の状況について

1-1. 相対的貧困率の推移

日本の相対的貧困率は、2021年のデータで15.4%とされています。これは、所得が日本全体の中央値の半分未満の世帯がどれだけあるかを示すものであり、簡単に言えば、経済的に苦しい生活を強いられている人がどれほどいるのかを表しています。

貧困率の年次推移

相対的貧困率が15.4%という数字は、日本の約6分の1の人がこの貧困状態にあることを意味します。この水準は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも比較的高く、特に先進国の中では注目されるべき数字です。

具体的に見ると、貧困線(相対的貧困の基準となる年収)は127万円となっており、これ以下の年収で生活する世帯が多いことがわかります。
中でも、ひとり親世帯の貧困率は44.5%と、非常に高い数字が示されています。これは、特にひとり親世帯が直面する経済的困難の深刻さを反映しています。ひとり親世帯では、一人で家計を支える必要があり、育児と仕事を両立させる難しさが影響しています。

貧困率の年次推移

さらに、貧困層の増加は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって一層悪化しました。多くの人が仕事を失い、収入が激減した結果、もともと貧困線上にいた人々がさらに追い詰められました。これらのデータは、現在の日本社会が抱える深刻な経済格差を如実に示しています。

1-2. 子どもの貧困率

特に問題視されているのが、子どもの貧困率です。子どもの貧困は、単なる経済的な問題にとどまらず、教育機会の欠如や将来的なキャリア形成にも悪影響を与える重大な問題です。2021年のデータでは、子どもの貧困率は11.5%まで低下しましたが、それでも日本の子どもの約1割が貧困状態にあるということです。

子どもの貧困は、多くの場合、その家庭の所得格差が大きな要因となっています。親の所得が低いと、子どもたちが必要な教育を受けるための環境が整わず、将来的に社会に出た際にも困難を経験しやすくなります。特に、ひとり親家庭や低所得家庭では、進学や塾などの教育的サポートを受けることが難しく、その結果として貧困の連鎖が生じてしまうのです。


2. 世帯や所得、生活意識から見える日本の状況について

2-1. 所得の分布と格差

日本社会における所得分布を見てみると、その格差が鮮明です。
全体の61.6%の世帯が、平均所得(545万円)以下で生活しており、特に「200〜300万円未満」(14.6%)や「100〜200万円未満」(13.0%)の世帯が多くを占めています。このように、全体の所得格差が大きいことが、日本における貧困の主な要因の一つと考えられます。

各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移

所得格差が広がる背景には、正規雇用と非正規雇用の割合の違いがあります。
特に、非正規雇用で働く人々は、安定した収入を得ることが難しく、仕事が不安定なため収入の変動も大きくなりがちです。このような不安定な状況が、貧困層の拡大に拍車をかけているのです。

所得金額階級別世帯数の相対度数分布

さらに、2020年から2021年にかけての所得の変動を見ると、新型コロナウイルスの影響で多くの業種で収入が減少していることがわかります。
このパンデミックによって、特にサービス業や観光業などで働く人々が大きな打撃を受け、多くの家庭で収入減が避けられませんでした。

2-2. 世帯主の年齢と所得格差

世帯主の年齢によっても、所得には大きな差があります。
50~59歳の世帯が最も高い平均所得742万円を得ている一方で、29歳以下の世帯主の平均所得は377万円と低い水準にとどまっています。このような世代間の所得格差は、日本の雇用システムや長期的なキャリア構築の違いに起因しており、若い世代が特に厳しい経済状況に置かれています。

世帯主の年齢階級別にみた1世帯当たり-世帯人員1人当たり平均所得金額

若年層の所得が低い理由の一つに、非正規雇用の割合が高いことがあります。
若年層では、アルバイトや契約社員など、正規雇用に就けない人が多く、こうした不安定な雇用形態が若い世代の所得水準を押し下げています。また、正規雇用に比べて福利厚生が少なく、将来的な貯蓄も難しいため、若年層が経済的に厳しい状態に陥りやすいと言えるでしょう。

