日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。
2025年には、いわゆる「団塊の世代」(1947~49年生まれ)の全員が75歳以上の後期高齢者となり、国民の約4人に1人が75歳以上という超高齢社会が現実となります。
高齢者人口は約3,500万人、うち後期高齢者が約2,200万人に達すると推計されており、日本社会はこれまでにない人口構造の変化に直面します。
この「2025年問題」によって、医療・介護費の増大や介護人材の不足など様々な影響が懸念されています。
しかし、その影で見逃せないのが高齢者の“孤立”の問題です。
今回は、2025年を目前に控えた超高齢社会のリアルな現状と、高齢者の孤立が進む背景をデータから読み解きます。
特に「孤立」に焦点を当て、その心身への影響や孤独死のリスクを考察。そして、寄付やボランティア参加によって高齢者を孤立から救う取り組みを行う国内のNPOを5つ紹介します。
それぞれ信頼できる事例と共に、高齢者支援の最前線を見ていきましょう。最後に、高齢化社会への支援が私たち自身の未来にも直結することを確認し、「自分ごと」としてできるアクションを提案します。
目次
1. 団塊世代が後期高齢者に!迫る2025年問題の現状
今、日本は超高齢化社会という大きな転換期にあります。
総人口減少が続く一方で高齢者の割合は年々上昇し、特に2025年には団塊の世代(第一次ベビーブーム世代:約800万人)が一斉に75歳以上となります。
その結果、日本人の約25%(4人に1人)が後期高齢者になると見込まれています。
現時点(2020年代前半)でも65歳以上人口は3,600万人超で全人口の30%近くを占めますが、75歳以上に限っても2021年時点で約1,500万人、2025年には約2,200万人へと急増する推計です。
これはわずか数年で後期高齢者が700万人近く増える計算で、社会保障や地域ケア体制への負荷が飛躍的に高まります。
こうした「2025年問題」が注目される背景には、高齢者人口の急増そのものだけでなく、それに伴う現役世代の減少があります。
生産年齢人口の比率低下は医療・介護分野の人手不足や社会保険財政の逼迫を招き、従来のシステムでは支えきれない事態が懸念されています。
実際、内閣府の試算では介護や支援を必要とする高齢者は年々増加し、要介護認定者は2000年の218万人から2017年には622万人と約3倍に増えました。
2025年以降、団塊世代が後期高齢者入りすることでこの傾向にさらに拍車がかかる見通しです。
こうした数値が示す通り、日本社会はこれまで経験したことのない高齢化のピークに差し掛かろうとしています。
医療・介護体制の強化や地域包括ケアシステム構築など、国や自治体も対策を進めていますが、制度面の整備だけでなく地域での支え合いや民間の力もますます重要になるでしょう。
その中で特に深刻化すると指摘されているのが、高齢者の孤独・孤立の問題です。人数だけでなく、一人ひとりの高齢者がどのような環境で暮らしているかに目を向ける必要があります。

2. 高齢者の孤立を加速させる要因とは
高齢化が進む日本で、高齢者の孤立が社会問題としてクローズアップされています。
では、なぜ高齢者は孤立しやすくなっているのでしょうか。その背景には以下のような複数の要因が絡み合っています。
- 独居高齢者の増加: 子どもが独立した後や配偶者に先立たれて、ひとり暮らしをする高齢者が年々増えています。1980年時点では65歳以上人口のうち男性4.3%、女性11.2%に過ぎなかった独居高齢者の割合が、2020年には男性15.0%、女性22.1%と大幅に上昇しました。
世帯数で見ると、2020年時点で約635万世帯の高齢者が単身で暮らしており、2025年には約680万世帯に達する見込みです。このように家族と同居せず頼れる人のいない高齢者が増えることで、地域や社会とのつながりが薄れがちになります。 - 地域社会のつながりの希薄化: 都市化や核家族化の進行により、昔に比べ近所づきあいが希薄になっている地域もあります。
