ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、2023年度に世界37か国で169の事業を展開し、教育支援や緊急人道支援、アドボカシー活動で顕著な成果を上げました。収入総額は約68.9億円、支出総額は約71.7億円で、赤字となったものの、前期からの繰越収支により財政は安定しています。寄付者との積極的なコミュニケーションや多様な資金調達方法により、持続可能な支援活動を実現しています。WVJの透明性とガバナンスの強化が、信頼性を高めています。
本記事は当団体が公開している各種報告書を参考にしています。
活動実績と成果
主要な活動内容
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、2023年度に世界37か国で169の事業を展開しました。主な活動内容と成果について具体的な事例を挙げて評価します。
- 開発援助:WVJは地域開発プログラムを通じ、貧困地域の子どもたちの生活改善を図っています。例えば、エチオピアのゴンダール・ズリア地域では、学習環境の改善により、小学6年生の読解力が51.3%から81.6%に向上しました。この結果は、WVJが学習机の提供、トイレや手洗い場の設置、読書キャンプの実施などを通じて学習環境を整備したことによるものです。
- 緊急人道支援:紛争や自然災害による被災地での緊急支援も行っています。例えば、ウクライナ危機対応では、食料を512,804人に届け、教育支援を250,656人の子どもたちに提供しました。また、チャイルド・フレンドリー・スペースを設置し、76,788人の子どもに心理社会的支援を行っています。
- アドボカシー:市民社会や政府への働きかけを強化しています。2023年5月のG7広島サミットでは、市民社会の代表として政策対話に参加し、弱い立場の子どもたちの声を届けることに成功しました。具体的には、C7(Civil7/市民7)の日本側実行団体として、G7公式文書への反映を働きかけました。
達成された成果
- 子どもの教育支援:タンザニアのルテンデ地域では、新しい校舎と机の整備により、小学校の就学率が60%から95%に向上しました。これはWVJが校舎の建設と学習環境の整備を行った結果であり、子どもたちの教育へのアクセスが改善されたことを示しています。
- 水と衛生の改善:エチオピアのデラ地域での井戸設置により、子どもたちは安全な水を得られるようになり、病気の予防に成功しました。これにより、子どもたちが健康を維持し、学校に通う時間が増えたことが報告されています。
- 生計向上支援:ルワンダのニャガタレ地域では、住民による貯蓄グループの形成を支援し、農業の生産性向上と貯蓄の習慣を促進しました。これにより、多くの家庭が経済的に安定し、子どもたちの生活環境が改善されました。
収支状況
収入の内訳
2023年度の収入総額は約68.9億円で、主な内訳は以下の通りです。
- 寄付金収入:40.75億円(59.2%)
- そのうちチャイルド・スポンサーシップによる収入が29.38億円、その他の募金収入が10.17億円を占めています。
- 補助金等収入:28.18億円(40.8%)
- 日本政府や国際機関からの補助金収入が主な収入源となっており、特に委託金収入が20.71億円を占めています。
- その他収入:1,000万円(0.1%)
- 雑収入として計上されており、特定の事業活動に関連しない収入です。
支出の内訳
2023年度の支出総額は約71.7億円で、主な内訳は以下の通りです。
- 事業費支出:70.56億円(98.4%)
- 地域開発援助事業費:60.3億円
- これには、地域開発援助事業費(38.01億円)と委託援助事業費(20.48億円)が含まれます。
- 啓発教育費:10.04億円
- 啓発教育事業管理費(4.34億円)を含む。
- 地域開発援助事業費:60.3億円
- 管理費支出:1.17億円(1.6%)
- 給料手当支出(6728万円)や諸謝金支出(373万円)など、運営に必要な管理費用が含まれます。
収支バランス
2023年度は約2.8億円の赤字でしたが、前期繰越収支差額を含めた次期繰越収支差額は約2.8億円となっています。これは、前期からの繰越収支差額(4.16億円)が大きく寄与しています。
資金調達の状況
資金調達方法の多様性
WVJは多様な資金調達手法を駆使しており、以下のような方法で資金を集めています。
