取材【認定NPO法人 難民を助ける会(AAR Japan)】高額寄付キャンペーンが紡ぐ共創の循環

AAR Japan[難民を助ける会]は、1979年にインドシナ難民の支援をきっかけに創立された日本発の国際NGOです。
インドシナ難民の支援から始まり、その後アフリカや中東など活動地域を広げ、これまでに65を超える国と地域で支援を行っています。

主な活動分野は「難民支援」「地雷・不発弾対策」「障がい者支援」の3本柱。
難民支援では教育やコミュニティ支援、水衛生改善など幅広いプログラムを展開し、地雷・不発弾対策では、被害を受けた人々へのリハビリや社会参加支援も行っています。近年では、自然災害や紛争への緊急支援、感染症対策、日本国内での国際理解教育にも力を入れているとのこと。

今回は、AAR Japanの特徴的な取り組みである『まるごとプロジェクト募金』について、担当の吉澤さんにたっぷりとお話しを伺いました。

現在のお仕事と、AAR Japanに入られた経緯を教えてください

AAR Japan 広報コミュニケーション部長 兼 事務局次長 吉澤 有紀さん

現在は「広報コミュニケーション部長」として、広報・ファンドレイジング全般を担当しています。
また「事務局次長」も兼任しており、組織運営や人材育成など、全体の方針づくりにも関わっています。

大学では国際協力を専攻していて、ボランティア活動にも関わっていました。現場の支援も重要ですが、日本国内での広報や資金集めの重要性を強く感じていたんです。そこで、AAR Japanの「現場と支援者をつなぐ役割」に共感し、今に至ります。

現場の声や駐在員の思いを支援者へ、支援者の思いを現場へ届ける。その橋渡しを忘れずに活動したいと思っています。

今回のテーマである「まるごとプロジェクト募金」について教えてください

まずこのプロジェクトの目的は、ファンドレイジング施策の一つとして「大口のご寄付を増やすこと」にあります。
そのために、寄付者の皆さんに“より達成感を持っていただける仕組み”をつくりたいと考えました。

プロジェクト全体を一括で応援していただくことで、「この支援を自分がまるごと実現できた」という実感を得ていただけるようにしています。

現場では、助成金だけではカバーしきれない課題が多くあります。
あと少しの資金があれば、もう一歩踏み込めるのに」という声が各国から上がっていました。
そうした“あと一押し”の部分を寄付者さんの力で実現することで、現場のニーズにも、寄付者さんの満足感にもつながると考えたんです。

支援地域や内容はどのように決めているのですか?
また、1口あたりの金額設定はどのように算出されるのでしょうか

まず、全ての支援地域に”お金がなくて実現できていないこと”を挙げてもらいます。
そのうえで「それを実施するにはいくら必要か」を現地事務所に算出してもらいます。つまり、金額は本部が一方的に決めるのではなく、現場発なんです。

その結果、やや中途半端な数字になることもあります(笑)。
そうして現場から出てきた候補の中から、寄付者さんの達成感を感じやすい内容や、支援効果が明確なものを選定します。

例えばアフガニスタンでは380万円×1口というプロジェクトがありますが、これは現地の方に「生活支援用品を160世帯に届ける」という形です。

パキスタンからの帰還民へ生活必需品を提供するプロジェクト

すでに助成金で5品分は配布できているけれど、さらに3品追加できればよりニーズに応えられる。など、まったくゼロから新しい事業を立ち上げるのではなく、既存の活動を拡張する形です。
例えば「配布地域をもう一つ増やす」「対象人数を広げる」といった形ですね。

これまでのプロジェクト例

タジキスタン:障がいのある女性たちに縫製研修とミシン提供
パキスタン:聴覚障がい児のための学習応援キットを制作
ウガンダ:子どもの教育を支える保護者への生計支援

1口ごとの寄付額が大きいという特徴がありますね

はい。例えばミャンマーの職業訓練支援では、1口500万円×2口という設定で実施しました。金額は大きいですが、その分「自分がこの訓練所を動かした」と実感できる内容にしています。

