【虐待とは何か?】どこからが虐待?その種類と形について

虐待とは、身体的、精神的、性的、経済的な暴力や無視によって、被害者の心身に重大な損傷を与える行為を指します。

この行為は一時的なものではなく、繰り返し行われる場合が多く、その結果、被害者に深刻なトラウマや社会的な孤立をもたらします。

虐待は家庭内に留まらず、学校、職場、介護施設など、さまざまな場所で発生し、こうした場所では、力関係の不均衡が虐待を助長する一因となることが多いのです。

今回は日本における大きな社会問題のひとつ『虐待』について考えていきたいと思います。

虐待の種類と具体的な事例

虐待は以下の5つの種類に分類されます。それぞれの虐待は単独で発生することもあれば、複数が同時に行われることもあります。

  1. 身体的虐待
    身体に直接的な傷害を与える行為で、最も分かりやすい形の虐待です。
    殴る、蹴る、首を絞める、逆さ吊りにする、熱湯をかけるなどの行為が含まれます。このような行為は、被害者に即座に外傷を残すことが多いため、他人からも発見されやすい一方で、隠蔽されるケースも少なくありません。
    特に、子どもや高齢者の身体的虐待は、発見されるまで長期間続くことがあり、重大な結果をもたらす危険性があります。
  2. 心理的虐待
    言葉や態度による心理的攻撃が行われる虐待です。罵声を浴びせたり、無視をしたり、脅迫することで、被害者の自尊心を傷つけ、心理的な苦痛を与える行為が含まれます。
    心理的虐待は、外部からは見えにくいため、周囲の人が気づかないことが多いです。しかし、被害者に与える影響は非常に大きく、長期間にわたり精神的なダメージを残します。例えば、親が子どもに「お前なんかいらない」と言い続ける行為は、子どもの自己肯定感を著しく損なう結果を長期的にもたらします。
  3. 性的虐待
    被害者に性的な行為を強要する虐待です。性行為そのものだけでなく、性的な触れ合いやポルノグラフィーの製作に関与させることも含まれます。
    性的虐待は、特に子どもや女性に対して行われることが多く、被害者は強い恐怖や恥辱を感じ、長期にわたりトラウマを抱えることになります。また、性的虐待は家族内で発生することが多く、被害者が声を上げにくいという特徴があります。
  4. ネグレクト(育児・介護放棄)
    必要な世話を怠ることで、被害者を放置する虐待です。
    適切な食事を与えない、医療を受けさせない、家に閉じ込めるなど、養育や介護の責任を果たさない行為が該当します。
    ネグレクトは、被害者の身体的発達や健康に深刻な影響を与えるだけでなく、心理的な孤立感や不安感を強めます。特に、幼い子どもや高齢者は自力での対処が難しいため、生命の危険が伴うことがあります。
  5. 経済的虐待
    被害者の財産を不当に操作する虐待です。
    金銭を取り上げたり、使わせない、本人の知らないうちに資産を処分する行為も含まれています。高齢者や障害者に対して行われることが多く、本人が気づかないまま搾取されるケースが少なくありません。経済的虐待は、被害者の生活基盤を脅かすだけでなく、将来的な生活の質を大きく損ないます。

どこからが虐待なのか?その境界線とは

虐待としつけ、または介護と放置の境界線はしばしば曖昧です。
例えば、子どもに対して厳しいしつけを行うことは、育児の一環として必要である場合もありますが、それが過度になると虐待とみなされることがあります。この境界線を理解するためには、次のような視点で見てみましょう。

しつけと虐待の違い

しつけは、子どもが自分の行動に対する結果を理解し、社会のルールに従うことを学ぶために必要な教育的行為です。
例えば、悪いことをした場合に適切に叱ることはしつけの一環ですが、その際に子どもが理解できるように説明し、一貫したルールに基づいて行うことが重要です。

一方、虐待は、大人の気分や理不尽な理由によって罰が課される理不尽な行為です。
子どもが何をしても報われず、心理的・身体的に傷つけられることで、健全な成長が妨げられます。しつけと虐待の違いは、行為者が子どもに対して一貫した教育的意図を持っているかどうか、そしてその行為が子どもの成長を促進するものであるかどうかにあります。