高齢者が地域の行事やサークルに参加する機会が少なく、身近に相談できる相手がいないと、孤立に拍車がかかります。
実際、「近所の人との付き合いがない」高齢者ほど生きがいを感じていない割合が高いとの調査もあり(近所づきあいがほとんどない場合、生きがいを感じない人が39.0%と突出、地域からの孤立が心身に悪影響を及ぼす傾向が見られます。 - 老老介護の増加: 少子高齢化に伴い、高齢者を支える担い手も高齢者というケースが増えています。厚生労働省の調査では、要介護の高齢者と同居する主な介護者が65歳以上の場合が63.5%にも上り、介護する側・される側ともに75歳以上の組み合わせも35.7%と過去最高となりました。
このような“老老介護”世帯では、介護疲れや共倒れのリスクが高まり、周囲との交流も断たれがちです。2025年には現役世代の不足で介護の担い手はさらに減る見通しで、老老介護の割合は一層高まるとされています。 - 認知症ケアの担い手不足: 高齢者の増加とともに、認知症高齢者も急増しています。2012年に約462万人だった認知症の高齢者数は2025年には約700万人に達すると見込まれ、高齢者の5人に1人が認知症になる計算です。
認知症になると周囲とのコミュニケーションや社会参加が難しくなり、介護する家族の負担も重くなりますが、専門的な知識を持つケア人材は不足しています
。支援が行き届かない結果、認知症の人と家族が地域から孤立してしまうケースも少なくありません。
以上のような要因が重なり、高齢者の孤独・孤立は今後さらに深刻化すると予想されます。
高齢者本人が望まなくても、一人暮らしや介護負担など環境要因によって社会とのつながりを失いやすいのです。特に身近に支援者がいない高齢者ほど、その傾向が強まります。
例えば「頼れる親族がいない」高齢者の割合は年々上昇しており、50歳時点で未婚の人の割合も男性28%、女性18%(2000年比で男性は3倍以上、女性も3倍強)と大きく増えています。
こうした背景から、「自分が困ったとき助けてくれる家族がいない」高齢者が今後ますます増えると見込まれているのです。

3. 孤立がもたらす心身への影響と孤独死のリスク
高齢者の社会的孤立は、本人の心身に様々な悪影響を及ぼします。
人との繋がりが乏しく孤独を感じている高齢者ほど、生きがいの低下や心身の衰え(フレイル)の進行が顕著になる傾向があります。
実際、「ほとんど会話をしない」「近所づきあいがない」「困ったとき頼れる人がいない」といった孤立しやすい高齢者では、生きがいを感じていない人の割合が他より高くなっています。
孤立によって意欲が低下すると外出や運動もしなくなり、筋力や認知機能の低下を招くという悪循環に陥りがちです。
さらに、社会から孤立した状態は、高齢者を様々なリスクにさらします。例えば、誰にも相談できずにいることで悪質商法の被害や詐欺に遭いやすくなったり、認知症の症状が周囲に気づかれずに進行してしまうケースもあります。
支援の手が届かない状況では、必要な介護サービスや医療につながれず、健康問題が深刻化する恐れがあります。また、孤立した環境では事件や事故が起きても発見が遅れる可能性が高まります。
そして何よりも深刻なのが、孤独死(孤立死)のリスクです。
身近に見守る人がいない高齢者が自宅で誰にも看取られず亡くなり、長期間発見されないという痛ましい出来事は社会でも大きな問題となっています。
ある調査によれば、「自分が孤独死するのではないかと不安を感じる」と答えた高齢者は、ひとり暮らしや未婚、配偶者と死別した人で特に高い割合を示しました。
都市部では実際に孤独死の件数が増加傾向にあり、例えば東京23区ではひとり暮らし高齢者の数と自宅での孤独死件数が2008年から2018年にかけてともに増加しています。
2005年に約50万人だった23区の独居高齢者は、その後増え続け、同時に年間の孤独死数も2008年に約2,400件から2018年には3,800件以上に達しました。
このように、高齢者の孤立は放置すれば命に関わる問題となり得るのです。