ミャンマーでは障がい者を取り巻く環境は厳しい
これまでに2,000名を超える職業訓練校の卒業生を送り出した

一般的な寄付では「どの活動に使われたか」が見えにくいことがありますが、まるごとプロジェクト募金では、対象国や地域、支援内容、成果を具体的にご報告できます。

「この期間に、この支援を受けた現地の方々が、何を学び、どう変化したか」という具体的な報告が可能なんです。

ご寄付による活動報告を具体的に教えてください

通常の活動報告では広報誌のスペースなどの関係で、「背景」と「結果」だけになってしまうことが多いのですが、まるごとプロジェクト募金では、支援の過程や意思決定の経緯、工事や物資調達のスケジュールなども詳細にご報告しています。

どんな現地スタッフと協働し、どのような流れで実現したのかまで見えるようにしています。

報告書の例
現地の写真もついており、活動の進捗がリアルにわかる

だいたいスムーズにいけば一年以内に完了するプロジェクトが多いため、その中で、中間報告と、完了報告の2回が基本ですが、中間報告では、「予定どおり事業が進んでいるか」「現場で起きている変化」「対象の方々がどんな反応をしているか」をまとめます。

完了報告では、成果の数字だけでなく、現場の声やストーリーを丁寧に紹介します。
たとえば、「この期間にこの職業訓練を受けた若者たちがどう変化したか」や、「支援を受けた障がいのある方がどのような仕事を始めたか」などです。

そうすると、支援者の方に自分の寄付が“どんな形で役立ったか”を実感いただけますし、支援を受けた方をとても身近に感じていただけるんですね。

また、現地駐在員が帰国をするタイミングでは、電話やオンライン、さらには直接寄付者さんのご自宅へ伺う形でのご報告もしています。

ご自宅に伺うと、皆さんすごく受け入れてくださるんです。
たとえば長野の方に伺ったときには、お友だちを集めてくださって、その方たちにも一緒に報告を聞いていただいて、その場で募金も集めてくださったこともあります。

報告会に熱心に耳を傾ける支援者さまと友人の皆さま

寄付者さんからはどのような感想が上がっているのでしょうか

やはり「直接報告を聞けるのは身近に感じる」という声はとても多いですね。
報告書やメールだけではなく、駐在員が帰国したタイミングで対面やオンラインでご報告するようにしているのですが、そうすると皆さん本当に喜んでくださるんです。

本当に現地の人たちが喜んでいるのがわかって嬉しい」とか、「スタッフの方と一緒に夢を追えている感じがして嬉しい」といった言葉もいただきます。
そうした反応をいただくたびに、活動をきちんと届けられているんだなと感じます。

危険な地域での活動は、どのような点に注意しているのでしょうか

そうですね。安全管理は最も重要な部分です。
まず大前提として、現地の治安情報を常に収集しています。外務省の危険情報や大使館、他のNGOとのネットワークからも情報を得ています。

そのうえで、現地スタッフが「今は安全に活動できるか」を日々判断しています。

例えばアフガニスタンのように日本人が入れない地域では、現地のスタッフが中心となり、リモートで日本側がサポートしています。
また、移動経路や時間帯にも細心の注意を払い、危険が高まった場合はすぐに一時中断することもあります。
活動を継続するためにも「安全第一で判断する」よう、組織全体でルールを共有しています。

現地での活動の中で、印象的だったエピソードを教えてください

“ものを届ける”という支援の場合、もちろんその時点で喜ばれるのですが、本当に印象的なのは、支援を受けた現地の方々の生活が変わっていく瞬間なんです。

たとえば職業訓練などの技術を提供したあと、それをきっかけに仕事を始めたり、社会に出る第一歩をつかめたりする。

そうした変化が受益者さんの声としてたくさん届きます。

ハサミを使うことさえ難しかった参加者も、研修を終える頃には服の仕立てができるように

支援は「届けて終わり」ではなく、“その先の人生を変える力になる”というのを現場で実感しています。
どの国でもそうですが、現地の人たちが少しずつ自信を取り戻し、地域や家族との関係性、社会との繋がりが増えていくことはとても嬉しいことです。

支援をより持続可能にしていくうえで、課題はありますか?