- 個人寄付:チャイルド・スポンサーシップなどの個人からの寄付が主要な収入源です。チャイルド・スポンサー数は46,079人、その他の募金者数は18,271人です。
- 企業協賛:プロジェクト・サポーターとして企業からの支援も受けています。特に、企業との連携により特定のプロジェクトを支援しています。
- クラウドファンディング:特定のプロジェクト向けにクラウドファンディングを実施し、多くの個人からの小口寄付を集めています。
寄付者数と平均寄付額
寄付者数は約64,350人であり、そのうちチャイルド・スポンサーが46,079人を占めています。平均寄付額については、チャイルド・スポンサーシップの月額寄付が主な収入源となっており、個々の寄付者からの継続的な支援が重要です。
寄付者のリテンション率
リピート寄付者の割合は高く、寄付者との積極的なコミュニケーションと感謝の意を示すことでリテンション率を高めています。例えば、寄付者への定期的な報告書の送付や感謝イベントの開催が効果的です。
財務の健全性
流動資産と流動負債のバランス
WVJの流動資産と流動負債のバランスは良好です。流動負債を上回る流動資産を保持しており、短期的な財務健全性が確保されています。具体的な数値は、決算報告書に記載されており、健全な財務運営が確認できます。
資産総額と負債総額の比率
WVJの資産総額と負債総額の比率は健全であり、資産が負債を大きく上回っています。これは、長期的な財政安定性を示す重要な指標です。準備金も適切に維持されており、不測の事態に対する備えも十分です。
ガバナンスと透明性
組織のガバナンス構造
WVJは理事会の役割を明確にし、監査体制も整備されています。定期的な内部監査と外部監査を実施しており、組織の透明性を確保しています。監査報告書には、内部統制の有効性や財務報告の適正性についての評価が記載されています。
情報公開のレベル
WVJは年次報告書や監査報告書を公開し、詳細な活動内容と財務情報を開示しています。例えば、ウェブサイト上での公開や寄付者への定期的な報告書の配布など、情報の透明性を高める取り組みが行われています。
社会的インパクト
取り組みの社会的意義
WVJの取り組みは、貧困削減や教育の普及、衛生環境の改善など、幅広い社会問題に対して持続的なインパクトを与えています。例えば、カンボジアのトモ・プオ地域での支援活動により、子どもたちの栄養状態が改善され、健康で成長できる環境が整備されました。
インパクト評価
WVJは長期的な効果と持続可能性を重視し、定期的な評価と見直しを行っています。例えば、地域開発プログラムの卒業地域では、事業終了後も地域住民が自立して活動を継続できるような仕組みを構築しています。
寄付の活用方法とその効果
寄付金は透明かつ効果的に活用されており、具体的な成果として現れています。例えば、2023年度の寄付金は、新しい学校の建設や衛生設備の整備に充てられ、多くの子どもたちの生活環境が改善されました。
ステークホルダーとの関係
寄付者やボランティアとの関係
WVJは寄付者やボランティアとの積極的なコミュニケーションを通じて、感謝の意を示し、リテンション率を高めています。具体的な例として、定期的なニュースレターの発行や感謝イベントの開催があります。
コラボレーション
他団体、企業、政府機関との連携を強化し、相互に支援し合う体制を構築しています。例えば、国連機関や他のNGOと協力して、緊急支援活動を迅速に展開しています。
未来の展望と課題
今後の計画と目標
WVJの今後の計画と目標は、以下の通りです。
- 短期的目標:現在の支援プログラムの継続と拡充。例えば、新たな地域開発プログラムの開始や既存プログラムの強化を目指しています。
- 長期的目標:新たな支援地域の開拓と、持続可能な開発目標(SDGs)の達成。特に、貧困削減と教育の普及に重点を置いています。
直面している課題とリスク
- 資金調達の課題:経済状況の変化による寄付額の減少リスク。特に、寄付者数の減少や寄付額の低下に対する対応が求められます。
- 外部環境の変化:紛争や自然災害の頻発による支援ニーズの増大。これにより、緊急支援活動の需要が高まり、リソースの分配に課題が生じる可能性があります。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、透明性の高い運営と多様な資金調達方法により、持続可能な支援活動を展開しています。寄付を検討される方々にとって、WVJは信頼できるパートナーとなるでしょう。