孤立死は決して他人事ではなく、誰にでも起こりうる現実です。しかし裏を返せば、適切な見守りや支援があれば防げる可能性も高いと言えます。
地域で声を掛け合ったり、安否確認の仕組みを整えたりすることで、多くの孤立死は未然に防止できるでしょう。「孤独死なんて怖い」「自分は大丈夫だろうか」と不安を感じる高齢者に、どう手を差し伸べ安心して暮らせる環境を作るか――それが社会の課題となっています。
では、この高齢者の孤立問題に対して、どのような支援の取り組みが行われているのでしょうか。次章では、寄付や参加を通じて皆さんも応援できる国内のNPO団体の事例を5つ紹介します。
いずれも高齢者を孤立から守るためにユニークな活動を展開している団体です。具体的な支援の形を知ることで、「自分にも何かできるかもしれない」というヒントを見つけていただければと思います。
4. 高齢者を孤立から救う国内NPO5選
高齢者の孤立を防ぐため、全国各地でNPO(非営利組織)が様々なユニークな取り組みを行っています。
ここでは、その中から5つの団体を取り上げます。それぞれ活動内容は異なりますが、「高齢者が社会や地域から孤立しないよう支える」という共通の目的のもと、民間ならではの柔軟な発想で高齢者を見守り支援しています。
ぜひ興味を持った団体があれば、寄付やボランティア参加という形で皆さんも関わってみてください。「私たちにもできることがある」――そんな前向きなメッセージが感じられる5つの事例です。
4.1 特定非営利活動法人ソンリッサ – 地域見守りと「まごマネージャー」による支え合い

【団体概要】
ソンリッサ(NPO法人ソンリッサ)は群馬県を拠点に、独居高齢者の見守りサービスや地域住民同士の交流促進を行っている団体です。
スペイン語で「微笑み」を意味する名前の通り、高齢者が孤立せず笑顔で暮らせる地域づくりを目指しています。
また地域健康サロンでは、お茶のみや体操、趣味の講座などを通じて高齢者が人と交流できる場を提供し、孤立感の解消に努めています。
特徴的なのは、ソンリッサが地域の若者や住民を「まごマネージャー」として育成している点です。
「まごマネージャー」とは孫のような存在として高齢者を見守り支えるボランティアのことで、研修を受けた地域住民が高齢者宅を訪問して話し相手になったり生活のちょっとした手助けをしたりします。
まさに地域ぐるみの支え合いを仕組み化しているのです。こうした取り組みにより、ソンリッサは行政の手が届きにくい隙間を埋め、高齢者が「ひとりじゃない」と実感できるコミュニティを作り上げています。
支援の具体例: 群馬県内で一人暮らしをする80代女性Aさんは、ソンリッサの見守りサービスに登録後、週1回の電話と月2回の訪問を受けるようになりました。最初は「迷惑かけて悪いね」と遠慮がちだったAさんも、まごマネージャーの大学生が孫のように世間話をしてくれるうちに心を開き、サロンにも顔を出すようになりました。今では「あの子が来てくれるから寂しくないし頑張れるよ」と笑顔を見せています。このようにソンリッサの活動は、高齢者の心に寄り添い孤立を和らげる効果を上げています。
4.2 特定非営利活動法人ひとり暮らし高齢者の笑顔をつくる会 – 「まるで家族」の伴走支援

【団体概要】
大阪府で活動するNPO法人ひとり暮らし高齢者の笑顔をつくる会は、家族のいない高齢者に「まるで本当の家族」のような支援を提供しているユニークな団体です。
高齢者にとって家族同然の存在となり、生活全般を伴走することを理念としています。具体的には、買い物や掃除などの日常生活の付き添い、通院や入院時の付き添い、介護ベッド等の手配、さらには施設入所や入院の際の身元保証人の引き受けまで行っています。
また、万一の際には財産管理や見守り契約、葬儀や納骨の手配、役所への届出といった死後の事務手続きまで担います。まさに高齢者が人生の最期まで安心して暮らせるよう、フルサポート体制を整えているのが特徴です。
