イエメン西部のある村。
朝になっても、家の中に朝食はありません。
母親は子どもにこう言います。
「今日はあとで、きっと何かあるよ」
けれどその「あとで」は、来ない日もあります。
空腹は特別な出来事ではなく、
我慢するもの、やり過ごすものとして、日常に組み込まれてしまっている のです。
国連はイエメンを、
「世界最悪の人道危機(the world’s worst humanitarian crisis)」
と表現してきました。
この記事では、
なぜイエメンがそこまで深刻な状況に置かれているのか、
特に 子どもたちの飢餓・栄養不良・医療崩壊 に焦点を当て、
ニュースでは断片的にしか語られない“構造”を丁寧に解説します。
目次
1. イエメンとはどんな国か──紛争以前から脆弱だった社会基盤
イエメンはアラビア半島の南端に位置する国です。
- 人口:約3,300万人
- 人口の約半数が18歳未満
- 中東でも最貧国のひとつ
- 水資源が極端に乏しい
紛争が始まる以前から、
イエメンは貧困率が高く、医療・教育・水インフラが十分ではありませんでした。
つまりイエメンは、
もともと「危機に耐える余力がほとんどない国」 だったのです。

2. なぜイエメンはここまで崩壊したのか
■ 内戦の長期化と国の分断
2015年以降、イエメンは本格的な内戦状態に入りました。
複数の武装勢力、国外勢力の介入により、戦闘は長期化・複雑化します。
その結果、
- 港湾・道路の破壊
- 食料・燃料の輸入制限
- 通貨価値の下落
- 公務員給与の未払い
といった 「戦闘以外の要因」 が、人々の生活をじわじわと破壊しました。
イエメンの危機は、爆撃だけでなく、
経済・物流・行政の崩壊によって深まっていった危機 です。
3. 子どもたちを直撃する「飢餓」という問題
■ 食べ物がないのではなく、「買えない」
イエメンでは、食料そのものが世界から消えたわけではありません。
問題は 価格 です。
- 失業率の上昇
- 給与未払い
- 通貨安による物価高騰
その結果、
多くの家庭が「食料を市場で買えない」状態 に陥りました。
特に子どもは、食事の回数や量を真っ先に削られます。
■ 深刻な栄養不良の実態
国際機関の推計では、
イエメンでは 数百万人の子どもが急性栄養不良 に陥っています。
栄養不良は単なる「空腹」ではありません。
- 免疫力の低下
- 感染症への脆弱性
- 身体・知能の発達への長期的影響
- 最悪の場合、死に至る
特に5歳未満の子どもにとって、
栄養不良は「静かな致命傷」 になります。
4. 医療崩壊──助かるはずの命が助からない理由
■ 病院が機能していない現実
イエメンでは、
医療施設の多くが以下の理由で機能不全に陥っています。
- 爆撃による施設破壊
- 医療従事者の不足
- 医薬品・医療機器の欠乏
- 電力・燃料不足
結果として、
- 出産時に適切な医療を受けられない
- 下痢や感染症で子どもが亡くなる
- 栄養治療が途中で止まる
といった事態が日常化しています。
■ 予防できたはずの病気が命を奪う
安全な水がない。
ワクチンが届かない。
治療薬がない。
これらはすべて、
紛争がなければ防げた可能性の高い問題 です。
イエメンでは、
コレラなどの感染症が繰り返し流行し、
最も影響を受けるのは常に子どもたちです。

5. 教育の喪失と「未来の消失」
飢餓と医療崩壊は、教育にも直結します。
- 学校が閉鎖
- 教師の給与未払い
- 子どもが働かざるを得ない
結果として、
数百万人の子どもが学校へ通えていません。
教育を受けられない子どもは、
将来、貧困から抜け出す手段を失います。
これは、
危機が次の世代へと引き継がれていく構造 でもあります。
6. なぜイエメンの危機は「忘れられやすい」のか
イエメンの状況は、
規模・深刻さのわりに、国際報道が少ないと指摘されてきました。
理由のひとつは、
- 紛争が長期化し、ニュース性が薄れる
- 映像が外に出にくい
- 単純な善悪構造では語れない
といった点です。
しかし、
報道が減ることと、危機が終わることは同義ではありません。
イエメンでは、
「何も変わらないまま悪化し続ける」という、
最も支援が届きにくい状態が続いています。
7. 国際社会はどのような支援を行っているのか
イエメンでは、主に以下の支援が行われています。
- 緊急食料支援
- 栄養治療プログラム
- 医療施設・移動診療所の運営
- 安全な水と衛生環境の整備
- 母子保健支援
- 教育の最低限の継続
しかし、支援資金は常に不足しており、
必要とされる支援量のすべてを賄えていない のが現状です。
8. 日本から考えるイエメン支援の意味
イエメンの危機は、
地理的にも文化的にも、日本からは遠く感じられるかもしれません。
けれど、
- 飢餓
- 医療崩壊
- 子どもの命の危機
これらは、
人間の尊厳に関わる普遍的な問題 です。
日本からできることは、
まず「知り、忘れないこと」。
そして、短期ではなく 長期的な視点で支援を考えること です。
おわりに──「最悪」と呼ばれる状況を、当たり前にしないために
「世界最悪の人道危機」という言葉は、
あまりに重く、抽象的に聞こえるかもしれません。
けれどその中身は、
今日食べるものがない子ども、
薬がなく命を落とす赤ちゃん、
学校に行けず未来を描けない少年少女 の集積です。
イエメンの子どもたちは、
何か特別なことを望んでいるわけではありません。
- 十分に食べること
- 病気になったら治療を受けること
- 学校で学ぶこと
それだけです。
この“当たり前”が戻らない限り、
イエメンの危機は終わりません。
そして、
その現実を知り続けることは、
私たちが世界とつながり続けるための、ひとつの責任でもあります。
