SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、国連加盟国が2030年までに達成を目指すべき17の目標で構成されています。この目標は、貧困や環境問題、教育機会の格差など、地球規模での課題を包括的に捉え、持続可能な社会を実現するために掲げられました。
今回はこの目標の中の一つ、目標1:「貧困をなくそう」について詳しくご紹介したいと思います。
SDGsの原点となっているのは、2001年に採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」です。MDGsは2015年までの達成を目指して策定された8つの目標で、特に貧困削減や教育、健康問題の解決に重点を置いていましたが、その達成状況を踏まえ、より包括的で明確な目標を新たに策定する必要があると認識されました。
こうして2015年に国連サミットで採択されたのが、2030年を達成期限とするSDGsです。MDGsを引き継ぎつつ、時代のニーズに合わせた拡張と深化が施されています。
SDGs全体のスローガンは「誰ひとり取り残さない(Leave no one behind)」です。これは、各国が地球全体の繁栄と平和を目指して協力し、途上国と先進国の格差を解消し、すべての人が尊厳ある生活を営めるようにするための強い決意の表れです。
この目標の中でも、最初にかかげられている「貧困をなくそう(目標1)」は、社会課題の中でも極めて重要かつ緊急性が高い課題です。この目標を達成することで、他の目標にも連鎖的に良い影響を与えることが期待されています。
目次
SDGsの目標1とは?目的とターゲット
目標1の概要
SDGsの目標1「貧困をなくそう」は、あらゆる場所であらゆる形態の貧困を終わらせることを目的としています。
特に「極度の貧困」とされる人々を対象とし、彼らが最低限の生活水準を超えるだけでなく、経済的自立を支援することで貧困の連鎖を断ち切ることも目指しています。
極度の貧困はただ物資が不足しているというだけではなく、栄養不良、健康問題、教育機会の欠如など、多方面での困難が連鎖的に発生しており、生活の安定には包括的な支援が必要とされています。
具体的には、基礎的なサービスへのアクセス、財産や土地の所有権、金融サービスの利用といった経済的資源への平等なアクセスが欠かせません。こうした支援が行き届くことで、単なる支援の受け手としてでなく、貧困層が自立的に生活の向上を目指す社会が目標とされています。
目標1のターゲット詳細
目標1を達成するためには、具体的なターゲットが設定されており、それぞれのターゲットは目標達成へのステップを示しています:
- 1.1 極度の貧困の撲滅:2030年までに、現在1日2.15ドル未満で生活する「極度の貧困層」をゼロにすることを目指します。この基準は、生活に必要最低限の支出を賄えない極端な貧困状態を指し、全世界でこの水準の生活を強いられている人々がいます。
- 1.2 各国基準での貧困削減:各国の定義に基づき、あらゆる年齢の人々に対する貧困状態を半減させることを目指します。絶対的な貧困だけでなく、相対的な貧困も対象とし、それぞれの国が抱える格差問題に合わせた対策を推進しています。
- 1.3 社会保護制度の整備:最低限の生活を守るための社会保護制度を整備し、脆弱層の保護を強化します。これは貧困層や、災害や病気によって脆弱な状況にある人々が対象で、持続可能な生活を支えるためのセーフティネットを構築することが狙いです。
- 1.4 経済資源への平等なアクセス:基礎サービス(教育、医療など)や財産、金融サービスへのアクセス権を、すべての人に平等に保障することを目指します。経済的資源の不均衡が貧困の原因となりうるため、こうした資源を公平に分配することで貧困問題を是正しようとしています。
- 1.5 レジリエンスの向上:貧困層が気候変動や経済・社会的ショックに耐えられる力(レジリエンス)を備えることが目標です。気候変動による災害や社会的な動揺が貧困層にとって大きなリスクとなる中、災害時に迅速な復旧や生活再建が可能な強靭な体制を構築します。
- 1.a 貧困削減のための資金調達と開発協力:貧困削減を実現するために必要な資金を確保し、国際的な協力体制を強化します。後発開発途上国を中心に、資金の流れを確保することで、貧困削減のための効果的な施策を推進します。
- 1.b 貧困層とジェンダーに配慮した政策:貧困層やジェンダーの違いを考慮し、より公平な社会を築くための政策を策定します。特に女性や子供が貧困の影響を受けやすい状況にあるため、彼らの生活向上につながる施策が求められています。
貧困削減が重要な理由
貧困が引き起こすリスク
貧困は、栄養不足や教育機会の欠如、医療へのアクセス制限、そしてそれに伴う健康悪化といった多方面にわたる深刻なリスクを引き起こします。