こうした包括的な支援が求められる背景には、「身内がいない」「子どもに頼れない」という高齢者の増加があります。前述の通り、未婚や子なしの高齢者は増加しており、身元引受人が見つからないために入院や入所ができないケースも社会問題化しています。
笑顔をつくる会は、そうした高齢者に最後のセーフティネットを提供していると言えるでしょう。スタッフは利用者に寄り添い、日々の見守りから緊急時の駆けつけまで柔軟に対応します。高齢者からすれば「自分のことを気にかけてくれる家族同然の存在」ができることで、孤独感が大きく和らぎ精神的な支えとなります。
支援の具体例: 関西にお住まいの70代男性Bさんは独身で身寄りがなく、不安から入院を拒んでいました。そこで笑顔をつくる会が身元保証人となり入院をサポート。退院後も定期的にスタッフが訪問し、買い物代行や服薬管理をサポートしています。Bさんは「自分にも家族のように頼れる人ができた」と安心し、閉じこもりがちだった生活から外出する意欲も湧いてきたそうです。このように、家族代行の存在が高齢者の心にゆとりと安心をもたらし、結果的に孤立の解消につながっています。
4.3 特定非営利活動法人認知症の人とみんなのサポートセンター – 認知症の本人と家族に寄り添う

【団体概要】
認知症高齢者の増加に伴い、その支援を専門に行う団体も重要になっています。大阪府のNPO法人認知症の人とみんなのサポートセンター(略称:みんなのサポートセンター)は、認知症の当事者と家族、支援者を包括的に支えるために設立された団体です。
特に、既存の公的サービスではカバーしきれない若年性認知症の方や認知症の初期段階の方への支援に力を入れている点が特徴です。
活動の目的は「認知症の本人、家族、その支援者たちが孤立しないよう支援すること」であり、具体的には以下のような活動を行っています。
- 相談支援事業: 専門の相談員が常駐し、認知症の本人や家族からの電話・面談相談に応じています。
平日の日中に相談窓口を開設しており、介護の悩みや対応方法、制度の利用相談など幅広く受け付けています。大阪府や大阪市から認知症相談事業の委託を受けた実績もあり、地域の頼れる相談拠点となっています。 - 居場所づくり・交流会: 認知症の人や家族が安心して集える交流サロンや当事者同士のつどいの場を運営しています。
例えば若年性認知症の当事者グループを定期的に開催し、同じ境遇の仲間と情報交換やおしゃべりができる機会を提供しています。また、認知症の方も参加できるカフェや趣味活動の場を設け、社会との接点を保てるよう工夫しています。 - 研修・啓発活動: 認知症サポーター養成講座や家族向け講習会、介護者のメンタルケア講座などを開催し、地域全体で認知症の人を支える知識と意識の普及に努めています。
専門職向けの研修や、支援方法の研究活動にも取り組み、より良いケアモデルの構築を目指しています。
みんなのサポートセンターの活動によって、認知症になっても「分かってくれる人がいる」「自分の居場所がある」と感じられる環境づくりが進められています。
認知症は周囲とのコミュニケーションが難しくなる分、孤立を深めやすい病気ですが、同センターのような存在があることで本人・家族は大きな心の支えを得ています。行政のサービスともうまく連携しながら、既存制度の狭間で困っている人々を支援するモデルケースと言えるでしょう。
支援の具体例: 60代で若年性認知症と診断されたCさんは、発症当初周囲に理解者が少なく引きこもりがちでした。みんなのサポートセンターに出会い、当事者交流会に参加するようになると「自分だけじゃない」と前向きになり、スタッフの勧めで地域の認知症カフェでボランティアを始めました。同じ経験を持つ仲間と言葉を交わすうちに笑顔が増え、ご家族も「表情が明るくなった」と喜んでいます。このように、認知症の方と家族に居場所と仲間を提供することが孤立の予防につながっています。
4.4 特定非営利活動法人さわやか徳島 – 時間通貨「ありがとう」によるご近所支援
【団体概要】高齢者を地域で見守る仕組みとして注目されるのが、ボランティアの互助ネットワークです。