ネグレクトと介護放棄の違い

ネグレクトと介護放棄も同様に、その境界が曖昧になることがあります。
特に高齢者介護においては、介護者が意図的に放棄するのではなく、介護疲れや過労から十分なケアができなくなる場合もあります。しかし、意図的に必要な世話を怠ったり、医療や福祉サービスの利用を拒む場合は、明確に虐待と見なされます。

このように、しつけや介護における「適切さ」を判断することは容易ではありませんが、行為が被害者の健康や成長に悪影響を与える場合、それは虐待と認識されるべきでしょう。

子ども、成人、高齢者ごとの虐待の特徴

子ども虐待

子どもに対する虐待は、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトの4つのカテゴリに分けられます。それぞれの虐待は単独で発生することもあれば、複数が絡み合って子どもに影響を及ぼすこともあります。
特に注意すべきは、虐待を受けた子どもは心に深い傷を負い、成長後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)やトラウマに苦しむ可能性が高いという点です。

児童虐待は家庭内で発生することが多く、親や親代わりの大人が加害者となります。親が意識的に虐待を行う場合もあれば、しつけや育児の一環として無意識に虐待を行っているケースもあります。このため、虐待としつけの違いを理解し、社会全体で子どもたちの健全な成長を支援することが重要です。

成人虐待

成人への虐待は、主に家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス、DV)や心理的虐待として現れます。特に、夫婦間やパートナー間で発生するDVは、身体的な暴力だけでなく、言葉による暴力や経済的な支配も含まれます。これにより、被害者は自立する力を失い、加害者との関係から抜け出せなくなることが多いのです。

成人虐待は、家族内だけでなく、職場や友人関係でも発生します。職場でのパワーハラスメントやいじめは、精神的な負担となり、長期間にわたり被害者の生活に影響を与えます。また、社会的な孤立が虐待を助長することがあるため、周囲のサポートが不可欠です。

高齢者虐待

高齢者虐待は、身体的虐待や介護放棄、経済的搾取が中心となります。特に介護者が過度な負担を抱え、ストレスや疲労から虐待に至るケースが多く見られます。
例えば、認知症の高齢者に対する暴力や無視、必要な医療サービスを提供しないといった行為が挙げられます。

高齢者虐待の問題は、家庭内だけでなく、介護施設でも発生することがあります。
施設職員による虐待は、被害者が弱い立場にあるため、発覚しにくいことがあります。高齢者が安心して暮らせる社会を実現するためには、介護者への支援強化や介護施設の監視体制の整備、さらに施設職員の心理的ストレスの解消や、職場環境の改善などが求められています。

虐待を終わらせるために

社会的支援と法律

虐待を防止し、終わらせるためには、社会全体での取り組みが必要です。
早期発見と通報、そして被害者の保護が重要なステップとなります。法律に基づく対応策と、地域社会でのサポート体制を強化することが求められます。

  • 児童相談所への通報: 虐待の兆候が見られた場合、速やかに児童相談所(189「いちはやく」)に連絡することが推奨されています。
    児童相談所は、子どもと親に対する相談や支援を行い、一時保護の手続きを取ることができます。また、地域の保健師や福祉専門家と連携して、被害者への継続的なサポートを提供しています。
  • 高齢者虐待防止法の活用: 高齢者虐待に関しても、地域の福祉機関や介護施設が連携し、早期に対策を講じることが求められています。
    市町村は、高齢者虐待の通報を受けた場合、事実確認を行い、必要に応じて被害者を一時的に保護する措置を取ることができます。また、施設内での虐待が発覚した場合、都道府県知事は施設に対して適切な措置を講じる義務があります。
  • 地域ネットワークの重要性: 虐待を防ぐためには、地域社会のサポートネットワークが不可欠です。家庭が孤立しないよう、地域住民や学校、医療機関が連携して支援体制を整える必要があります。
    定期的な家庭訪問や地域の見守り活動を通じて、虐待のリスクを早期に発見することが期待できます。

虐待を終わらせるための具体的なステップ

  • 通報義務の強化: 虐待を疑った場合、法律に基づき速やかに通報することが義務付けられています。通報によって、虐待の早期発見と介入が可能となり、被害者の安全を確保することができます。特に、家庭内での虐待は外部からの介入がなければ解決しにくいため、周囲の関心と協力が重要です。
  • 教育と啓発活動の推進: 社会全体で虐待防止に取り組むためには、啓発活動も必要です。学校や職場、地域の集まりなどで、虐待に関する正しい知識を共有し、周囲の理解を深めることが効果的です。特に、虐待の兆候に気づくための教育が不可欠であり、誰もが気軽に相談できる環境を整えることが大切です。
  • 介護者・保護者のサポート強化: 介護や育児の負担が重くなる前に、地域や福祉団体の支援を受けられるようにすることが重要です。
    特に、精神的・身体的なサポートを提供するためのカウンセリングや、ケアを分担する仕組みづくりが必要です。例えば、育児中の親や介護者が一時的に休息を取れる「レスパイトケア」などのサービスが推奨されています。