特に子どもにおける貧困は、人生の基礎を築くべき大事な時期において成長や学びの機会を奪い、未来の可能性を著しく制限します。これが「貧困の連鎖」と呼ばれる現象で、貧しい環境に生まれた子どもたちが十分な教育や栄養を得られず、将来的に経済的に自立したり、貧困から脱却することが困難になります。
たとえば、栄養不足が進行すると、健康状態や学力の発達に影響を及ぼし、結果的に成人してからの労働市場での競争力が低下してしまうのです。
また、貧困が経済成長の妨げになることも見逃せません。
貧困層が増加することで、社会全体の労働力が衰退し、労働人口の中で生産性の低下が引き起こされ、その国全体の経済成長にも悪影響を及ぼします。このことは、貧困削減が経済的な投資であることを示しており、持続可能な発展には欠かせない要素です。
貧困の削減は、社会全体の安定と成長を支えるための基盤であり、全ての人々が等しく生活の質を向上させるために必要なアプローチです。
極度の貧困層の現状
現代社会においても、極度の貧困に苦しむ人々の数は驚くほど多く、世界全体で約10人に1人が「極度の貧困」とされる状況で生活しています。この極度の貧困層は、主に南アジアやサハラ以南のアフリカ地域に集中しており、日々の生活が生存そのものと直結している状態です。
2022年の最新基準によれば、極度の貧困は「1日2.15ドル以下」で生活していることを意味します。つまり、食料、医療、教育、住居といった生活基盤のために1日わずか約300円(2024年時点の為替レート換算)で暮らさなければならないのです。
貧困は収入が少ないだけでなく、生活全般にわたり影響を及ぼす深刻な問題であり、そのためには多角的な支援が欠かせません。
南アジアやアフリカ地域の貧困削減にとって特に課題となるのは、貧困問題に対応する社会システムやインフラが十分に整っていないことです。これにより、災害や経済的なショックに見舞われた際に迅速な対応ができず、貧困問題がさらに悪化する傾向にあります。
たとえば、干ばつや洪水といった気候変動が引き起こす災害は、食糧不足やインフラの破壊をもたらし、生活基盤が弱い人びとに壊滅的な影響を与えます。こうした人々が生活を立て直すためには、ただの金銭的な支援にとどまらず、地域全体の復興や強靭な生活基盤の構築が求められています。
キフコのひとこと
貧困削減における新しい希望として、デジタル技術の活用が挙げられます。携帯電話やインターネットへのアクセスが急速に広がっている中でこれらの技術を利用した教育や金融サービス、医療支援は、貧困層にとってとても重要な意味を持っているんで。
例えば、モバイルマネーサービスを通じて、銀行口座を持たない人々でも安全に送金や貯蓄ができるようになったりと、経済活動の幅が広がっています。
また、オンライン教育の普及により、地理的にアクセスが厳しい地域の子どもたちにも質の高い教育が届けられるようになってきました。教育機会の格差を解消し、次世代の貧困率の低減に寄与することが期待されています。
日本の取り組みと企業の事例
政府の取り組み
日本政府はSDGsの目標達成に向け、地域に根ざした取り組みを支援するため、国内の29の自治体を「SDGs未来都市」に指定しました。
これにより各自治体は、持続可能な地域づくりのモデルとなるべく、SDGsの目標に基づく独自の計画を策定し、地域特有の課題に応じた取り組みを進めています。
京都市では、地元の観光業を支えながら持続可能な観光業の実現を目指し、観光収益の一部を社会福祉にあてることで貧困支援を行っています。また、自治体ごとに環境問題や福祉、経済格差といった地域のニーズを拾い上げ、特定のSDGsターゲットに焦点を当てた計画を推進しています。
政府はローカライズされた指標を採用しながら、地域の進捗を測ることで効果的な施策を展開しようとしています。SDGs未来都市の取り組みは、自治体が中心となって地域住民や企業と協力し、実際の生活改善に結びつけることを目指しており、SDGsの達成と地域振興の両立を狙っています。このような動きは、国が進めるSDGsの理念をより身近なものとして、地域の人びとにとっても具体的な目標を共有するきっかけとなっているようです。
企業の事例
SDGsへの取り組みは国内企業にも広がっています。
企業は、SDGsの目標達成を単なるCSR(企業の社会的責任)活動としてではなく、ビジネスの成長機会と捉え、貧困削減や環境保護といった課題に積極的に取り組んでいます。例えば、「おてらおやつクラブ」は、寺院から出る食品ロスを削減しながら、生活困窮者への食料支援を行うユニークな取り組みを実施。全国の企業や個人から寄付された食品を、支援を必要とする家庭や福祉施設に届ける活動で、フードロス問題と貧困支援の両方にアプローチしています。