徳島県藍住町で活動するNPO法人さわやか徳島は、地域の助け合いを活性化するユニークなシステムとして時間通貨「ありがとう」を導入しています。
「時間通貨」とは、ボランティア活動に費やした時間を仮想通貨(ポイント)として貯め、必要なときにサービスを受けられる仕組みです。
さわやか徳島では、高齢者の見守りや買い物代行、通院同行などを担うボランティアに「ありがとう」というポイントを付与し、ボランティア自身や家族が後日支援を受ける際にそのポイントを使えるようにしています。この仕組みにより、助け合いの輪が地域内で循環しやすくなっているのが特徴です。
拠点となっているのは、藍住町内の古民家を改装した常設型の交流サロン「幸せの家・ありがとう」です。
ここに高齢者も子どもも誰でも集まり、お茶を飲みながらお互いの近況を話したり、小学生とお年寄りが一緒に遊んだりと、世代間交流が生まれる場となっています。
また、この家を拠点にボランティアが見守り訪問や送迎支援に出向き、高齢者の日常生活をサポートしています。利用者(支援される側)は感謝の気持ちを込めてボランティアに「ありがとう券」を渡し、ボランティアはそれを貯めて自分が病気の際に買い物支援を受けたり、将来自分が高齢者になったときに使える、といった具合です。
このような時間銀行・ポイント制を用いた互助システムは、お金ではなく思いやりの循環で成り立っているのがポイントです。
高齢者にとっては近所の人から見守ってもらえる安心感が得られ、ボランティアにとってもいずれ自分も助けてもらえるという相互扶助の意識が働くため、活動が長続きしやすくなります。結果として地域全体で支え合う土壌ができ、高齢者の孤立防止に大きく寄与しています。
支援の具体例: 藍住町の独居高齢者Dさんは、週に一度近所の主婦ボランティアから掃除と話し相手の訪問を受けています。Dさんは「誰にも頼れず不安だったけど、今は近所に娘ができたみたい」と喜び、ボランティアの主婦は活動で貯めた「ありがとう」を自身の親御さんの介助サービスに充当しています。双方にメリットがある仕組みにより、Dさんは孤立することなく地域の中で安心して暮らせています。
4.5 特定非営利活動法人思いやり広場 – 24時間見守りサービスで安心を届ける

【団体概要】
名古屋市を拠点とするNPO法人思いやり広場は、テクノロジーと人の力を組み合わせて高齢者を見守る24時間見守りサービスを提供しています。
行政による見守りサービスは平日昼間のみなど限定的な場合も多い中、思いやり広場は365日・24時間体制で高齢者の異変に対応できる体制を整えているのが強みです。
具体的には、自宅に緊急通報装置や生活センサーを設置し、離れて暮らす家族やコールセンターが常時見守ります。利用者がペンダント型の緊急ボタンを押したり、一定時間動きが検知されなかったりすると、コールセンターの看護師・介護福祉士等が状況確認し、必要に応じて駆けつけ支援を行います。
さらに、このサービスの大きな特徴は月1回の定期訪問を組み合わせている点です。
見守り機器による異常検知だけでなく、ホームヘルパーなど有資格者が毎月利用者宅を訪問し、30分程度の対話や生活相談を行います。
これにより、高齢者は顔の見える関係性を築くことができ、「何か困ったことがあればいつでも相談できる人がいる」という安心感を持てます。
定期訪問で話し相手ができる副次効果として、高齢者が振り込め詐欺や悪質商法に騙されにくくなるというメリットも報告されています(常に誰かが気にかけてくれている状況だと、不審な電話よりまず見守りスタッフに相談しようと思えるため)。
思いやり広場のサービスは有料(月額料金制)ですが、自治体の補助や寄付金によって低所得の高齢者でも利用できるよう配慮されています。
「行政だけではカバーしきれない人にも元気で安心できる暮らしを提供したい」という想いから始まったこのサービスは、孤立しがちな元気高齢者(要支援認定などは受けていないが不安を抱える独居高齢者)の見守りに一役買っています。
