子どもの貧困問題は、長年にわたって日本社会の重要な課題として取り上げられてきました。
教育格差や将来のキャリア選択に大きな影響を及ぼすことから、社会全体が注目してきたテーマでもあります。しかし、最新のデータを見ると、”子どもの貧困率”が改善していることが報告されています。
このポジティブな傾向があるにもかかわらず、まだ問題が解決されたわけではありません。
そこで今回は、なぜ貧困率は下がったのか、その背景を探りつつ、今なお残る課題についても深掘りしていきたいと思います。
目次
子どもの貧困に関する最新データ
まずは最新のデータから確認してみましょう。
2021年の「国民生活基礎調査」によると、2018年の14.0%から2021年には11.5%へと子どもの貧困率が低下しました。これは、3年間で2.5%ポイントの改善を示しています。
日本において、貧困線は一人当たり可処分所得(所得から税金や社会保障費を差し引いた額)の中央値の半分で定義されており、2021年時点では127万円でした。
この基準に満たない世帯の子どもたちが、相対的貧困状態にあるとされます。
データの推移を見てみると、1980年代以降、子どもの貧困率は徐々に上昇し、2012年に16.3%でピークを迎えました。それ以降は、政府や地方自治体のさまざまな取り組みによって少しずつ改善し、2021年までに11.5%まで下がっています。
しかし、直接比較する際には、2018年以降の貧困率計算方法が変更されている点に注意が必要です。
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貧困率が下がった要因
では、なぜ子どもの貧困率は低下しているのでしょうか。
主な要因をいくつかの視点で見ていきます。
母親の就業率と正規雇用の増加
母親の就業率が顕著に上昇していることで、家計の可処分所得を押し上げ、貧困率改善に寄与しています。
2012年には63.6%だった母親の就業率が、2021年には75.7%にまで増加しました。
特に正規雇用の割合が大きく増え、安定した収入を得られる家庭が増えたことが、世帯全体の貧困率を引き下げる要因となっています。
賃金上昇と低所得層の改善
低所得層の賃金がゆっくりと上昇している点も見逃せません。
その影響で、最低所得層の子どもたちが少しずつ貧困から抜け出しつつあると考えられます。
2021年時点で、可処分所得が200万円以下の子どもの割合が減少し、それ以上の所得層が増加していることがデータからも確認できます。
新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済支援策、特に一時的な給付金も貧困率改善に一部貢献しました。しかし、その影響は一時的であり、長期的には労働市場の改善や、賃金上昇の方が大きな役割を果たしています。このため、コロナ後の社会でも持続可能な支援が重要だと言われています。
それでも残る課題
子どもの貧困率は下がっているものの、いくつかの重要な課題は依然として残っています。特に、ひとり親世帯や地方自治体における支援不足について見てみましょう。
ひとり親世帯の貧困率の高さ
子どもの貧困全体の数値は改善しているものの、ひとり親世帯における貧困率は依然として高い水準にあります。
これらの家庭では等価可処分所得が低い状態が続いており、貧困状態を脱するのが非常に難しいのが現状です。ひとり親世帯の問題は、単に収入の問題にとどまらず、時間的な余裕のなさや子育ての負担の重さも関わっていそうです。
支援不足と地域間の格差
さらに、都市部と地方の支援格差も課題です。
特に地方の小規模自治体では、学習支援や生活支援の実施率が低く、交通手段の確保やボランティアの不足が深刻な問題となっています。これらの地域では、社会資源が不足しているため、十分な支援が行き届かないケースが多く見られます。
現行の支援策とその課題
現行の支援策に目を向けると、一定の効果が出ているものの、課題も少なくありません。
子どもの学習支援事業の状況
子どもの学習支援事業は、多くの自治体で実施されていますが、特に保護者の理解や協力が得られないケースが多く、利用が進まないという問題があります。
さらには、交通手段の確保が難しく学習支援事業に参加できない子どももいるのが現状です。
このような課題を解決するためには、送迎手段の確保や、学習ボランティアの拡充が不可欠なのかもしれません。
地域間格差と支援の実施状況
都市部に比べて、地方自治体では学習支援や生活支援の実施率が低く、支援の実効性にも大きな違いがあります。
特に、過疎地や交通の便が悪い地域では、子どもたちが支援にアクセスしにくいという現実があります。地方自治体には、こうしたインフラ的な問題を解決するための追加的な支援が求められているようです。
今後の方向性と必要な取り組み
これからの貧困対策を考える際、持続可能な支援の仕組みと、特に地域間格差の解消が重要です。
地域間格差の解消
都市と地方の格差を解消し、全国どこでも同じ質の支援を受けられるようにすることが求められています。特に地方自治体では支援事業へのアクセス向上やオンライン学習環境の整備が急務となっています。
デジタル化の推進によって、物理的な距離を克服し、子どもたちが平等に支援を受けられる仕組みを作ることが大切です。
ひとり親世帯への支援強化
ひとり親世帯への追加支援は、最も緊急性が高い課題の一つです。
子どもの学習支援や生活習慣の改善だけでなく、母親自身の雇用支援が課題解決には欠かせません。ひとり親が安定した職を得ることは、家庭全体の貧困からの脱却に直結します。
持続的な貧困対策
一時的な支援だけでなく、持続可能な労働市場の改善や、賃金の向上に取り組む必要もあります。社会的弱者や貧困層が安定して自立できるよう、包括的な支援が欠かせません。地域社会と行政が連携し、家庭全体を支援する体制づくりが必要なのです。
まとめ
日本における子どもの貧困率は確かに改善されていますが、それでもまだまだ多くの課題が残っています。
特にひとり親世帯や、地方の小規模自治体における支援不足が今後の大きな課題です。これらの課題を解決するためには地域間の格差をなくし、支援の質を全国で均一化する必要があります。
さらには、一時的な給付金ではなく、持続的な労働市場の改善や包括的な社会支援が重求められています。
キフコの一言
私から最後に1つ。地域間格差に関する海外の事例をご紹介したいと思います。
Promise Neighborhoods(プロミスネイバーフッド)プログラムと呼ばれるものなのですが、2008年のアメリカ大統領選挙でバラク・オバマ氏が掲げた政策公約として生まれました。
このプログラムは2010年にオバマ政権の教育省で開始され、困難な都市部や農村部、先住民部族地域の子どもたちの教育成果を向上させることを目指しています。主な目的は地域社会全体で『ゆりかごからキャリアまで』をサポートする支援を提供し、教育格差や貧困を解消することです。
この取り組みは、ニューヨークのハーレム・チルドレンズ・ゾーンの成功事例をモデルにしていて、学校、非営利団体、政府機関が協力し、教育プログラムや家庭、地域社会を包括的に支援します。また、地域のインフラ強化や学校の改善を同時に進め、特定の地域に住む子どもたちが教育と生活支援を同時受けられることを目標としています。
このプログラムは、地域間の教育格差を解消するための効果的なモデルとして注目され、アメリカ全土の困難な地域で実施されていますが、持続的な資金確保や評価の難しさが課題となっています。