グローバル企業の中には、途上国の貧困層に対して雇用を創出するプロジェクトを実施する企業も増えています。
例えば、あとるアパレル企業は途上国でのフェアトレード製品を生産することで、現地の雇用を確保し、経済自立を支援しています。
さらに、通信技術を利用して教育や医療サービスを提供するIT企業も登場しており、デジタル化によって遠隔地や社会的弱者の生活改善にも貢献しています。このように、多くの企業がビジネス活動を通じて、SDGsの達成に向けて直接的な貢献を果たそうとしています。
海外の取り組み
ユニセフや世界銀行の活動
国際的な貧困削減の取り組みには、ユニセフや世界銀行といった国際機関の活動が欠かせません。ユニセフは特に子どもの貧困を解消するために、栄養改善や医療支援、教育普及に力を入れています。
たとえば、今現在世界の約6人に1人が栄養不足に陥っているとされる中で、ユニセフは途上国の母子支援プログラムを通じ、食糧支援や予防接種などを実施しています。
教育面では遠隔教育プログラムの導入により、地理的にアクセスが困難な地域の子どもたちが質の高い教育を受けられるよう支援しています。
こうした取り組みは、子どもの健全な成長を促し、長期的には国全体の貧困削減にもつながると期待されています。
世界銀行もまた、発展途上国に対して大規模な財政支援と技術的な協力を提供し、貧困削減を支えています。農業や水資源管理、エネルギーインフラの整備を通じ、長期的に安定した生活環境を提供し、貧困からの脱却を目指す取り組みが行われています。経済成長の基盤となるインフラ整備は、現地の雇用創出にも貢献し、地域全体の持続的な発展を促進する要素として重要視されています。
他国の先進事例
世界の中でも、いくつかの国や地域では貧困削減に向けた先進的な取り組みが展開されています。
例えば、アフリカの一部地域では、国際NGOや多国間機関との協力によって生活インフラが整備され、清潔な水へのアクセスや基本的な医療サービスの提供が進んでいます。また、教育支援では「スクール・フィーディング・プログラム」という給食提供プロジェクトが実施され、栄養不足の問題を解消しつつ、就学率の向上にも貢献しています。
特にサハラ以南のアフリカ地域では、気候変動の影響が深刻化していることもあり、農業技術の改善や気候変動に対応した新しい栽培技術の導入が進められています。これにより安定した食料供給が確保されるだけでなく、農業に携わる人々の収入が向上し、地域経済が潤う効果も期待されています。さらに、各国は持続的な貧困削減に向け、国際的なパートナーシップや技術支援を強化することで、貧困に直面している地域が自立し、経済成長を実現できるよう取り組んでいます。
個人でできること
寄付やボランティア活動
貧困削減のために個人ができるアクションの一つが、信頼できる団体への寄付や、地域でのボランティア活動です。
たとえば、ユニセフや国際NGO、国内のフードバンク団体など、貧困支援を目的とするさまざまな団体が活動しています。ユニセフや国際赤十字などの団体に寄付をすることで、貧困地域の子どもたちやコミュニティに食糧や医療、教育などが提供され、生活が支えられるようになります。
また、地域で行われるフードバンク活動に参加するのも直接的な支援手段です。
日本国内にも、余剰食糧を集めて必要な人に届けるフードバンク団体があり、これらの活動を支援することで、食料支援が必要な家庭や子どもたちに食事が届くようサポートできます。
ボランティアはただの労働力提供にとどまらず、貧困問題に対する理解を深め、自らがその解決に貢献している実感を得られる点で大きな価値があるはずです。
知識と啓発活動
貧困問題の解決には、正しい知識を持ち、それを他者と共有していくことが大切なのかもしれません。
貧困の原因やその影響は非常に複雑で、多くの人がその実態や、それがどれほど深刻な影響をもたらすかについて十分に知らないこともあります。まずは自分自身で問題を学び、理解することから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ
SDGs目標1「貧困をなくそう」は、持続可能な社会を築くための基盤です。
貧困をなくすことは経済的な平等を確保し、すべての人が基本的な生活基盤を手に入れるために欠かせない要素です。それは、教育や健康、環境など、他のSDGs目標達成にも好影響を与えるとされ、社会全体に持続的な成長と安定をもたらします。
この目標の達成には、各国や各地域が協力し、企業、政府、個人が力を合わせることが求められています。
日本国内でも、政府や企業、個人が一体となり、より公平で安心できる社会を目指して貢献することが期待されていますから、私たち一人ひとりでも行動を起こし、社会的な連帯を築いていくことで、持続可能な未来が実現されることを願っています。
それではまた。