支援の具体例: 子どもが遠方に住む一人暮らしの80代女性Eさんは、夜間の転倒が心配で思いやり広場の見守りサービスを利用開始。ある夜、トイレで転んで起き上がれなくなりましたが、センサーが反応してコールセンターが即座に対応。駆けつけスタッフにより大事に至らず済みました。Eさんは「誰にも気付かれず朝まで倒れていたかもしれない。このサービスのおかげで命拾いしました」と感謝しています。また、毎月の訪問を楽しみにしており、「娘のように何でも話せる人ができた」と孤独感の軽減にもつながっています。
以上、5つの団体をご紹介しました。
それぞれアプローチは異なりますが、高齢者の孤立を防ぎ安心して暮らせる社会を目指すという点では共通しています。
こうした高齢者支援にどのように関わることができるでしょうか。最後に、「自分ごと」としてできる具体的なアクションの提案とメッセージをお届けします。
5. 高齢者支援は「自分ごと」-私たちにできること
超高齢社会の課題は、決して高齢者だけの問題ではありません。
現在働き盛りの30代の私たちも、数十年後には確実に高齢者となります。また、自分の両親や親族が支援を必要とする場面も訪れるでしょう。
高齢者支援への取り組みは、未来の自分たちへの投資でもあります。今から少しずつでも関心を寄せ、行動することで、将来の自分たちが安心して年を重ねられる社会づくりにつながります。ここでは、私たち一人ひとりが今日から始められる具体的アクションをいくつか提案します。できることから取り組み、支援の輪を広げていきましょう。
5.1 信頼できる団体を見つけ継続的に支援する
まずは、自分が共感できるミッションを持った信頼できる団体を見つけ、可能であれば継続的な寄付という形で支援してみましょう。
上で紹介したようなNPOは、ホームページや報告書で活動内容や財務状況を公開しているので、賛同できる団体を選びやすいはずです。
毎月定額を寄付するマンスリーサポーターになれば、一度の負担は小さくても年間を通じて大きな支えとなります。
例えば「1日コーヒー1杯分の寄付」を積み重ねるだけで、高齢者の見守り活動を長期的に後押しできます。継続支援を行うことで、団体側も安心して計画的に事業を展開でき、より多くの高齢者を支援できるようになります。
寄付した後は、ぜひ団体から届くニュースレターやSNS情報に目を通してみてください。
自分の寄付金がどんな高齢者にどう役立っているのか具体的な報告を知ることで、支援の手応えを実感できますし、モチベーションも続きやすくなります。そして身近に同じような寄付者が増えれば、周囲にも関心が広がり寄付の輪がさらに大きくなるはずです。

5.2 ハードルを下げて小さなアクションから始める
「毎月寄付するのはちょっと不安」「経済的に余裕がない」という方もご安心ください。
最近は少額から気軽に参加できる寄付の仕組みが充実しています。例えば、インターネットでワンクリック寄付ができるサイトや、通販サイトのポイントをNPOに寄付できるサービスなどがあります。
また、クラウドファンディングで高齢者支援プロジェクトに1000円だけ支援するといったスポット寄付も立派な一歩です。
街頭募金やコンビニ募金箱に硬貨を入れる感覚で、オンラインでも「◯◯円から支援できます」といった機会が増えています。
少額でも寄付者が増えれば大きなインパクトにつながりますし、支援者数が増えること自体が社会の後押しとなって団体の信用力向上にもつながります。
まずは無理のない範囲で、自分にできる小さなアクションから始めてみましょう。塵も積もれば山となる――あなたの500円、1000円が集まれば、高齢者の孤立を救う大きな力になります。
なお、寄付以外にも時間や労力を提供するボランティアという形もあります。
直接人と接するボランティアはハードルが高く感じられるかもしれませんが、NPOによっては単発イベントの手伝い募集や、オンラインでできる事務ボランティアなどもあります。
「いきなり知らない高齢者のお宅に訪問」は難しくても、送迎車の運転手やサロンでのお茶出しスタッフなど、自分の得意なことを活かせる場があるかもしれません。各団体の募集情報をチェックして、自分に合った関わり方を探してみてください。
