あなたの誕生日に、友人からプレゼントをもらう代わりに、応援したい団体への寄付をお願いしたことはありますか?
この新しい寄付のカタチが「バースデードネーション」です。
バースデードネーションとは、自分やペットの誕生日、団体の設立記念日など、特別な日をきっかけに寄付を集めるクラウドファンディングの仕組みです。アメリカでは既に広く浸透している文化で、Facebookでは誕生日になると自動的にファンドレイザーの作成を促す機能まで用意されています。
日本でも近年、この取り組みが注目を集めています。
特に2021年、競走馬「ナイスネイチャ」のバースデードネーションが支援者1万人超え、寄付総額3,600万円超えという驚異的な成果を上げ、大きな話題となりました。この成功により、バースデードネーションは日本でも本格的に認知されるようになったのです。
しかし、まだ多くの人にとって「誕生日に寄付をお願いする」ことは馴染みのない概念かもしれません。プレゼントをもらうのが当たり前だった誕生日を、社会貢献の機会に変えることで、どのような意味があるのでしょうか。
そして、どうすれば成功するバースデードネーションを実施できるのでしょうか。
目次
第1章:バースデードネーションとは何か
1.1 基本的な仕組み
バースデードネーションは、誕生日という特別な日を活用した寄付の呼びかけです。
従来の誕生日では、友人や家族からプレゼントをもらうのが一般的でしたが、バースデードネーションでは「プレゼントの代わりに、私が応援している団体に寄付をしてください」とお願いします。
この仕組みの魅力は、その気軽さにあります。寄付を求める側も、寄付をする側も、誕生日という自然な機会を活用するため、心理的なハードルが低くなります。
また、誕生日は年に一度必ず訪れるため、継続的な支援の機会としても活用できます。
日本では主に「Syncable(シンカブル)」というプラットフォームでバースデードネーションが実施されており、最小300円から寄付が可能で、税控除対象団体の場合はAmazonPayでも寄付ができます。
1.2 海外での普及状況
バースデードネーションの発祥はアメリカです。
特に「charity:water(チャリティーウォーター)」という団体が先駆的な取り組みを行い、多くの成功事例を生み出してきました。
Facebookでは、ユーザーの誕生日が近づくと自動的に「Birthday Fundraiser」の作成を促す通知が表示され、簡単にファンドレイザーを立ち上げることができます。
このシステムにより、世界中で数億ドル規模の寄付が集まっているとされています。
アメリカでの成功要因は、寄付文化の浸透に加えて、プラットフォームの充実とソーシャルメディアでの拡散力にあります。友人のバースデードネーションを見た人が、自分も実施するという好循環が生まれています。
1.3 日本での現状と特徴
日本でのバースデードネーションは、まだ発展途上の段階にあります。
しかし、いくつかの特徴的な成功事例が生まれており、その可能性が注目されています。
最も象徴的な成功事例が、競走馬「ナイスネイチャ」のバースデードネーションです。2019年に108万円、2020年に176万円の寄付を集めていましたが、2021年にスマートフォン向けゲーム「ウマ娘」の人気により爆発的に注目を集め、目標額の18倍となる3,600万円超えの寄付を獲得しました。
この成功により、日本でもバースデードネーションの認知度が大幅に向上し、様々な団体や個人が取り組みを始めるようになりました。
現在では、動物愛護、子ども支援、国際協力など、多様な分野でバースデードネーションが実施されています。

第2章:成功事例から学ぶバースデードネーションの効果
2.1 ナイスネイチャ現象:日本最大の成功事例
ナイスネイチャのバースデードネーションは、日本におけるバースデードネーションの可能性を示す最も重要な事例です。この取り組みの変遷を見ることで、バースデードネーションの成長過程と成功要因を理解することができます。
2019年(31歳): 108万円の寄付を獲得。この時点では、競馬ファンを中心とした限定的な支援でした。
2020年(32歳): 176万円に増加。前年の成功により認知度が向上し、支援者の輪が広がりました。
2021年(33歳): 36,250,191円という驚異的な金額を達成。「ウマ娘」効果により、競馬に興味のなかった層まで支援者が拡大しました。
