増加する【ヤングケアラー】の現状と支援:日本で広がる課題への取り組み

ヤングケアラーという言葉を、どれだけの人が耳にしたことがあるでしょうか。
ヤングケアラーとは、18歳未満の子どもが家族の介護やサポートを日常的に担う状況を指す言葉です。

高齢化社会や核家族化が進む日本では、家族の世話をする子どもたちが増えていますが、こうした状況は必ずしも健全ではありません。多くのヤングケアラーは、家事や介護の負担を抱えながらも学校に通い、友人と過ごす時間や自分の将来を考える余裕がありません。このような状況により、彼らの学業や社会生活、精神的健康に深刻な影響が及ぶ可能性が指摘されています。

日本ではまだまだヤングケアラーに対する理解が十分とは言えず、支援体制も発展途上です。しかし、ヤングケアラーを取り巻く問題は今、社会全体で解決に向けた動きを加速させるべき時期に来ています。
今回は、ヤングケアラーの現状と支援の取り組みについて詳しく見ていきたいと思います。

ヤングケアラーとは?その実態と具体例

ヤングケアラーとは、家族の介護や支援を日常的に行っている18歳未満の子どもたちを指します。
親の介護、きょうだいの世話、さらには精神疾患を抱える家族の感情的サポートまで、彼らが担う役割は多岐にわたります。これらのケアは本来大人が行うべきものであり、子どもがその負担を抱えることは彼らの健全な成長にとって大きな障害となることが少なくありません。

たとえば、精神疾患を抱える親のケアを行う子どもたちは、感情的なサポートを必要とする一方で、自らも不安やストレスを抱え込むことになります。
認知症の親をケアするケースでは、家族のトイレや入浴の介助、家事全般を担うことが日常化し、身体的にも精神的にも大きな負担を感じてしまいます。

東京都の調査によると、中高生の約17%が「家庭内で日常的に介護を行っている」と回答しており、その多くが自分の将来に対する不安や学校での孤立感を感じていることが明らかになっています。また、ヤングケアラーの中には、自分がケアをしていることを他人に話せず、友人関係や学業に悪影響が出ることを恐れて孤立するケースも多く見られます。

このような現実に直面する子どもたちは、日々の生活で大きなプレッシャーを感じながら過ごしています。
彼らにとって、家族のためにケアを続けることは「当たり前のこと」であり、周囲から理解されないことも多いのです。しかし、この状況を放置すれば、子どもたちの心身に深刻な影響が及び、彼らの未来に大きな制約を与えることになります。

日本のヤングケアラーの現状

日本におけるヤングケアラーの実態については、近年、国や自治体が行った調査データからその深刻さが浮き彫りになっています。
2022年に東京都が発表した調査では、中学・高校生の約5%が「家庭内で定期的にケアを行っている」と報告されています。この数字は、ヤングケアラーが決して少数派ではなく、多くの家庭で存在する現実を物語っています。

さらに、東京都の調査では、ヤングケアラーのうち約30%が「学校に行けない日がある」と答えており、学業への支障が大きな問題となっています。特に、高校生の年齢層においては、進路選択や大学受験など、将来に直結する重要な時期にケアの負担を抱えることが、彼らのキャリア形成に深刻な影響を与える可能性が高いことが指摘されています。

また、地域別に見ると、都市部と地方でヤングケアラーの状況が異なることが分かっています。都市部では福祉サービスが比較的整備されているものの、地方ではサービスが限られているため、ヤングケアラーの負担が一層重くなる傾向があります。特に、交通手段の不便さや介護施設の不足が、地方で生活するヤングケアラーにとって大きな障害となっているのです。

このように、日本全体で見ても、ヤングケアラーの問題は深刻であり、解決には地域ごとの実情に応じた支援が不可欠です。

ヤングケアラーを支援する取り組み

ヤングケアラーを支援するために、国や地方自治体、さらには民間の支援団体がさまざまな取り組みを行っています。2021年には、厚生労働省が「ヤングケアラー支援マニュアル」を策定し、各自治体に対してヤングケアラー支援の強化を求めました。これに伴い、東京都をはじめとする自治体では、ヤングケアラー支援のためのネットワーク体制が整備されつつあります。

特に東京都では、「ヤングケアラー・コーディネーター(YCC)」を配置し、地域ごとにヤングケアラーの相談窓口を設置する取り組みが進められています。
このコーディネーターは、ヤングケアラーやその家族からの相談を受け、地域の福祉機関や医療機関と連携して支援を行います。また、学校や地域の支援団体とも協力し、子どもたちが孤立しないようにサポートする体制が構築されています。