2-3. 生活意識の現状

貧困の影響は、単に所得だけにとどまりません。
生活意識調査では、日本の世帯の約51.3%が「生活が苦しい」と感じていることが報告されています。特に母子世帯では、75.2%が「苦しい」と回答しており、こうした世帯が日常的に大きなストレスを抱えていることがわかります。

生活が苦しいと感じる理由は、物価の上昇や家賃の負担、さらに子どもの教育費用などが挙げられます。
特に、ひとり親世帯では一人で家計を支えるため、こうした負担が重くのしかかります。コロナ禍においては、リモートワークができる職種とそうでない職種の格差も広がり、これもまた生活苦を助長する要因となりました。


3. その他貧困に関わる要因や背景

3-1. 高齢者世帯の増加と貧困リスク

日本の高齢者世帯は増加傾向にあります。2022年の調査によると、65歳以上の単独世帯は全世帯の31.8%を占めており、年金生活に頼らざるを得ない高齢者が多く存在します。特に、貯蓄が少ない高齢者世帯では、生活費の削減が難しく、日常生活に困難を感じている人も少なくありません。

高齢者の貧困は、今後の日本社会においても大きな課題です。
年金制度の維持が難しくなる中で、どのように高齢者が安定した生活を送ることができるかが、社会全体の負担軽減にも繋がります。

3-2. 児童のいる世帯の現状

児童のいる世帯においても、貧困は深刻な問題です。児童を持つ世帯は全体の約18.3%を占めており、そのうちの多くが「夫婦と未婚の子のみの世帯」となっています。
しかし、特にひとり親世帯の貧困率が高く、経済的なサポートが不足している現状が続いています。

児童の有無と世帯構造の年次推移

教育費用や医療費など、子どもを持つ家庭にかかるコストが増大している中で、ひとり親世帯はそれらの負担を一人で担わなければならないため、困窮するケースが多いです。
特に、子どもの進学や塾通いなどの選択肢が少ない場合、将来的なキャリア形成にも悪影響を及ぼす可能性があります。

3-3. ひとり親世帯の就業状況と貧困

ひとり親世帯の母親の75.7%は何らかの仕事をしていますが、その多くが非正規雇用です。非正規雇用では安定した収入が得られないだけでなく、福利厚生や年金への加入も難しいため、将来的な生活に不安を抱える人が多いのです。

また、非正規雇用では給与が少なく、家賃や光熱費などの基本的な生活費を賄うのが難しいという現実もあります。特に、地方に住むひとり親世帯では、就業機会が限られているため、より貧困リスクが高まります。
これらの状況から、ひとり親世帯に対する支援が重要となっています。


デジタル格差と貧困

ここで一つ、独自の視点として「デジタル格差」を取り上げたいと思います。
現代社会では、インターネットやデジタル技術が日常生活のあらゆる面で重要になっており、これを活用できるかどうかが、経済的な成功にも影響を与えています。特に教育や職業訓練の場面で、デジタルツールの利用が当たり前となっている一方で、貧困層では十分なデジタルリソースにアクセスできないケースが多いのです。

ひとり親家庭や低所得層の家庭では、パソコンやタブレットを揃える余裕がないため、子どもが十分な学習環境を整えられなかったり、求職活動においても不利な立場に置かれることがあります。このようなデジタル格差は、貧困の連鎖を助長する要因の一つと言えます。


まとめと今後の課題

日本における貧困の現状は、ひとり親世帯や高齢者世帯に集中しており、相対的貧困率も高いままです。
こうした世帯に対する具体的な支援策が、今後の政策に求められます。さらに、デジタル格差や地域間格差といった新しい課題にも対応する必要があるでしょう。社会全体でのサポートや政策の見直しが必要であり、個々の意識改革が求められるのではないでしょうか。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。