2022年(34歳): 目標額を引き上げたにも関わらず、開始から6時間で目標達成。関心の高さが継続していることを証明しました。
2024年(メモリアル): ナイスネイチャの逝去後も「メモリアルドネーション」として継続され、寄付件数18,479件、総額74,889,338円という結果を残しました。
この成功の背景には、単なる人気だけでなく、引退馬という社会課題への関心の高まりがありました。多くの人が、競走馬の引退後の生活について初めて知り、その支援の必要性を理解したのです。
2.2 個人レベルでの成功事例
個人が実施するバースデードネーションでも、多くの成功事例が生まれています。これらの事例から、個人でも十分に意味のある支援を集められることが分かります。
NPO法人浜わらすの事例では、団体スタッフのバースデードネーションで70万円以上の寄付を獲得しました。
この成功の要因は、日頃からの信頼関係と組織的なサポートにありました。団体が組織として支援し、スタッフの個人的なネットワークと団体の支援者ネットワークを組み合わせることで、大きな成果を上げることができました。
青少年の自立を支える奈良の会では、団体設立10周年の記念として実施し、大きな成功を収めました。この事例の成功要因として、以下の4点が挙げられています:
1.焦らずに準備期間を設けた: 十分な事前準備により、支援者への適切な情報提供ができました。
2.既に応援している人がいることを可視化した: 初期支援者の存在を示すことで、他の人の参加を促しました。
3.団体設立10周年の誕生日祝いにした: 特別な意味を持つ記念日として位置づけました。
4.全体のスケジュール管理: 計画的な実施により、効果的な情報発信ができました。
2.3 バースデードネーションがもたらす多面的効果
バースデードネーションは、単に寄付を集めるだけでなく、様々な効果をもたらします。
寄付者への効果として、最も重要なのは社会意識の向上です。
バースデードネーションに参加することで、支援団体とその社会課題について「自分ごと」として考えるようになります。
誕生日という個人的な記念日を社会貢献に活用することで、社会とのつながりを深めるきっかけとなるのです。
団体への効果では、新規寄付者の獲得が最も大きな意味を持ちます。
バースデードネーションを実施する人の友人や知人は、普段その団体と接点がない場合が多く、新たな支援者層の開拓につながります。
また、誕生日は毎年訪れるため、継続的な支援関係を築くきっかけにもなります。
社会全体への効果として、寄付文化の普及があります。バースデードネーションは、寄付に対する心理的ハードルを下げ、より多くの人が気軽に社会貢献に参加できる仕組みを提供します。
特に若い世代にとって、SNSを活用した寄付の呼びかけは馴染みやすく、新しい寄付文化の形成に貢献しています。
2.4 成功要因の分析
これらの成功事例から、バースデードネーションを成功させるための共通要因が見えてきます。
準備期間の重要性は、すべての成功事例で共通しています。突発的に始めるのではなく、事前に支援者への説明や情報発信の準備を行うことが重要です。
ストーリーの力も重要な要素です。なぜその団体を支援するのか、どのような社会課題の解決を目指すのかを、個人的な体験や思いと結びつけて伝えることで、支援者の共感を得ることができます。
既存の関係性の活用も成功の鍵となります。家族、友人、同僚など、既に信頼関係のある人々から支援を始めることで、その輪を徐々に広げていくことができます。
継続性の意識も重要です。一回限りの取り組みではなく、毎年の誕生日に継続することで、支援者との長期的な関係を築くことができます。

第3章:バースデードネーションの始め方
3.1 実施前の準備
バースデードネーションを成功させるためには、十分な準備が不可欠です。
準備期間は最低でも1ヶ月、できれば2〜3ヶ月前から始めることをお勧めします。
支援団体の選定が最初のステップです。あなたが心から応援したいと思う団体を選ぶことが重要です。なぜなら、あなたの熱意が支援者に伝わり、寄付への動機となるからです。選定の際は、以下の点を考慮しましょう:
•その団体の活動に個人的な関心や体験があるか
•団体の活動内容や財務状況が透明に公開されているか
•寄付金の使途が明確に示されているか
•税控除の対象となる認定NPO法人や公益財団法人か