さらに、民間企業やNPO法人もヤングケアラー支援に取り組んでいます。デロイト トーマツが実施した調査では、ヤングケアラーが心理的な支援を受けることで負担が軽減され、学業への影響が軽減されることが確認されています。
このようなピアサポートやカウンセリングを通じて、ヤングケアラーが孤立感を抱かずに自分の将来を見据えることができる環境作りが進められています。

また、支援の成功事例も報告されています。あるヤングケアラーは、支援団体を通じてピアサポートを受け、自分と同じ境遇の仲間と出会うことで、精神的な負担が軽減されたと語っています。彼は支援を受けながらも学業に励み、進学を果たすことができました。
このように、適切な支援が行われれば、ヤングケアラーの未来は大きく開かれる可能性があります。

当事者の声から見る支援の必要性

ヤングケアラーとして育った当事者の声は、支援の重要性を改めて認識させてくれます。彼らの体験談を通じて、どれほどの負担が彼らにのしかかっているのかが見えてきます。

例えば、弊社が行ったインタビューに応じてくれたとある学生さんは、高校生の時から父親が患う難病のケアを担い続けてきました。彼女は、学校で普通の学生生活を送りたいと思いながらも、家に帰ると父親の看病が待っているという生活を何年も続けました。その結果、友人と過ごす時間や趣味に費やす時間が奪われ、心身ともに疲弊していったと語っています。

一方で、彼女は「周囲の手伝いがあればもっと早く立ち直ることができた」とも述べています。支援が不足していた時期には、精神的な負担が積み重なり、時には自分の人生を諦めかけることもあったと言います。しかし、ピアサポートやカウンセリングを受けることで、自分が一人ではないと感じられるようになり、次第に前向きな気持ちを取り戻すことができたと話してくれました。

もう1人の学生さんも、姉の精神病のケアを長年担ってきたヤングケアラーの一人です。彼は、学校生活と家族のケアの両立に苦しみ、進路選択の際には誰に相談すればよいのか分からず、孤立感を感じていました。SOSを発することができなかったため、彼の負担は長期間続きましたが、後に支援を受けることで少しずつ自分の未来を考える余裕が生まれてきたと語ります。。

これらの当事者の声からわかるのは、ヤングケアラーにとって、支援の有無が彼らの人生に大きな影響を与えるということです。適切な支援があれば、ヤングケアラーが抱える重荷は軽減され、彼らの未来がより明るいものになる可能性が高まります。

ヤングケアラーの未来を守るために

ヤングケアラーの問題を解決するためには、家族全体を支援する視点が欠かせません。彼らがケアを担う背景には、家族のサポート体制の不備や、社会制度の不十分さが関係しています。したがって、家族全体を包括的に支援する政策が必要です。

具体的には、介護保険制度や障害福祉サービスの拡充が不可欠です。これにより、家庭内でのケアの負担を軽減し、子どもたちがケアに追われずに、学業や将来に向けて努力できる環境を整えることが求められます。また、学校でのサポート体制も重要です。ヤングケアラーが学校生活において特別な配慮を受けられるようにするため、教師やカウンセラーの役割を強化することが必要です。

さらに、ヤングケアラー支援に向けた啓発活動も不可欠です。
社会全体がヤングケアラーの存在を認識し、彼らに対して適切なサポートを提供する文化を育むことが重要です。これには、地域コミュニティや企業が積極的に関与し、ヤングケアラーが孤立しないような社会環境を作ることが含まれます。

海外の事例に学ぶヤングケアラー支援の可能性

ここで、海外の事例を取り上げたいと思います。
イギリスでは、ヤングケアラーに対する支援が進んでおり、特に地方自治体が中心となって、学校や医療機関と連携しながら包括的な支援を提供しています。イギリスでは、ヤングケアラー専用の支援センターが設置され、ケアを担う子供たちがいつでも相談や支援を受けられる体制が整っています。また、彼らが学業を続けられるように、学校側にも柔軟な対応が求められており、欠席や遅刻に対する理解が深まっています。

日本でもこのような制度を導入することで、ヤングケアラーがもっと安心して学校生活を送り、自分の未来を築ける環境が整うのではないでしょうか。行政と学校、福祉機関が一体となって、ヤングケアラーを支援する体制を作ることが、今後の重要な課題です。

まとめ

ヤングケアラーの問題は、決して他人事ではなく、誰にでも起こり得る現実です。
誰しもが安心して学び、成長できる社会を作るためには、私たち一人ひとりの理解と行動が求められています。寄付やボランティア活動を通じて、直接的に彼らを支援することも一つの方法ですが、もっと大切なのは、彼らの存在に気付き、必要な時に手を差し伸べることです。

ヤングケアラーの未来を守るために、私たちができることはたくさんあります。この記事を通じて、少しでも多くの人がヤングケアラーの現実を知り、支援の輪が広がっていくことを願っています。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。