一番は資金です。まず、資金が確保できないと「やれないで終わってしまう」ことがあります。途中で大きく方針が変わることは多くはありませんが、資金面の不安定さは常に課題です。

特に、円安の影響はかなり大きく、募集時点では「この額でここまでできる」と想定していても、実際に始めたら「ここまでしかできない」というケースが出てきます。その場合は、都度ご支援者さんに状況をご相談しています。

しかし状況をお伝えすると、「じゃあ追加でいくらあればいいの?」と申し出てくださる方もいて、本当にありがたく感じています。

日本人スタッフが現地に入れないケースもあるそうですが、その背景にはどんな事情があるのでしょうか?

やはり治安の問題が一番大きいですね。治安が悪い地域は、まず外務省から渡航NGが出ている場合があります。

また、現地の行政から地域への入域許可が下りず、外国人は立ち入りできないエリアもあります。

また、支援を実施している途中で突然入れなくなることもあります。地域の情勢が急に変化したり、紛争が激化したりすることで、現地活動が一時的にストップすることもあります。そのたびに現地のパートナーと情報を共有し、安全を最優先に判断しています。

駐在員の方々は、どんな想いで現地活動に取り組まれているのでしょうか?

一番大きいのは、「自分たちの活動は寄付金によって成り立っている」という意識です。

駐在員は現場にいる時間が長いので、それを支えている支援者さんの存在が遠くなりがちです。

まるごとプロジェクト募金では、寄付者さんのお名前やメッセージを駐在員に伝えるため、現地で活動する駐在員も「大切なご寄付」で活動しているという意識が強く芽生えます。

今後、まるごとプロジェクト募金をどのように発展させていきたいと考えていますか?

助成金では使い道が決まっておりニーズの変化に柔軟に対応できないことや、AAR Japanが行っている障がい者支援のような長期的な支援は対象外であることもあります。

つまり、やりたい支援ができない。ということがあります。

ですから、今回のまるごとプロジェクト募金のような形で、寄付者さんの関心や企業のCSR活動にもフィットする形を模索して、より多様なテーマや国で展開できるようにしていきたいと思います。

これを読んでいる方へのメッセージをお願いします

ご支援くださる方のお気持ちを現場に必ず届けますといつも言ってるんですが、やっぱり言ってるだけでは伝わらないので、それをこのプロジェクトでは、どういった方にどういった支援を届けることができたのか、またその社会的インパクトを含めて、具体的にご報告させて頂きます。

そしてそれを実感していただけるプロジェクトとなっていますので、ぜひご協力をお願いいたします。

日本発のNGOが行う”今、必要とされている。あと一歩の支援”を語る吉澤さん

まるごとプロジェクト募金の流れ

  1. お問い合わせ・資料請求 ご希望の方には、お電話やzoomなどでご説明します
  2. ご寄付のお申し込み
  3. プロジェクト実施
  4. ご報告 お電話やご訪問、報告会の開催、zoomなどご希望に沿ってご報告します。
    また、ご支援いただいたプロジェクトの背景や進捗状況をまとめた中間報告書、その成果や支援を受けた方々の声をまとめた完了報告書をお届けいたします。皆さまのご寄付が現地にもたらした確かな変化を実感いただけます。

※まるごとプロジェクト募金 専用ページより引用

※個人だけでなく法人などからのご寄付も受け付けております。

※ご寄付は寄付金控除の対象となります。寄付金控除についてはこちら

この記事がいいねと思ったら、シェアをお願いします!

投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。