5.3 多様な支援スタイルを活用する
高齢者支援の方法は寄付やボランティアだけに限りません。
最近では、新しい支援スタイルも登場しています。例えば、自治体への寄付で税控除が受けられるふるさと納税を活用し、その使い道を高齢者福祉に指定することもできます。
企業にお勤めの方であれば、社員の寄付額と同額を会社がマッチング寄付するマッチングギフト制度がある場合も。それらを利用すれば寄付額が2倍になり、より大きな支援につながります。
また、クラウドファンディングで支援してリターン品を受け取るのも一つの方法です。
高齢者が手作りした工芸品や、お礼の手紙などが届くプロジェクトもあり、支援の実感が湧きやすいでしょう。
さらに近年注目されているのが、遺贈寄付(遺産の一部をNPOに寄付する)や株式・暗号資産での寄付といった方法です。これは主に富裕層向けの選択肢ですが、自分の人生の締めくくりとして社会に還元したいという思いから、高齢者支援団体へ遺贈を考える方も増えてきています。
このように、私たちの周りには様々な「参加しやすい支援の形」があります。従来の枠にとらわれず、自分に合ったスタイルで高齢者支援に関わることが大切です。
寄付でもボランティアでも、「やらない善よりやる偽善」です。最初はきっかけが何であれ、行動を起こすこと自体に大きな意義があります。その一歩が将来の当たり前の支え合い文化につながっていくでしょう。
5.4 周囲に広め、時間を寄付する
高齢者支援の輪を広げるために、周囲への発信もぜひ挑戦してみてください。
自分が応援したい団体の活動についてSNSで紹介したり、家族や友人との会話で話題に出したりするだけでも立派な貢献です。
「こんな素敵な取り組みがあるよ」とあなたが発信することで、それまで知らなかった人にも知識が広がり、新たな支援者が生まれるかもしれません。
寄付やボランティアはまだハードルが高いという方でも、情報を共有することなら気軽にできます。些細なことに感じるかもしれませんが、これも大切な支援の一つです。
可能であれば、実際に現場のボランティアに参加してみるのも有意義です。
高齢者宅への訪問ボランティアや、サロンイベントのスタッフなど、時間を「寄付」する形で関わってみると、支援活動のリアリティが一気につかめます。
自ら汗を流すボランティアを経験することで、寄付者とはまた違った視点から高齢者支援を理解でき、自分自身のコミットメントも強まるでしょう。
支援する側・される側の両方の立場を知ることで、より継続的で効果的な関わり方が見えてくるはずです。
最後に: 超高齢化が進む日本において、限られた現役世代で高齢者を支え合う必要性は今後ますます高まります。
高齢者支援への寄付やボランティアは、行政だけでは行き届かない領域を市民の力で補い、社会全体でお年寄りを支えるための重要な手段です。
幸いなことに、ここ数年で支援制度の充実や成功事例の蓄積も進み、「支えたい」という善意が形にしやすい環境が整いつつあります、例えば、孤独だった高齢者が地域の見守りによって再び笑顔を取り戻したり、支援を受けた世代が今度は支援する側に回ったりと、助け合いの連鎖も生まれ始めています。
私たち一人ひとりも、できることから行動を起こすことでその連鎖に加わることができます。そして、その小さな一歩の積み重ねが「孤立しない社会」「誰もが歳をとることを恐れない社会」への大きな推進力となるのです。
高齢者支援への寄付や参加は、決して他人のためだけでなく未来の自分への贈り物でもあります。ぜひ身近なところから関心を持ち、私たちの未来を明るくするためのアクションを起こしていきましょう。一人でも多くの高齢者が安心して暮らせる社会づくりに、あなたの力を貸していただけると幸いです。
参考情報(一部): 内閣府『高齢社会白書』www8.cao.go.jp、厚生労働省『国民生活基礎調査』nippon.com、朝日新聞serai.jpserai.jp、認知症の人とみんなのサポートセンター資料minnanospc.grupo.jp 他.