目標金額の設定も重要な準備の一つです。初回の場合は、無理のない範囲で設定することが大切です。一般的に、個人のバースデードネーションでは5万円〜20万円程度の目標設定が多く見られます。重要なのは金額の大小ではなく、その金額で何ができるかを具体的に示すことです。
ストーリーの準備では、なぜその団体を支援するのか、あなたの個人的な思いや体験を整理します。支援者は寄付先の団体だけでなく、あなたの思いに共感して寄付をするからです。
3.2 プラットフォームでの設定
日本では主に「Syncable」でバースデードネーションを実施できます。設定手順は以下の通りです:
1.団体ページの確認: 支援したい団体がSyncableに登録されているか確認
2.キャンペーン作成: 「寄付集めを手伝う」ボタンから「バースデードネーション」を選択
3.基本情報入力: キャンペーンタイトル、目標金額、実施期間を設定
4.ストーリー作成: あなたの思いや支援理由を文章で表現
5.画像設定: あなたの写真や団体の活動写真を設定
キャンペーンタイトルは、見る人の関心を引く重要な要素です。「○歳の誕生日に、○○を支援します」といったシンプルで分かりやすいタイトルが効果的です。
ストーリー部分では、文字数制限がないため、十分に思いを伝えることができます。以下の構成で書くと効果的です:
•自己紹介と誕生日の意味
•支援団体との出会いや関わり
•なぜその団体を支援したいのか
•寄付金の具体的な使途
•支援者への感謝とお願い
3.3 効果的な情報発信
バースデードネーションの成功は、適切な情報発信にかかっています。SNSを活用した段階的な発信が効果的です。
事前告知(1〜2週間前)では、バースデードネーションを実施することを予告します。この段階では詳細な説明よりも、「今年の誕生日は特別なことをします」といった興味を引く内容にします。
開始告知(当日)では、キャンペーンページのURLとともに、あなたの思いを込めたメッセージを投稿します。この投稿が最も重要で、多くの人に見てもらえるよう、投稿時間も考慮しましょう。
中間報告(期間中)では、寄付の進捗状況や新たな支援者への感謝を伝えます。これにより、まだ寄付していない人への参加促進効果があります。
終了報告では、最終的な結果と支援者全員への感謝を伝えます。また、寄付金がどのように活用されるかを改めて説明することで、支援者の満足度を高めます。
3.4 支援者とのコミュニケーション
バースデードネーションでは、支援者との適切なコミュニケーションが重要です。寄付をしてくれた人には、個別にお礼のメッセージを送ることをお勧めします。
お礼メッセージでは、以下の内容を含めると良いでしょう:
•寄付への感謝の気持ち
•その人の寄付が具体的にどのような支援になるか
•今後の活動報告の約束
継続的な関係構築も重要です。バースデードネーションをきっかけに関心を持ってくれた人には、定期的に団体の活動報告を共有することで、長期的な支援者になってもらえる可能性があります。
3.5 よくある課題と対処法
バースデードネーション実施時によく直面する課題と、その対処法をご紹介します。
「寄付をお願いするのが恥ずかしい」という心理的ハードルは、多くの人が感じる課題です。この場合は、「プレゼントの代わりに」という表現を使い、強制ではなく選択肢の一つとして提示することが効果的です。
「目標金額に届かない」場合でも、集まった寄付は確実に社会貢献につながります。金額の大小よりも、支援者の気持ちと社会課題への関心を高めたことに価値があります。
「継続的な実施が難しい」場合は、毎年同じ規模で実施する必要はありません。
その年の状況に応じて、規模や方法を調整しながら継続することが大切です。

第4章:バースデードネーションが創る新しい社会
4.1 寄付文化の変革
バースデードネーションは、日本の寄付文化に新しい風を吹き込んでいます。従来の寄付は、街頭募金や災害時の緊急支援など、特別な機会に行うものという印象が強くありました。
しかし、バースデードネーションは誕生日という身近で楽しい機会を活用することで、寄付をより日常的で親しみやすいものに変えています。
特に若い世代にとって、SNSを活用した寄付の呼びかけは自然な行為として受け入れられています。InstagramやTwitterで日常を共有するのと同じ感覚で、社会貢献への思いを発信できるのです。
この変化は、寄付に対する心理的ハードルを大幅に下げています。「寄付は特別な人がするもの」から「誰でも気軽にできるもの」へと認識が変わることで、より多くの人が社会貢献に参加できるようになります。