虐待に対する社会の向き合い方

虐待は家庭内だけの問題ではなく、社会全体が直面する課題です。社会として虐待にどう向き合うべきかを考え、具体的な行動を起こすことが求められています。

社会全体での取り組み

  • 通報・相談の奨励: 虐待が疑われる場合には、ためらわずに通報や相談を行いましょう。
    通報は、被害者の命を救う重要な手段であり、早期介入によって虐待のエスカレートを未然に防ぐことができます。また、通報者の匿名性を確保することで、通報へのハードルを下げ、誰もが関与しやすい環境を作ることが大切です。
  • 支援体制の強化: 行政や福祉機関だけでなく、地域社会全体が虐待防止に向けたサポート体制を構築する必要があります。例えば、地域ボランティアによる定期的な家庭訪問や見守り活動、育児や介護の負担を軽減するための地域資源の活用などが効果的であると考えられています。
  • 教育と啓発活動の強化: 社会全体での虐待防止には、教育と啓発活動が欠かせません。学校や地域でのセミナーやワークショップを通じて、虐待に対する理解を深めるとともに、早期発見のための知識を普及させることが重要です。教師や介護者など、日常的に子どもや高齢者と接する立場の人々への研修が効果的です。

社会的な偏見の除去

「虐待は特定の家庭だけに起こる問題」という偏見や誤解をなくすことも重要です。
誰にでも起こり得る問題として向き合い、社会全体が関心と支援する姿勢を持ち、被害者や加害者を孤立させないことが重要です。

例えば、育児に悩む親を責めるのではなく、支援の手を差し伸べる理解と寛容な姿勢が重要です。

虐待防止の未来像

虐待を完全になくすことは、非常に難しい課題でしょう。

しかし、社会全体で努力を続けることで、虐待のリスクを最小限に抑え、被害者が救済される社会を実現することは可能なのかもしれません。ここからは、筆者自身の視点から虐待防止の未来像について考えてみたいと思います。

デジタル技術を活用した虐待防止

近年、デジタル技術の進化により、虐待防止に役立つツールが増えてきています。例えば、家庭内での異常を検知するセンサー技術や、AIを活用した虐待リスクの予測システムなどが開発されています。これらの技術は、早期に虐待の兆候を発見し、被害者を守るために重要な役割を果たすでしょう。

さらに、オンラインでの相談サービスやチャットボットによるサポートも広がっており、被害者がいつでもどこでも支援を受けられる環境が整いつつあります。
こうしたデジタル技術の普及により、虐待に対する社会的な支援がより効率的かつ広範囲に提供されることが期待されています。

コミュニティベースのアプローチ

今後、地域コミュニティが虐待防止の中心的な役割を担うことが望まれます。地域住民同士が支え合い、見守り、助け合うことで、家庭の孤立を防ぎ、虐待のリスクを減らすことができます。
近隣同士での子育て支援や高齢者見守り活動、地域の育児・介護相談会の開催など、コミュニティベースの取り組みが鍵となるでしょう。

これに加えて、地域での相互理解を深めるためのイベントや、住民同士が気軽に話し合える場を設けることで、孤立しがちな家庭がサポートを受けやすい環境を作り出すことができます。

法制度のさらなる強化と国際協力

日本国内での虐待防止策をさらに強化するとともに、国際的な協力も重要です。特に、子どもや女性に対する性的虐待や人身売買に関しては、国際的な連携が不可欠です。

各国の法制度や取り組みを共有し、最善の対策を導入することで、グローバルな視点から虐待を減らす努力を進めていくべきです。

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投稿者: FIRST DONATE編集長 髙崎

非営利団体のファンドレイジング/広報支援を生業とするDO DASH JAPAN株式会社スタッフであり、FIRST DONATE編集長。 自身の体験を元に、寄付やソーシャルグッドな情報収集/記事制作を得意とする。