4.2 社会課題への関心拡大
バースデードネーションのもう一つの重要な効果は、社会課題への関心拡大です。支援者は、友人のバースデードネーションを通じて、これまで知らなかった社会課題について学ぶ機会を得ます。
ナイスネイチャのバースデードネーションでは、多くの人が初めて「引退馬」という課題について知りました。競馬に興味のなかった人々も、引退後の馬たちの現状を知り、その支援の必要性を理解したのです。
このように、バースデードネーションは社会課題の「入り口」としての役割を果たしています。一つの課題に関心を持った人は、その後他の社会課題にも目を向けるようになる傾向があります。
4.3 コミュニティの絆強化
バースデードネーションは、個人と社会、そして支援者同士のつながりを強化する効果もあります。誕生日という個人的な記念日を社会貢献に活用することで、お祝いの意味がより深いものになります。
支援者にとっても、友人の誕生日を祝いながら社会貢献ができるという、新しい形の参加体験を得ることができます。プレゼントを贈るよりも、より意味のある贈り物をしているという満足感を得られるのです。
また、同じバースデードネーションに参加した支援者同士が、その後も団体の活動に関心を持ち続け、新しいコミュニティが形成されることもあります。
4.4 企業や団体への展開可能性
バースデードネーションの概念は、個人だけでなく企業や団体にも応用できます。
企業の創立記念日や、団体の設立記念日を活用したファンドレイジングが既に始まっています。
企業にとって、創立記念日のバースデードネーションは、CSR活動の新しい形として注目されています。従業員や顧客と一緒に社会貢献を行うことで、企業の社会的責任を果たしながら、ステークホルダーとの関係を深めることができます。
NPOや社会貢献団体にとっても、設立記念日のバースデードネーションは、支援者との関係を深める重要な機会となります。団体の歴史や成果を振り返りながら、今後の活動への支援を呼びかけることができるのです。
4.5 今後の課題と展望
バースデードネーションの普及には、まだいくつかの課題があります。
最も大きな課題は認知度の向上です。アメリカと比較すると、日本での認知度はまだ低く、より多くの成功事例の蓄積と情報発信が必要です。
プラットフォームの拡充も重要な課題です。現在は主にSyncableでの実施が中心ですが、より多くの選択肢があることで、利用者の利便性が向上します。
文化的な障壁の克服も必要です。日本では「誕生日にプレゼントをもらう」文化が根強く、寄付を求めることに抵抗を感じる人もいます。この点については、成功事例の共有と、バースデードネーションの意義についての理解促進が重要です。
しかし、これらの課題を乗り越えることで、バースデードネーションは日本の寄付文化を大きく変える可能性を秘めています。
より多くの人が気軽に社会貢献に参加できる社会の実現に向けて、バースデードネーションは重要な役割を果たすでしょう。
まとめ:あなたの誕生日から始まる社会変革
バースデードネーションは、単なる寄付の新しい方法ではありません。
それは、私たちの誕生日に新しい意味を与え、個人の記念日を社会全体の利益につなげる革新的な仕組みです。
あなたの誕生日は、あなたがこの世界に生まれてきたことを祝う特別な日です。その特別な日を、誰かの困難を支援し、社会課題の解決に貢献する日に変えることで、誕生日の意味はより深く、より価値あるものになります。
ナイスネイチャのバースデードネーションが示したように、一つの取り組みが社会全体に大きな影響を与えることがあります。
あなたのバースデードネーションも、友人や家族に新しい気づきを与え、社会課題への関心を広げるきっかけとなるかもしれません。
重要なのは、完璧を目指すことではありません。小さな一歩から始めて、継続することです。月額1,000円の寄付でも、年間12,000円の支援になります。10人の友人が参加すれば、年間12万円の支援になります。この積み重ねが、大きな社会変革につながるのです。
今年の誕生日は、プレゼントの代わりに寄付をお願いしてみませんか?あなたの一歩が、より良い社会を創る力となります。そして、その経験は、あなた自身にとっても、支援者にとっても、きっと特別な意味を持つ誕生日の思い出となるでしょう。
バースデードネーションで始まる新しい寄付のカタチ。それは、あなたの誕生日から始まる、小さくても確実な社会変革なのです。